6月11日に開かれた経済財政諮問会議で、政府により示された「骨太の方針2024」の原案。その内容については賛否両論渦巻いているのが現状ですが、かねてから政府に忖度のない意見を発信し続けてきた京都大学大学院教授の藤井聡さんは、どのように見たのでしょうか。今回のメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』で藤井さんは、この原案に激しく落胆させられたとしてその理由を解説するとともに、政府や岸田首相に対してこれまで以上に忌憚ない批判を展開しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:岸田氏は「PB規律」のために増税を繰り返し、「予算増333億円以上規律」のためにあらゆる予算増を阻止するという、日本を地獄に落とす政治決定を行った
食い止められない国力衰退。岸田首相が行った日本を地獄に突き落とす政治決定
ついに待ちに待った、今年の「骨太の方針」の中身が、この度公表されました。当方がその中でも特に注目していたのは、
- 【PB規律】2025年度プライマリーバランス黒字化目標
- 【333億円規律】3カ年で、非社会保障費の増加は1,000億円以下にする
の二つでした。
そもそもこの規律の内、一つでも生き残れば、政府は積極的な財政支出が難しくなってしまうからです。しかもそんな中で少子化対策だ、防衛力増強だ、国土強靱化だと言い出せば、「増税」やら「社会保障費増」をやらざるを得なくなります。何と言っても、プライマリーバランス(要するに政府支出と政府の収入との収支)を黒字化したり、3年間の予算増分を1,000億円以下にしようという厳しい「制約」下で、支出を増やそうとすれば、増税や社会保障費増を行うことが「必須」(マスト)になるからです。
つまり、今の岸田総理は誰もが認める「増税メガネ」ですが、彼がそうならざるを得ないのは、「PB規律」なり「333億円規律」なりを生真面目に守っている(というより、財務省による各種の“脅し”に屈する形で守らされている)からなのです。
で、岸田氏が増税メガネを続ける限り、25ヶ月下落し続けている実質賃金が持続的に上昇していったり、四半世紀以上継続している「デフレ状態」(ないしはスタグフレーション状態)から脱却し、日本の衰退が食い止められ、再生されることなど「万が一」にも起こらないのです。
したがって、今回の骨太の方針にPB規律なり333億円規律なりが明記されるか否かは、日本が再生されるか、このまま二流国、三流国へと転落し続けるかを占う上で、極めて重大な意味を持つものだったのです。
だから例えば、自民党の政務調査会の積極財政議連は、この二つの規律の「撤廃」を継続的に主張し続けきたわけですし、当方は、「平成版」と「令和版」の二冊にわたって『プライマリーバランス亡国論』(コチラは、2年前に出版した令和版のプライマリーバランス亡国論です)を出版して参ったのですが…今回の骨太の方針の中身を見て、実にガックリと激しく落胆いたしました…。
当方が懸念していた通り、PB規律も333億円規律も共に、完全なる形で「残存」することになったのです…!
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最悪の判断で日本の「地獄行き」を確定させた岸田首相
具体的な記述は、以下の二カ所。
2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化を目指す
(P36)
予算編成においては、集中的に改革を講ずる2025年度から2027年度までの3年間について、上記の基本的考え方の下、これまでの歳出改革努力を継続(139)する。
(P37)
前者は明確な文章ですが、後者は少々解説が必要かと思います。かなりややこしいのですが、厳密にかくと、次のような話しになっています(ハッキリ言って、以下の話しはややこし過ぎるので、理解しようとされなくても結構です 苦笑)。
まず、「これまでの歳出改革努力を継続(139)」のこの(139)というのは注意書きですが、その中身は「139:『経済財政運営と改革の基本方針2021』(令和3年6月18日閣議決定)に定められた2022年度から2024年度までの3年間の歳出改革努力を継続」となっていて、この「経済財政運営と改革の基本方針2021」には、「2022年度から2024年度までの3年間の歳出改革努力」というのは「2019年度から2021年度までの3年間の基盤強化期間」の取り組みであると記載されていて、そして、これがまた、「経済財政運営と改革の基本方針2018」に「2016年度~2018年度の集中改革期間」の取り組みであると記載されていると同時に、これが「集中改革期間の3年間で一般歳出1.6兆円程度、社会保障関係費1.5兆円程度の増加。同期間の高齢化による増加分は1.5兆円程度」という中身であると記載されているのです。
そして、この最後の文章は、要するに、社会保障費の増分は3カ年で1.5兆円以下、非社会保障費の増分は3カ年で1,000億円以下とする、という意味となっているのです!
