熾烈を極める民進党と国民党の闘争。台湾内部の“戦い”に巻き込まれぬよう本気で備えるべき時を迎えた日本

 

中国大陸からの危機を煽り利益を得てきた民進党

こうした騒動で逆に目立つのは、頼清徳の焦りと自信のなさだ。

台湾は劉さんの問題以前にも、学術、文化分野における両岸交流を制限する措置を発表してきた。3月13日には軍事裁判制度を復活させると宣言して人々を驚かせた。

台湾の島民はいま、中国大陸との関係を探られ、自分の立場が危うくなることを恐れびくびくしている。ある種のレッド・パージだ。

民進党は本来、日本のメディアが「民主主義、人権の優等生」などとおだてるほど、価値観の確立した政党ではない。

自分たちに不都合な報道をするニュース専門チャンネル「中天新聞台」の免許をさっさと取上げてしまうほどだ。

北京冬季五輪では、スピードスケート女子台湾代表の選手が中国代表のユニホームを着てSNSに動画を投稿したことを問題視してわざわざ彼女を処分してみせた。

今回、劉さんの発信が「台湾への侵略戦争(?)を鼓吹する」ものとされたが、大陸からの危機を煽って利益を得てきたのは民進党自身ではないのか。

例えば、中国の台湾侵攻を扱ったドラマ「零日攻撃 ZERO DAY」だ。日本の一部メディアは「中立な立場で撮影した」という監督の言い分を垂れ流したが、後に台湾文化部などが出資していたことが発覚した。

問題は、現在の民進党や頼清徳が、自らの権力維持や台湾独立という政治野心のために東アジアの平和を犠牲にすることを厭わないような言動を繰り返すことだ。

筆者の見る限り、中台関係を大きく変えないことこそ、台湾をはじめ関係する国々にとっての最大公約数の利益だ。

しかし、頼清徳は就任以来、『新二国論』をはじめ蔡英文も自制して踏み込みこまなかった部分に挑み、大陸を挑発し続けている。

これが危険をはらんでいることは、中国がいちいち大規模な軍事演習で応じていることからも明らかだ。

いま、トランプ2.0時代になり、アメリカがいざとなっても台湾を守らないのではないかと疑う『疑米論』が台湾で広がっている。慌てた頼は台湾の防衛費を対GDP比で3%にすると宣言したが、そんな極端なことをすれば台湾自身の首を絞めることは、火を見るより明らかだ。

冒頭の劉さんの問題が、こうした流れのなかで起きたことを考えると、多くの示唆を含んでいる。

今後、さらに熾烈を極めると予測される台湾内部での緑(民進党)と藍(国民党)の戦い。日本はこれに巻き込まれないよう本気で備え始めるべき時を迎えている。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年3月30日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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