EUの「EV関税」に失望の中国。怒りの“報復関税”で新たな貿易戦争に突入か?

 

中国は、すでに6月に欧州が中国製EVに適用を始めた反補助金関税について、世界貿易機関(WTO)に提訴している。今後の注目は、既述したEU原産の乳製品や、それ以前から調査を始めていたブランデーや豚肉に、中国が同じように関税を上乗せするか否かに移ってきている。もしそうなれば対米同様、中国がまた一つ貿易戦争を抱えることになる。

調査対象に指定された欧州の農産品は概して中国市場への依存が高い品目で、中国側が欧州側の動きに備えて、早い段階から対抗策を練ってきたことを感じさせた。日本貿易振興機構(JETRO)は「ビジネス短信」(『中国がEU産豚肉にアンチダンピング調査、過剰生産能力を批判』)で中国が調査を始めた理由を以下のように記している。

(1)ダンピングマージン率が60%以上に達している、(2)EUからの輸入価格が中国内の同様の製品価格と比べて20~50%安価になっている、(3)副産物(内蔵など)はEU内で一般に食用にされず、処理にも費用が必要なため、ダンピング輸出につながっている、(4)EU内での豚肉の年間消費量1839万トンに対し、生産量は2265万トンと生産能力過剰で、輸出が過剰解消の手段となっている、(5)EUの2023~2027年予算では、農業分野に対して年平均338億ユーロの補助金が支給されることになっており、うち82%は畜産業を対象としている

さらに興味深いのは豚肉だ。EUの畜産業者にとって中国への豚肉の輸出は、数字以上に旨味の多い貿易だったと指摘されている。というのも、欧州では廃棄される耳や豚足といった部位を高値で買い取ってもらえたからだ。本来、畜産業者が有料で処理しなければならない耳や足を輸出できるメリットは、制裁が発動されれば、すべてコストとなって跳ね返ってくる。

豚肉の対中輸出はスペイン、フランスからが主だが、いずれも対中追加関税に賛成した国(反対したのはドイツ、イタリア、スウェーデン)であることは偶然ではない。EUはいったいどんなメリットがあって中国製EVをターゲットにしたのだろうか。中国側が疑っているのは──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年8月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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