欧州連合(EU)は、暫定的だった中国製EVへの関税上乗せを確定させました。暫定値からは微減となったメーカーが多かったものの、6月以前からは大幅アップで、中国当局は激しく反発しています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、中国の反応を紹介。報復的にEU産の乳製品や豚肉などに関税が上乗せされた場合にどのような影響を受けるのか、特に豚肉に関して詳しく解説し、新たな貿易戦争の構図を明らかにしています。
中国製EVに関税上乗せを決めたEUは、なぜ保護主義の引き金を引いたのか
はたしてこのまま貿易戦争に突入してゆくのだろうか。8月20日、欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会は、これまで暫定的に中国のEVに適用していた税率(6月中旬に公表された)を最大で36.3%とする最終案を公表した。欧州委員会は「調査は継続中で、税率は今後も変わる可能性がある」と説明しているが中国側の失望は大きい。
最終的な反補助金の税率は、BYD(比亜迪/Build Your Dreams)が17.4%から17%に。吉利自動車は20%から19.3%に。上海汽車集団は38.1%から36.3%と、いずれも6月時点からは微減。その他、欧州の調査に協力した企業17社は20.8%から21.3%に、協力しなかった企業には36.3%の関税となった。
追加関税が「微減」と聞けば誤解を招くだろうが、6月以前は10%だったのだから、大幅な税率アップだ。各社が血の出るような企業努力でコストを削っている事情を考えれば、絶望的な数字だ。
中国商務部(以下、商務部)の報道官は記者会見で、欧州委員会のやり方を「『公平な競争』の名を借りた『不公平な競争』だ」と痛烈に批判した。同じ20日、商務部は「EU原産の輸入関連乳製品に対する補助金調査を開始する」と発表。「中国側はあらゆる必要な措置を講じ、中国企業の正当な権益を断固として守る」と反撃の姿勢を鮮明にした。
担当者が憤懣やるかたないのは、6月末以降、中国側はかなり真摯に欧州委員会の調査に協力してきたという思いがあったからだ。商務部は、〈6月末以来、中欧双方は事実とルールに基づき、本件について10回余りの技術的な協議を展開してきた。中国側は終始、最大の誠意に基づき対話・協議を通じて欧州側と貿易紛争を適切に処理することに力を入れてきた〉が、〈調査過程で、中国政府と業界団体が提供した数万ページの法的文書と証拠資料を提供した〉が無視されたと受け止めたようだ。
中国製EVの補助金調査が、最初から「結論ありき」だったのではという疑いは、翌21日の中国外交部の定例会見でも滲んだ。会見に立った毛寧報道官は、開口一番、「(調査は)典型的な保護主義と政治主導であり、客観的事実も、WTOのルールも無視している」と切り捨てた。その上で、欧州が熱心に取り組んできた地球温暖化防止のための「グリーントランスフォーメーションを、自ら阻害するのでは?」と皮肉った。
事実、欧州ではコロナ禍とロシア・ウクライナ戦争によってエネルギー事情が悪化。同時に深刻なインフレに見舞われたことで、従来の高邁な「脱炭素」の掛け声は目に見えて後退している。ドイツでは脱原発の動きも怪しい雲行きだ。
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