トランプよりまだハリスがマシ。あの英誌『エコノミスト』が「許されるならハリスに投票したい」と書いた理由

 

トランプを「ファシスト」と断定したかつての首席補佐官と統合参謀本部議長

今回のトランプは「すべての輸入品に20%の関税をかける」「メキシコからの自動車輸入には200%ないし500%の関税を課す」と語っていて、まるで関税と税優遇を用いて友を助け敵を罰した19世紀に戻ろうとするかのようだ。今そんなことをすれば米国の繁栄の基礎が壊滅させられる。

1度目の時はウクライナ戦争もガザ戦争も起きていなかったが、2度目ではその2つの戦争にどう対処するかが迫られる。トランプは、自分が大統領になれば「1日でウクライナの戦争を終わらせる」と言う反面、ガザの戦争に関してはイスラエルの攻撃を際限もなく支持するつもりのようで、よく分からない。何より心配なのは、彼の同盟国に対して罵倒したり恫喝したりする軽蔑的な態度で、それがNATOを破壊しかねない。

こうした危険を抑え込むには、共和党や閣僚、ホワイトハウスのスタッフなど周辺の役割が重要だが、一度目で閣僚を経験した人たちの半分は彼を支持しないと言い、また共和党の最長老の上院議員は彼を「卑劣漢」と呼び、さらにかつての首席補佐官と統合参謀本部議長は2人とも彼を「ファシスト」と断定している。

もちろん、対するハリスがなんぼのものかという問題はあるけれども、少なくともトランプのように米国にとっても世界にとっても到底受け入れ難いほどの大惨事を引き起こすことはないと考えられるので、『エコノミスト』誌としてはもし許されるならハリスに投票したいと言うのである。

アメリカが病む「冷戦後の世界」への不適応症

このような米大統領選の不毛としか言いようのない光景の根源は、米国が「冷戦後の世界」というものを理解できず、従ってそれに巧く適応するよう自分を変えていくことができずに、極度のストレスに苛まれ自分を制御できなくなっていることにある。

本誌が25年前から繰り返し語ってきたように、冷戦が終わったということは、それ以前の熱戦の時代に戻っていくのではなく、冷戦にせよ熱戦にせよ、国家がその総力を挙げて武力に頼って利益を確保しようとする16世紀以来の野蛮な戦争文化をキッパリと卒業する機会がついに訪れたことを意味した。

そこからは、軍事力を持つ者が他を支配する一極覇権主義やそれに基づく敵対的軍事同盟主義はもはや通用せず、大国も小国も、国家以前の地域でさえも、地上に存在するすべての人々は等しく「1票」を持って世界の平和と繁栄の追求に参与しその恩恵を享受することができるという「多極化」原理が支配的になるはずで、そのための教科書は、長く棚ざらしにされてきた国連憲章の「普遍的集団安全保障体制」論にほかならないかった。

が、冷戦終結の一方の当事者であったブッシュ父大統領は「米国は冷戦という名の第3次世界大戦に勝利し、仇敵=ソ連を叩き潰してやった。これからは米国が唯一超大国で、その経済力と軍事力を持ってすれば世界を思いのままに動かすことができる」という幻想に取り憑かれてしまった。

そこから米国の世界への不適応症が始まり、それは特にブッシュ子大統領によるアフガニスタンとイラクでの戦争を通じて重症化し、その誤りの害毒が全身に転移してボコボコと吹き出物が出ているのがトランプということになる。

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