…ということで、今年の骨太の脚注139に、「2022年度から2024年度までの3年間の歳出改革努力」と記載されたといいうことは、要するに、「非社会保障費の予算の増分を3年間で1,000億円以下にする」という財政規律が嵌められたということがハッキリと示しているのです。
要するに、この文書を作成した内閣府、というか「財務省」は、「3年間で非社会保障費の増分を1,000億円以下にする」という規律を、こうした「超超絶にわかりにい」かたちで記述することを通して、総理をはじめとした政治家、そして国民を欺き、そういう規律など存在していないように見せかけようとしているわけです。
実に姑息な話しですが、このあたりは、財務省の手口を毎年毎年見てきた我々にはもう、バレバレになっているわけです。
が、岸田文雄総理がそれをどこまで理解しているのかは分かりませんが…仮に分かっていなかったとしても、彼はこの「骨太方針」を閣議決定することを通して、来年にPB赤字を無くすために「増税メガネ」方針を継続し続け無ければいけなくなったわけです。そしてそれと同時に、社会保障費以外の予算の増分を年間で333億円以下に収めるために、彼が進める防衛費増強等のために、何らかの予算を「激しく削減」することになることもまた、決定付けられたわけです。
ハッキリ申し上げて、これで日本の「地獄行き」はほぼほぼ確定したわけであり、したがって、岸田フミオ氏は恐るべき最悪の判断を総理として下してしまったと言わざるを得ないのです。
申し訳程度に記載された積極財政派を黙らせるための文章
ただし…一応、骨太の方針には、以上の財政規律についての記述の直後に、申し訳程度に次のような文言もまた、記載されています。
重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない。機動的なマクロ経済運営を行いつつ潜在成長率の引上げに取り組む。
すなわち、PB規律は年間333億円キャップ規律があるが、そういう規律のため「重要な政策」ができなくなってはいけない、潜在成長率を引き上げるための財政支出は行わなければならない、と一応は書いてあるのです。
しかし…当方が常々主張している
- 食料・資源・エネルギーの輸入補助金を通した「物価上昇抑制」
- 消費減税を通した「持続的な実質賃金引き上げ」と「デフレ脱却」
- 公共投資の拡大を通した「持続的な名目賃金引き上げ」と「デフレ脱却」
- 十分な当初予算拡充を通した「食糧自給率引き上げ」「エネルギー自給率引き上げ」「国土強靱化」
等はいずれも超絶に重要ですが、岸田フミオ氏が「そんなの重要だと僕思わないもん!」と言ってしまえば、全て実施できなくなるわけです。そして、岸田氏はこれまで「増税メガネ」的振る舞いを繰り返してきてはいますが、上に述べたいずれの政策についても本格的実施は一切行っていません。
つまり、少なくとも岸田フミオ内閣では「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という文言は,単なる、積極財政派を黙らせるための「お飾り」の文章として、言い訳程度に記載されているに過ぎないのです。誠にもって遺憾この上ない話しですが、この骨太方針が確定されれば、後はもう、日本を救うには、「重要な選択肢を狭めてはならないと骨太の方針に書かれてるじゃないか!!!」と叫びながら,重要な選択肢の具体的内容を主張し続ける他ありません。
そしてもちろん、岸田氏の「聞く耳」にそれが入って、それら政策が実施されるのならそれで全く構わないのですが、それを彼が全くやらないというのなら、それを実行される方に、総理の座を譲り渡して戴く他、日本が救われる道が無くなってしまいます。
何にしても、岸田さんは、最悪の骨太の方針をまとめてしまったわけですが…なんとか、重要な政策が実施されるべく、国民は岸田氏、そして政府の動きを監視すると共に、彼らが不適切な振る舞いを見せる限りにおいて、徹底的に批判し続けねばならないのです。
(メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論』2024年6月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ)
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