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岸田首相と森喜朗“密約”のふざけた内情。日本を手遅れにする自民党、離党組の塩谷立もひた隠す国民不在の政局シナリオ

安倍派の座長として裏金問題の責任を押しつけられ、自民党を追われるはめになった塩谷立氏。塩谷氏は岸田首相だけに怒りの矛先を向け、本当の黒幕の名前は口が裂けても言えないようだ。5年で2728万円の裏金にも関わらず党内でちゃっかり生き残った萩生田光一氏の悪知恵、そして森喜朗氏と岸田首相の間で結ばれたに違いない“密約”について、元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:安倍派をめぐる岸田・森の“密約”は総裁選の政局を動かすか

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岸田首相だけに怒りの矛先を向ける塩谷立

自民党の裏金問題をめぐり、塩谷立氏は安倍派の座長だったという、たったそれだけの理由で離党勧告を受け、今年4月23日、自民党を去った。納得がいかず同12日に再審請求を出したが、すぐさま総務会で却下されていた。

塩谷氏は党の総務会長や麻生内閣の文部科学大臣もつとめた。しかし、選挙には強くない。2021年の衆院選でも、立憲民主党の候補に敗れ、比例復活でなんとか10選目に滑り込んだほどだ。

5月8日、塩谷氏は地元・浜松市で支援者に「無所属で出馬ということは大変難しく厳しい」と苦しい胸の内を明かした。自民党によって事実上、政治生命を断たれたのも同然の状況といえる。

「岸田総理は、とにかく『犯人』をつくって処分しなければ、事態が収まらないと考えたのでしょう」。塩谷氏は4月26日発売の月刊Hanada6月号のインタビューでも悔しさをにじませた。

聞き手が「安倍派も五人衆の誰かが中心になって決起すればいい」とけしかけると、塩谷氏は「私も決起せよ、『責任』というなら、いの一番に岸田総理が責任をとれと言いたい」と同調した。

怒りの矛先は、自らの派閥の不記載に目をつぶり安倍派に厳しい処分を下した岸田首相だけに向けられている。

だが、この非情な仕打ちの背後に見え隠れするのは、解散宣言している安倍派の実質的存続をはかる森喜朗元首相の影である。

黒幕は岸田首相ではなく森喜朗

安倍派幹部のうち、離党勧告を受けたのは、塩谷氏と世耕弘成氏だ。

表向きには、派閥座長である塩谷氏が衆議院の責任者、参院幹事長だった世耕氏が参院の責任者というわけだが、これは後付けの理屈にすぎない。

実際には、世耕氏に関しては和歌山で政治的対立関係にある二階俊博元幹事長、塩谷氏については、安倍派裏金汚染の責任を押しつけたい森喜朗氏の意向が働いている。

「萩生田光一のアイデア」と「森喜朗の悪だくみ」

安倍派の総理候補とされた3人のうち、世耕氏は党外に去り、西村康稔氏は党員資格を1年限定ながら失った。萩生田光一氏(前政調会長)だけは、どういうわけか、ほぼ無傷で残ったが、2018年から5年間の収支報告書不記載額が計2728万円にのぼる正真正銘の“裏金議員”である。

そのうえ、岸田首相は「役職停止の対象は党本部だけ」として、萩生田氏が東京都連会長にとどまることまで容認した。そこで都連は5月15日、延期していた役員選考委員会を開き、萩生田会長を再任することを決定した。

都連会長が、都知事や国会議員の候補者を選定するうえでも影響力のあるポストなのは言うまでもない。

月刊「文藝春秋」6月号に掲載されたインタビューで森喜朗元首相が語ったところによると、派閥を守るため、塩谷氏に裏金問題の責任をとってもらうアイデアを森氏に持ち込んだのは、ほかでもない萩生田氏だった。今年初めのことだ。

「誰かが罪をかぶり、総理の判断を願い出るようにすればいい」と知恵をつけた人が党内にいたそうです。それで五人衆が相談し、座長の塩谷君にその役を担ってもらおう、となった。五人衆の総意として、塩谷君の説得を「森先生に頼むしかない」となったようです。萩生田君から「こんなことを先生にお願いするのも変だけれど、ここは塩谷先生が引き受けてくれたらありがたい、というのが皆の意見です」と連絡をもらいました。

森氏は「それも一理ある」と思い、塩谷氏を自分の事務所に呼んだという。

「君はこの前の選挙でも苦労しただろう。もともと君は一回目の選挙から苦しんで、(塩谷氏の選挙区にある)スズキの(鈴木修)社長に怒られては、俺があいだに入ってとりなしてきたのは覚えているでしょう。だから、ここは一つ、どうだね」。そう説得を試みました。(中略)「ここはいったん議員辞職して次をねらったらどうかね。・・・」

