中国にも行かず「習近平が台湾と尖閣を取りに来る!」と騒ぐ日本の右翼政治家も同じ穴のムジナ。イラク戦争の教訓を学ばない愚かなバイデン

 

イラク戦争の教訓に学ぶべき台湾危機を煽る日本の右派政治家

サダムは本当にそれほどCIAを信頼していたのかどうか。あるいはそのように周りに説明して大量破壊兵器保有のデマを敢えて放置して、米国を戦争に引き摺り込もうとしたのか。いずれにしてもCIAにはイラクに大量破壊兵器がもはや存在しないことを知っている者は少なからずいただろう。にも関わらずその声がホワイトハウスにまで届かなかったのは、コールによれば、CIAはじめ経験ある分析家の間では政界や世間に広まっている考えに安易に同調する「集団思考(グループシンク)」の傾向が強く、それが判断ミスを生む温床となった。

政治家のトップでも、例えば98年にクリントン大統領が英国のブレア首相と個人的にサダムについて話した際に、自分たち2人をはじめ両国の外交官も誰一人としてこの何年もの間、サダムと話をしていないことを嘆き合っている。クリントンは「もし自分が出来るのなら、電話器を取り上げてあの野郎を呼び出すだろう。しかしそれは米国では危険極まりないことで、もし私がそんなことをすればたちまち炎上してしまうだろう。だけどやっぱり彼と話をすべきなんだよな」と言っていた。確かに、コールが調べた限りでは91年以来、米国のこれと言う高官でサダムやその側近と直接言葉を交わした者は一人もいない。

このような対話も外交交渉もなしに相手の考えを勝手に推測して相手を「ヒトラーのような独裁者」などと決めつけ、戦争や武器支援などの全面対決に踏み切ってしまうという形は、イラク戦争だけの話ではなく、米国のロシアやハマスへの非難、ウクライナとイスラエル支援の現状にも共通している。コールはそのことに触れていなさそうだが、イラク戦争の教訓を誰よりも学ぶべきはバイデンだろう。それに、中国に行って対話を試みたこともなしに「習近平が台湾と尖閣を取りに来る」と騒いでいる日本の右翼政治家も、である。

ところで、一言付け加えさせて頂くと、ここでコールが言っていることの多くは、私が9・11直後から本誌で書いていることである(『滅びゆくアメリカ帝国』=にんげん書房、2006年9月11日刊で、本誌01年9月17日号から06年5月15日号までの主要関連記事を収録)。

コールの功績は、フセイン政権の残した第1次資料に基づいて改めて事実を検証したことにあるが、ブッシュ子がアフガン戦争へ、イラク戦争へとのめり込んでいくのと同時代的に対決し、その判断の間違いを指摘し続けたのは私の小さな功績として自慢させて頂いていいことなのかもしれない。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年3月4日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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