仮設住宅にも度々訪問させていただきましたが、そこにいるのは高齢者ばかりでした。といっても、ほとんどは3月11日の14時46分まで、元気に働いていた高齢者です。
家族で魚の加工工場を営んでいた75歳の男性や、30年以上も地元で愛されるラーメン屋さんをやっていたと話すご夫婦、息子さんと小さな食堂をやっていた80歳の女性もいました。なかには「補助金を借りたくても、長く続けないとダメだからって借りれねえんだよ。どうやって生活しろってんだよ」と憤る人もいました。
また、「ここじゃぁ、75歳は若手だから」と笑っていた女性とは、その後も交流させていただいたのですが、震災から5年ほど経った時の年賀状に書いてあった言葉が実に切なくて、時間の経過と共にその言葉の重みは増していきました。
「震災の時70歳だった人は75歳、75歳だった人は80歳。人は減る一方で、話す相手も減るばかり」――。こう記されていたのです。
宮城県で行われた調査では、2016年3月末時点で総人口に占める65歳以上の割合が35%を超える自治体は7市町にのぼり、女川町や気仙沼市など、津波の被害が激しかった自治体が多く並びました。岩手、宮城、福島の3県の災害公営住宅で高齢化率は4割超に達し、全国の公営の借家の高齢化率より6ポイント高いこともわかっています。
東北地域の人口減少は全国と比べて15年も早く、2045年には生産年齢人口と老年人口が逆転する地域が増加するとも推計されています。
そんな状況でも、人は生きていかないといけないし、年齢と共に「働き方」を変えることも余儀なくされる。なのに、それが「補助金のせいでできない」という現実が存在するのです。
昨年、補助金で復旧した施設・設備を一定期間内に処分したとして、42事業者に計6億4,000万円の返還命令が出されました。
補助金が税金である以上、使い方のルールはあってしかるべきです。しかし、「あとは一つよろしく!」と自己責任にしてしまっては、なんとか被災地の人たちを救いたいと、グループ補助金の設立に動いた人たちの汗と涙までむげにするようなもの。「人」のために作った制度が、「人」を苦しめるとは本末転倒です。
グループ補助金は能登でも利用が進められています。メディアにはこの問題をもっと報じてほしいです。
被災地が抱える問題は未来の日本の姿、なのですから。
みなさまのご意見、お聞かせください。
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