「米を食べるとバカになる説」を真に受けて稲作文化をバカにした「令和の米騒動」の真犯人

 

「米を食うとバカになる」説に飛びついた政府

もちろん、水稲をバカにしそれを担う農民をコケにしたのは農水官僚だけではない。戦後、厚生省は米国からのララ物資、ガリロア・エロア資金による「メリケン粉」輸入ですっかり米国拝跪病に陥り、「我が輩は米と魚と野菜の貧しい日本人の食卓を、パンと肉とミルクの豊かな食卓に変えるためにやってきた」(マッカーサー元帥)、「太平洋戦争はパン食民族と米食民族との対決であったが、結論はパン食民族が優秀だということだった」(GHQ公衆衛生福祉局長サムス准将)などの占領軍イデオロギーの手先と化し、米偏重を侮蔑し欧米風の食事を理想する「栄養改善運動」を展開、そのための栄養改善法という法律まで作った。

その運動の“バイブル”となったベストセラーが、慶應大学医学部の生理学教授=林髞『頭脳』(カッパブックス、1958年刊)の「米を食べると頭が悪くなる」説だったことはよく知られている(が、読んだことがない方が多いと思うので、文末に要旨を掲載しておく)。

また通産省は、そうやって農民が蔑まれ、親たちが子供らに「こんな村に居てはいけない。お前も都会に出ていい給料を貰えるようになれ」と工場労働者や事務員になるのを勧める風潮を喜んだ。こうやって馬鹿な政府が自国の文明の基礎を掘り崩したのである。

この結果、水稲の作付け面積は、1969年の317万haをピークに75年272万、85年232万……2023年134万haまで減少の一途を辿り、収穫量も1967年の1,426万tをピークに75年1,309万、85年1,161万……23年わずか661万tにまで下落した。

言うまでもなく稲作に限らず農作物の栽培は何よりも自然条件や天候に大きく左右され、工業製品のように計画通りに出荷できることなどほとんどあり得ない。だから机上の空論の需給見通しに沿って供給量を出来るだけ絞ることで価格暴落や品不足に備えるというのはあり得ない愚策であり、EUや米国で行われているように基本的には市場の変動に委ねながらも農家の努力ではどうにもならない原因で採算がとれなくなった場合には政府が個別農家の所得を補償するという仕組みしかありえないはずだが、09年民主党政権が実験に取り組んだこの戸別所得補償制度を「バラマキ」の一言で何も学ばずに投げ捨てたのが次の安倍政権だった。

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