2008年のリーマンショックで大量の派遣切りが起こっても、その後も非正規雇用者は増え続け、この16年で500万人増えて2100万人にもなっているそうです。当時派遣切りにあった人たちが年を越せるようにと日比谷公園に設置された「年越し派遣村」を支援したのが、作家の雨宮処凛さんです。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』で、評論家の佐高さんは、雨宮さんが語る日本の政治に対する違和感と、「自己責任論」に毒されたかのような若者たちの言葉を紹介。社会に出る前から「社会のせいにするな」と教育されている若者たちを案じています。
自己責任論の毒
『ZAITEN』の「佐高信の賛否両論」の9月号は雨宮処凛である。彼女は今年49歳で同い年の谷口真由美(おばちゃん党)と『毎日新聞』で「往復書簡」を連載している。
彼女も関わった「年越し派遣村」が話題になったのは2008年だった。この年の6月に、秋葉原で無差別殺傷事件が起きている。25歳の派遣社員、加藤智大が起こした事件だった。
9月にリーマンショックがあり、それを契機に派遣切りが起こり、年末に派遣村がつくられる。真っ先に派遣社員を切ったのが、現在莫大な利益を誇るトヨタであることも忘れてはならないだろう。
2008年の非正規雇用者は1,600万人だったが、今は2,100万人。500万人も増えたことになるが、2008年頃は派遣村に来た女性は505人中5人だったのに、現在は2割が女性だという。
雨宮によれば、第2次安倍(晋三)政権で安倍が最初にやったのが生活保護費の引き下げだった。旗振り役が世耕弘成である。安倍も世耕もボンボン世襲議員。
「彼らの生まれ育った階層に貧困で苦しむ人はいなかったと思いますし、見たことがないから勝手に『怠けている』とイメージしているのではないでしょうか。わからないだけではなく、言葉が通じない別の人種と見ている感じがします」
こう語る雨宮の『死なないノウハウ』(光文社新書)が売れている。副題が「独り身の『金欠』から『散骨』まで」。彼女の持っている困窮者支援の情報を困窮者だけでなく、中間層にこそ伝えたいと思って書いたという。
ショックだったのは、若い世代が労働組合などに頼らない理由だった。
「どうして労働組合とかに相談しないの」
と雨宮が尋ねると、
「一生、自分が労働者だと思っている人間は上昇志向がないバカなやつだ。起業して、経営者になり、独り立ちできるようになるのが一番いい生き方なんだ」
という答えが返って来たりする。自己責任論が浸透しているのである。
「労働運動に共感することは自分が一生、労働者であり続けることだと認めることになり、イコール人生の負けを認めることになると考えているようです」と雨宮は語る。そんな考えの若い人は「時給を1,500円に上げろ」と街頭でデモをしている人たちに対して、平気でこう言うという。「バイトに1,500円出したら企業つぶれるでしょ」。
社会に出る前の段階で「社会のせいにするな」という教育を受けているので、何かおかしいと批判する人を「クレーマーだ」と見る。あるいは「愚かな卑怯者」と排斥するのである。自分もバイトなのに経営者目線で話す人間は維新と親和性があり、石丸信二にイカれた人だと思うが、今度、私は西谷文和と『お笑い維新劇場』(平凡社新書)を出した。
image by: Mikkabie, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons









