結婚詐欺でも、そうでなくても。見え隠れする「オッサンへの差別意識」
それ以外の部分でも、記事に対する疑問の声は上がっている。
「たとえば、②容疑者の父親の証言だけを盲信して、被害者女性の行為を『結婚詐欺』と決めつけるのはけしからん、との主張です。ここで記事は『結婚詐欺』というワーディング(言い回し)に批判の矛先を向けるのですが、それはまったく本質ではありません。なぜなら、仮にこの事件が典型的な『結婚詐欺』とは少し異なるとしても、多額の金銭を和久井容疑者から受け取ったこと自体は、被害者女性自身が認めているからです」(同)
確認すると、被害者女性は生前、警視庁に、次のように金銭授受の経緯を説明していた。
平沢さんは過去にガールズバーを経営していたということですが、和久井容疑者は調べに対して、「経営を応援するために出した1000万円以上を返してもらうために行った」と話しているということです。
一方、平沢さんは以前、和久井容疑者のストーカー行為を警視庁に相談した際、この金について「店の料金の前払い金として受け取った」と説明していたことが捜査関係者への取材でわかりました。
※出典:「金は前払い金として受け取った」ストーカー行為相談の際に説明 新宿区女性殺害(日テレNEWS NNN 5月10日)
報道のとおり「前払い金」として1000万円という大金を受け取っていたのなら、出禁であれ閉店であれ、客にサービスを提供できなくなった時点で、被害女性に返還義務が生じる。また仮に店への前払い金ではなく女性個人への贈与であれば課税所得となり、申告・納税をする必要があるだろう。
これは容疑者への同情云々ではなく法律の話だ。だが、警視庁は和久井容疑者をストーカーと判断し、その後逮捕することになる。もし、これが男女逆の構図だったらどうだっただろうか?
ここで思い出されるのが昨年11月、横浜市中区の繁華街でグループ同士がトラブルになり、日本人男性がタイ人の飲食店従業員に刺し殺された事件。
酔っ払った日本人グループ3人が、タイ料理店に自転車を投げつけてケンカに。当初は日本人側がタイ人側に激しい暴行を加えていたが、それに堪りかねたタイ人の1人が店の刃物で反撃し、日本人1名を刺殺した。
このときもSNSでは「自業自得だな」「同情の余地なし」といった声が上がった。
しかし、それに加えて「すがすがしい事件」「町のゴミ掃除ご苦労様」「反社が返り討ちに遭って警察に通報してて草」といった“被害者叩き”の投稿すら多数見られたのが印象的だった。男性の死はいわゆる“スカッと系”コンテンツの一種として消費され、そんな“風潮”に抗議する人間はほとんどいなかった。
「50代の男性客から四桁万円の金をむしり取った女性も、人前で罵倒されることを極端に嫌うタイ人を公衆の面前で暴行した男性も、まさか反撃されるとは思っていなかったのでしょう。リスク管理の甘さが目立つ印象があります。
これは問題の記事で言えば要旨③~⑥の部分にあたります。必ず一定数は存在する『ヤバい奴』『言葉が通じない相手』とエンカウントしてしまった際、プロとしてあるまじき判断ミスを犯し『超えちゃいけないライン』を超えてしまった結果、返り討ちにあって殺された、というのが両者に共通する構図です。
にもかかわらず、タワマン刺殺の被害者女性は必要以上に丁重に扱われ、横浜タイ料理店の被害者男性はとことんまで罵倒される。どちらもクズといえばクズなのにこの扱いの差は、『オッサン差別』以外に理由が見つからないのではないでしょうか?」(同)
タワマン刺殺の被害者女性に「どっちもどっち」と溜息をつく権利すらないのであれば、今の日本社会において「臭い、汚い」と批判されがちな“50代おぢ”は“不可触民”のような存在と言えるのかもしれない。









