たくさん本を読むだけでは賢くなれない。「わかりやすく書かれた本を読んで得た知識」には何が足りないのか?

 

■とは言え軽んじてはいけない名詞的知識の価値

この話の難しくて面白いところは、名詞的知識がなくても、動詞的知識がある場合です。たとえば、「弁証法」という名詞を知らなくても、それと似た思考を行っている人はいるでしょう。

水素原子は、その名前を得る前からこの世界に存在していたのと同様に(これは哲学的に批判可能ですが、それはされておき)、名前を与えられていないが存在はしているものはたくさんあり、技能についてもそれは同様です。というよりも、技能的なものの大半は名づけられていません。

そうした観点から名詞的知識を軽んじる向きもありますが、SECIモデルが示すように名詞化することで共有が可能になる点と、技法の改良などの議論が可能になる点は見逃せません。

SECIモデル | 倉下忠憲の発想工房

真に重要なものが動詞的知識であったとしても、いやならばこそ、名詞的知識を軽んじてはいけないでしょう。

■興味の幅を広げていくと見えてくるそれぞれの知識の「はたらき」

もう一つ、別のルートがあります。

たとえば「弁証法」という名詞を知った後で、これを提唱したヘーゲルってどういう人だったのかとか、それと関係するマルクスはどのようにこの概念を自分の思想に組み込んだのだろうか、という風に興味の幅を広げていくルートです。

それぞれの興味において得られるのもやっぱり名詞的知識でしかないかもしれません。しかし、そのような情報の関連(ネットワーク)を広げていくと、さらに興味が広がっていくと共に、それぞれの知識の「はたらき」が見えてきます。

そのような知識の獲得は、残念ながら、やればやるほど自分が「バカ」になっていく感覚があります。知らないことが山ほどあると自覚されるからです。

一方で、ただバカになるだけの感覚でもありません。バカはバカだけども、少しは知っている(≒自分の知識ネットワークを有している)という感覚も同時にはぐくまれます。

なんにせよ、複雑なものがそこにはあります。単純に「賢くなったハッピー」では終わらない何かです。

本を読むことの良さは、そういう複雑さの中に折り込まれているのでしょう。

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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