頼総督を「台湾独立原理主義者」とみなす中国
理由の一つとして、台湾の人々に、頼の進めようとする台湾独立が危険であることを認識させるため、どうしても頼の言動と連動させて伝える必要があったからだ。
背後にあるのは中国が頼を「台独」原理主義者とみなし、政治家としての柔軟性を期待できないと判断し始めたことがある。
今年5月の総統就任以前から、台湾独立勢力から「金の孫」と期待され総統に就任した頼が、蔡英文以上の過激な動きに出ることは予想されていた。そして中国は、ここにきて頼を交渉相手とは見なさなくなる可能性を匂わせ始めたのだ。
かつての台湾であれば、中国が軍事的に脅せば脅すほど、与党への支持を強めたものだが、現在は必ずしもそうはなっていない。そして中国の狙いも、台湾の人々を怯えさせることではない。
大規模な軍事演習で台湾海峡における緊張が高まり続けるのであれば、台湾への投資は敬遠される。そのことで台湾経済がじわじわと弱ってゆけば、頼・民進党にとってのダメージになる。
また中国が軍事演習を続ければ、台湾はアメリカにすり寄って防衛予算を膨らませ続けざるを得なくなる。そのことで本来は、経済や福祉に向けられるべき予算も削られてゆくのだから、悩みは深い。
9月18日には、中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官が、「国務院関税税則委員会が台湾原産の農産品34品目に対し、関税免除措置の停止を決定したことを『強く支持する』と表明した」ことも伝えられた。
理由は、「民進党が『台湾独立』の立場を頑迷に堅持し、『独立』を謀る挑発を続け、台湾海峡両岸の対立・対抗意識を高め、交流と協力を妨げてきた」からだという。
ある種の兵糧攻めである。
頼へのプレッシャーは国際関係においても高まっている。
10月中旬、南アフリカ政府が突然、台湾の代表部に当たる「駐南アフリカ共和国台北連絡代表処」を首都プレトリアから商業都市のヨハネスブルクに移転するよう要求。これが台湾で大きな騒ぎとなった。
前総統の蔡英文時代には台湾と断交した国が10カ国と、従来外交関係を保ってきた国がおよそ半減。12カ国にまで減ってしまった。こうした断交の流れに加えて、今度は中国と親しい国から「代表処」の首都からの移転という要求が突き付けられるかもしれないのだ。
また内政においても頼の立場は決して盤石ではない。
台湾は野党が議会(立法院)の多数を占めるネジレ状態にある。11日に与党・民進党は与野党の和解を目的とした「和解ランチ」を仕掛けるが、これも不調に終わった。
国民党が主導権を握る議会での運営をスムーズにする目的だったが、ランチ後に予定されていた卓栄泰行政委員長の会見はスルーされてしまった。
頼清徳の支持率は、第三政党・民衆党のトップ、柯文哲が汚職関連の条例違反で逮捕されたことで一時的に高まっているようだが、それが2026年の統一地方選挙まで続くのか、現状を見る限り、とても華々しい成果が得られるとは考えにくい状況なのだ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年10月20日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)
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