全責任を取るので仲間を救ってください、と岸田首相に申し出て、議員辞職をしたら「立派だ」と株が上がって、次の選挙に有利になるという提案だ。

選挙に弱いあんたのために散々骨を折ったのだから、ここは俺の言うことを聞けという押しつけがましさも森氏らしい。

塩谷をスケープゴートにして生き残った萩生田

安倍元首相が亡くなった後、安倍派は後継会長が決まるまでの暫定措置として、派閥の最古参である塩谷氏と下村博文氏の二人の会長代理による「双頭」で運営する形をとっていたが、下村氏を嫌う森氏の意向によって、昨年8月末、新体制に移行した。

すなわち、森氏が安倍派の会長候補として名前をあげる萩生田、西村、世耕、松野、高木のいわゆる「五人衆」を含む15人の常任委員会を設け、塩谷氏を座長に据えて、その幹部組織から下村氏を排除したのである。

塩谷氏を座長としたのも、森氏の意向であろう。後継会長として期待していたわけではない。総理への野心を持たず、森氏にとって扱いやすいからだ。

塩谷氏は、求められて座長になったばかりに、一人で責任を背負うような立場に追い込まれた。

「なんで私一人が貧乏くじを引かねばならないのですか。議員辞職だけは絶対に承服できません」(文藝春秋6月号)と森氏に食ってかかったのもうなずける。

塩谷氏は五人衆や森氏の思い通りにならなかったが、結局のところ、党の処分を受けたなかでいちばん重い「離党勧告」を下された。

岸田首相が裏金議員に厳しく対処していると世間にアピールするには、除名とか離党勧告とか、厳罰を誰かに割り当てねばならない状況だった。

塩谷氏が受け取った裏金の額は234万円。萩生田氏の10分の1以下だ。安倍派の座長というが、実権があったわけでもない。まさに、スケープゴートにされたといえるだろう。

岸田首相も森喜朗には頭が上がらず

岸田首相は4月上旬に森氏に電話して、裏金作りへの関与について聴取したと言っているが、森氏はそのような話は出なかったと証言している。

それどころか、森氏は以前からこの件について岸田首相と電話で話していたことも明らかにしている。

そこで想像できるのは、岸田首相が安倍派幹部の処分内容を判断するにあたって、森氏の意見を聞いていたのではないかということだ。

岸田首相が裏金問題に乗じて安倍派の弱体化をはかったのは間違いない。むろん、それは安倍派への影響力を通じて権勢を保っている森氏の意思に背くことになる。

事実、1月25日の新聞に党執行部が安倍派幹部の自発的な離党や議員辞職を求めているという記事が出た直後、森氏は麻生事務所を訪れて怒鳴り散らしたといわれる。

だからこそ、岸田首相が処分の軽重を決めるにさいし、安倍派に厳しくあたる姿勢を示しつつも、どこかで森氏の望みを叶える必要があった。その結果、塩谷氏は犠牲となり、萩生田氏は救われた。

森山派をのぞいて、解散宣言した各派閥ともいまだ事務所はそのまま存在し、「その他の政治団体」登録の取り下げもしていない。むろん、今年9月の総裁選を意識しているからだ。安倍派も例外ではない。解散は名ばかりで、いまも一定のまとまりは保っているはずだ。

安倍派の「決起」を求めると塩谷氏は言うが、萩生田氏はそのような動きを抑える役目を担って、ほとんど無傷のまま党内に放たれているのだろう。

政治改革に国民が期待感を抱けず、支持率が上向かない現状では、岸田首相による解散・総選挙はほぼ不可能だ。総裁選となれば、安倍派に総反発を食らった現状のままではきわめて不利である。

岸田首相と森喜朗の“密約”で自滅する自民党

今後の政局について、森喜朗氏はまるで評論家のように淡々と語る。

「これから想定されるのは国会会期末の6月末(解散)ですが、残りの期間ではよほど支持率を好転できなければ無理でしょう。すると、必然的に9月の総裁選に突入しますが、問題はポスト岸田候補の不在。『自民党壊滅』と言われる所以ですな」

「派閥内では萩生田君を推す声が多いけれど、彼もあちこちに弾を受けてますから、少し時間を置いた方がいい」

森氏の口から「自民党壊滅」という言葉が出るのは驚きだが、いずれ安倍派の後継会長に萩生田氏を据え、総裁候補にしたいと考えているのは明らかだ。むろん、裏金問題、統一教会疑惑に揺れる今ではない。

萩生田氏の処分を軽くしてもらうかわりに、岸田首相の政権維持に協力する。そんな密約めいた合意でもかわしたのではないかと思えてくる。

岸田首相にとって「自民党壊滅」の党内情勢は、選挙をするには不都合だが、総裁再選をねらうには唯一の光である。

崩れかけた麻生派、茂木派、宏池会の三派連合が人材難ゆえに再びまとまり、森氏と萩生田氏が安倍派に睨みをきかせれば、総裁再選は可能だと踏んでいるのかもしれない。

ただし、岸田首相の思惑通りにコトが運ぶとしたら、「自民党壊滅」はもはや動かしがたい現実となる。その場合は、政権交代を望む国民が総選挙できっちり評価を下すだろう。

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