24時間の張り込み
そこでこの会社は、低賃金で従業員(主に学生)を30人ほど雇い、携帯電話を渡してフロリダの14カ所のカジノに文字通り「24時間の張り込み」をさせる。そして、どこかのカジノでこの「期待値が$1を上回った状況」が起こると本部経由で全員に連絡が入り、全員がそのカジノに集合してそのJackpotに繋がったスロットマシンすべてを占領してJackpotが出るまでひたすらスロットマシンをまわす。そして、Jackpotが出たらそこでプレーをやめ、ふたたび別々のカジノにちらばって「張り込みモード」に戻る。
このシンプルなビジネスモデルで、この会社は3年間に300万ドルの元手を、2000万ドルにまで増やしたそうである(それもちゃんと従業員に給料とボーナスを払い、税金も払った後での話)。
このビジネスモデルがうまく行った理由は、カジノからお金をかすめ取っているのではない点につきる。カジノとしては、この会社がやっていることは十分承知しながらも、直接の被害を受けるわけではないので黙認していたという(厳密には、他のギャンブラーからかすめ取っていることになる)。
テラ銭がやたらと高い日本のギャンブル(競馬、競輪、パチンコ、宝くじなど)ではこんな仕組みは難しいだろうが、テラ銭がわずか2~3%の米国のカジノでは、Jackpotのような仕組みの導入のおかげで、こんな「隙間産業」が成り立つのだ。
ちなみに、最近はこの業界も競争相手が増え、Jackpotに繋がったすべてのスロットマシンの席を全部占領することが難しくなり、あまり儲からないようになってしまったそうである。「マーケットの効率化の法則」(=儲かる産業には競争相手が集まり、いつかは他の産業と同じくらいの利益率に落ち着く、という法則)は、こんなところでもちゃんと働いているようだ。
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