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櫻井よしこ「大炎上」に見る保守言論の衰退。なぜネトウヨは女教祖を見捨てたか?愛国・韓国・カルト三店方式の限界点

「あなたは祖国のために戦えますか」と上から目線で発言し、Z世代の若者から「おまえが先頭を切って戦場に行け」「老人が若者を犠牲にするな」など、至極ごもっともな批判を浴びたジャーナリストの櫻井よしこ氏(78)。SNSでは「統一教会とベッタリの自称愛国バアサン」「韓国スパイ疑惑はどうなった。いつになったら告訴するんだ?」など随分辛口のツッコミも増えているようです。このような櫻井氏の「炎上」を、ネット保守言論衰退の現れと見るのはメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さん。今いったい何が起きているのでしょうか。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題「櫻井よしこ『X』炎上に見る保守言論の衰退」

Z世代から大ブーイング、櫻井よしこ氏の落日

ジャーナリスト、櫻井よしこ氏は1月19日、自身の「X」に次の投稿をした。

「あなたは祖国のために戦えますか」。多くの若者がNOと答えるのが日本です。安全保障を教えてこなかったからです。元空将の織田邦男教授は麗澤大学で安全保障を教えています。100分の授業を14回、学生たちは見事に変わりました

「国のために命をかけよ」と説いた安倍元首相の持論を思い出す。安倍氏が健在なら、安倍シンパである櫻井氏に賛同する保守言論人やネトウヨ(ネット右翼)の投稿があふれたことだろう。

ところが、実際には櫻井氏を批判するコメントが殺到し、炎上した。

自身の「ホーム」ですら有効な反論できず

これに対し、櫻井氏は「櫻井よしこの言論テレビ」のサイトで「大反論!」と題する文章を掲載した。下記はその一部だ。

今は日本が戦争しに外に行く時代ではなく、戦争が向こうからやってくる時代です。織田さんは学生たちに一人一人が国防に果たせる役割を説きました。<中略>
それに対して女性雑誌やスポーツ新聞などが激しい言葉で反論してきました。
《先ず櫻井よしこよ、お前が銃を持ち先頭切って戦いに行け》《櫻井よしこ、お前が率先して行け。人の命を軽んじるな!!》」などと書いています。
「『自分は戦場に行く気もない人間がこういうことを言うんだよね』『老人が若者を煽ってはいけません』『祖国のためではなく、権力者のために血を流すことに若者も年寄りもNOと言っているのです』」とも書いています。

女性雑誌やスポーツ新聞が反論してきた内容というより、櫻井氏の「X」に寄せられた批判投稿の数々である。もちろん中には、櫻井氏に賛同する声もあるが、圧倒的に少ない。

戦争に行くはずのない櫻井氏のような人が「あなたは祖国のために戦えますか」などと、上から目線で、若者を煽るべきではないという趣旨のコメントが多いようだ。

エセ保守言論はなぜ衰退したのか

櫻井氏への賛同が少ないのはなぜだろう。いかにネトウヨ諸氏といえど、自分が祖国のために戦えるかとなると、考え込むのかもしれない。ただひたすら、安倍氏を批判する者に対してネット上で罵ってきただけなのではないだろうか。

ネトウヨとは本当の右翼でもなければ保守でもない。自分はパソコンの前の安全な場所にいて、キーボードを叩く以外は何も行動しない人たちである。だから、同じように安全な場所から若者の国防意識の覚醒を呼びかける櫻井氏への批判コメントに対抗できないという面もあるだろう。

だが、このところいわゆる保守言論やネトウヨ的な発信じたいが下火になってきているような気がする。安倍元首相という“崇拝対象”を失ったうえに、岸田自民党への不満が鬱積しているのが根本原因かもしれない。

よく岩盤支持層とか保守層の自民党離れといわれるが、自称、他称、似非も含め、保守派といわれる人々が、安倍氏が亡くなったあと、接着剤がきかなくなってバラけはじめ、自民党では無所属の高市早苗・経済安全保障担当相を頼みとするか、自民党に見切りをつける場合は、保守色の強い日本維新の会や参政党などへと支持政党を変更する動きを見せてきた。

とりわけ、安倍元首相に近い思想信条を持つとみられた萩生田政調会長(当時)がいながら、「LGBT理解増進法」を成立させたことに対する保守派の落胆と反発は激しく、「LGBT法が成立するなら、新党を立ち上げる」と宣言していた安倍シンパのベストセラー作家、百田尚樹氏はジャーナリストの有本香氏とともに「日本保守党」を立ち上げた。

日本保守党は、百田氏の漫才のような語り口がユーチューブ番組で人気を呼び、昨年9月に結党したばかりだというのに、「X」のフォロワー数が33万をこえている。ちなみに自民党のそれは25万ていどである。

こうした状況は、政局にも影を落としている。安倍氏の後継者たらんとしのぎを削ってきた安倍派“五人衆”に対する保守層の期待感はもはや皆無に近い。

岸田首相が「派閥解消」を画策し、岸田派のほか、安倍派、二階派、森山派を解散に追い込んだのは周知の通りだが、それができたのも、指導者不在と統一教会問題によって弱体化した最大派閥・安倍派に、パーティー券裏金事件が追い討ちをかけ、党内のパワーバランスが崩れたからだ。

「愛国者」安倍氏と韓国カルトの蜜月

安倍氏が凶弾に倒れたあの日から、安倍シンパの論者たちを襲ってきたのは、信じる政治家を失った悲しみと、アンチ安倍的言論を叩く喜びが激減した空虚さ、そして、銃撃犯の供述がもとでクローズアップされた統一教会と安倍派の不都合な関係だった。

