イスラエルとハマス代表団「直接交渉」の実現可能度
しかし、その期待に反し、ネタニエフ首相はラファへの侵攻の強化を命じ、現時点ではまだハマスの武器や資金の調達手段を断つという限定目的の攻撃に留まっているものの、「ハマスとの間接交渉が失敗したら、即時にラファに全面攻撃を加える」という圧力をハマスとその支援者、そして国際社会に突き付けています。
出口が見つかったと期待し、喜んでみたら、イスラエルに裏切られたと感じるカタールとエジプトは、まだ仲介の労を担っているものの、労力と資金をかけても一向に解決策が見いだせないことに苛立ち、モチベーションの維持が難しくなってきているようで、この国際仲介プロセスの持続性に黄信号が灯り始めたようです。
瓦解寸前の仲介努力ですが、まだ一筋の希望を感じているのが“イスラエル政府が代表団をカイロの留めていること”です。
仲介交渉はこれまでのところ、カタールを通じた間接形式であり、公式にも非公式にも、イスラエルとハマスとの直接的な対話と協議、そして交渉は実現していません。
もしブレークスルーが起こるとすれば、それはイスラエルとハマスの代表団間での直接交渉の実現ですが、それは慣習上、主権国家と非政府組織とが同レベルの交渉を行うことはないというルールを破ることになり、この実現には主権国家たるイスラエルが同レベルでの対話を認める必要が出てきます。
ガンツ前国防相はその可能性に肯定的と言われ、「今は国家的な危機であり、体裁にこだわっているべきではない」と直接対話にも前向きなようですが、イスラエル代表団を派遣したことに否定的な極右勢力を連立政権に含むネタニエフ首相がそれを受け入れることは、彼が命がけで守る自身の政治生命に照らしあわせて決して受け入れられない内容ではないかと推察します。
一応、国際的な調停グループには調停プロセスの実施準備の依頼が多方面から来ており、これにはイスラエル政府も否定的ではないとのことなのですが、即時実施を求めるアラブ諸国や欧州各国と(英国を除く)、調停プロセスを実施するには時期尚早とするイスラエルとアメリカ、そして英国というように、意見の一致は見られていません。
国連については「これ以上の犠牲は払われるべきではなく、ラファへの侵攻による人道的悲劇の拡大と民族の抹殺に繋がるような動きは即時に止めなければならない。イスラエルもハマスも、無条件の人質交渉と、即時停戦をいますぐに決断する必要がある。そのために国際的な調停努力が行われるのであれば、いかなる支援も惜しまない」という立場を表明しており、すでにコンタクトも受けています。
調停を実施するにあたり、今、障壁になっているのが、イスラエルの同盟国であるアメリカの優柔不断な姿勢と不変のPro-Israelの顔と、激しくネタニエフ首相をけなし、通商関係の断絶や交流の一時停止まで宣言して、イスラエルと真っ向から対決する姿勢を取るエルドアン大統領とトルコ政府です。
ロシアと中国による横やり(特にロシアからの横やり)は、意図がはっきりしているため、サイドライン化できると思いますが、アメリカの偏りとトルコの極端な反イスラエル・反ネタニエフ首相の主張は、中立な調停努力に水を差す恐れがあり、進展には困難が予想されます――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年5月10日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
image by: Anas-Mohammed / Shutterstock.com