あれほど嫌ってきた韓国に本部をかまえる宗教団体が、あろうことか、安倍元首相、あるいはその派閥と仲がよく、秘書や選挙スタッフまで送り込んでいる。

しかも、その教祖は「日本は罪を清算するために韓国に貢献しなければならない」とか、「アダムの国韓国に隷属するイブの国でなければならない」などと説いているのである。

櫻井よしこ氏にも「韓国国情院」との黒い疑惑

櫻井氏はそのような統一教会の正体を知っていたのだろうか。

気になるのは、2021年8月10日、韓国「MBCテレビ」が放映した「不当取引、国情院と日本極右」と題する番組だ。

櫻井氏が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」が韓国情報機関「国家情報院」から情報や金銭などの支援を受けてきたというような内容だが、これについて櫻井氏らは「国情院を含むいかなる外国政府機関から支援を受けたことはありません」と否定し、名誉毀損行為だとして謝罪と訂正放送を求めている。

ただ、櫻井氏については大きな謎がある。

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極右の女教祖・櫻井よしこ「思想転向」の謎

「クリスチャン・サイエンス・モニター」の記者を経て日本テレビの「きょうの出来事」のキャスターをつとめ、中国残留孤児についての感動的なルポを書き、薬害エイズ問題で、帝京大学元副学長、安倍英氏に単独突撃インタビューを敢行していた1990年代中盤の櫻井氏は、どちらかといえばリベラルなジャーナリストだったように思う。

彼女はどこで、どのようにして変質し、右翼の女教祖のようにまつり上げられていったのだろうか。

「国家基本問題研究所」を設立し初代理事長に就いたのは2007年12月のことだった。

「美しい国づくり内閣」「戦後レジームからの新たな船出」と唱えて安倍晋三氏が第一次政権をスタートさせたのが2006年9月。

二人は、その頃に知り合ったのかもしれない。

その後、櫻井氏が安倍政権を支える「日本会議」「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の大看板になっていったのは言うまでもない。

櫻井よしこ氏と旧統一教会のただならぬ関係

この鮮やかな変身の背後に、大きな力が働いていなかったのかどうか。韓国の情報機関については知る由もないが、櫻井氏もまた統一教会と関係があったのは間違いない。

事実、櫻井氏は2012年4月、「世界日報」の読者でつくる「世日クラブ」の設立30周年を記念する講演会で「日本よ、勁き(つよき)国となれ」と題して講演している(ふりがなはMAG2NEWS編集部)。

本来なら、日本は侵略の罪を清算すべきと言う統一教会と、日本の国体を重視する日本会議は根本から相容れないはずである。

しかし、そこはあえて無視し、反共産主義という一致点だけで協調してきたすえに、深刻な矛盾が露呈したかたちとなった。

日本会議、統一教会ともに安倍派を主要なパイプとして日本の政治に関わってきた。その安倍派が解散を決め、自派閥を継続する茂木幹事長は追い討ちをかけるように、安倍派幹部たちに離党や議員辞職まで含めた政治責任を判断せよと求めている。

刑事訴追を免れたとはいえ、彼らがケジメをつけられないようでは、国民からの不満が高まり、次期衆院選への影響が避けられないとの判断からだろうが、このさい、安倍派の実力者を党外に追いやることで、ポスト岸田レースを有利にしたいという思惑もありそうだ。

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岸田首相「独り勝ち」の後に残る懸念

だが、皮肉なことにその茂木派から、昨年6月に亡くなった“参院のドン”青木幹雄氏が総理にしたいと願った小渕優子選対委員長と、青木氏の長男、青木一彦参院議員が離脱した。

そのほか、青木氏の息のかかった参院自民の幹部3人と衆院議員2人が同派を退会する予定で、茂木派分裂の様相を呈してきた。

麻生派からも、岩屋毅元防衛大臣が離脱を表明しており、麻生副総裁の権力基盤は大きく揺らいでいる。

まさに、派閥という泥船からいっせいに議員たちが逃げ出しているような状況だ。党内は混沌とし、これまでの勢力図は消滅しつつある。

はっきり見えているのは、派閥の実力者たちが力を失った一方で、党と政府のトップである岸田首相だけが依然として権力を握り続けているということだ。

この政治状況を、岸田首相が深慮遠謀で生み出したとは思えない。おそらく、追い詰められたあげく、最後の一手として打った「派閥解消」策が図に当たったということなのだろう。

ひとまず麻生氏を封じたことにより、当面の危機は乗り切れたといっていいのかもしれない。

しかし、政治資金の透明化を断固としてやり遂げようという気迫は、岸田首相から微塵も感じられない。

「派閥解消」が焦点ずらしだと国民に見透かされているためか、内閣支持率も岸田首相が目論んだほどには好転していない。

今後、解散・総選挙を打つことができなければ、9月の党総裁選が近づくとともに、政策集団という名の派閥が次々と誕生するだろう。

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安倍派とネット保守言論の凋落が示す前途多難

解体された派閥の安倍シンパや高市早苗氏ら党内の保守系議員が結集すれば、保守言論も息を吹き返し、岸田批判がより強まる可能性がある。

再び長期政権へ色気を見せ始めた岸田首相だが、数々の難所が待ち受けているのは間違いない。

「あなたは祖国のために戦えますか」と問いかける櫻井よしこ氏が“炎上”するさまは、ネットの保守言論がかつての活気を失っている現状を物語っている。

それは、最大派閥・安倍派の凋落と底流でつながり、自民党の今後へも不気味な警告となっている。

「派閥解消」「派閥パーティー禁止」など、見せかけの党改革で乗り切れるほど、世間は甘くない。

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image by: 櫻井よしこ @YoshikoSakurai X | 不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

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