台湾在住の女性中国人インフルエンサーが中国による武力統一を支持する投稿を行ったとして、当該女性の居留許可を取り消した台湾当局。この措置については、台湾内からも批判の声が上がっているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、居留許可取り消し問題だけにとどまらない頼清徳台湾総統の「焦りと自信のなさ」を表すかのような言動を紹介。さらに日本政府に対しては、台湾内部の政争に巻き込まれぬよう注意を呼びかけています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:台湾が本格的な「反面教師」になりはじめた
日本が迎えた備えるべき時。本格的な「反面教師」になりはじめた台湾
台湾の与党・民主進歩党(民進党)が、いよいよ困った存在になりつつある。そんな問題が台湾海峡を挟んで持ち上がった。
台湾で活動する中国大陸出身のインフルエンサーの女性、劉振亜さんが突然、台湾での居留許可を取り消されてしまったのだ。
取り消しの理由は、「劉さんの発信が『両岸(台湾と中国)人民関係条例』に違反したから」だという。つまり言論が気に食わないから出て行け、というわけだ。
劉さんのほか2名の大陸出身女性にも、同じ理由で台湾からの退去が求められている。
問題視されたのは、「中国が武力で台湾を統一するのに理由は必要ない」などと劉さんが呼び掛けたことだ。これが「台湾の安全保障と社会の安定に危害を与えた」と判断されたという。
台湾贔屓の日本メディアの報道には早速「中国による認知戦」と、いつ、どのように実証されたのかも不確かな根拠を持ち出し台湾当局の行為を正当化する解説も見られた。
しかし、インフルエンサーとはいえ台湾の男性と結婚して子供もいる一般女性の言論である。台湾の内政部移民署は、今後5年間再申請を許可しないというのだから、少なくとも5年間は親子の時間を奪うのだ。そんな残酷なバツを与えるような話なのか。当然、台湾の野党や一部のメディアからは「言論の自由に影響する」と批判の声が上がた。
3月26日には台湾の学者75人が連名で再考を呼びかける共同声明も発表された。
これに対し総統府は「台湾への侵略戦争を鼓吹する言論は『民主主義と言論の自由のレッドラインに抵触』した」と応じた。ニュースを伝えた台湾の中央広播電臺の記事の見出も「国家主権の防衛に妥協の余地なし」だ。
国家主権(?)のためなら言論の自由など通用しないし、親子の絆を断ち切ってもOKとの宣言にも聞こえる。
国家主権とか、侵略戦争とか、突っ込みどころ満載過ぎて、何から話をすべきか迷うほどだが、日本メディアはまず劉さんの「亜亜在台湾」の発信がどんな法律に触れたのか、をはっきり糺すべきではないのか。
ある日本メディアは「中国と台湾で戦争が起これば、台湾は30分で廃墟になる」との一文を大きく見出しに取り、劉さんが戦争を煽ったように強調した。
だが、決して穏やかな内容な発信ではないが、同様の見解は世界にあふれ、台湾のテレビでも軍事専門家が語っている。
また「武力統一に理由はいらない」との発信も、理性的な発信とは思わないが、退去強制の要件を満たすと説明されても納得できない。
外患誘致罪とは言わないまでも、親子が一緒に暮らすという極めて大切な権利に踏み込むのであれば、少なくとも刑事罰に相当する罪──例えばインフルエンサーが中国当局から明確に指示を受けていたなど──をまず証明すべきではないだろうか。
発信の内容によって、行政裁量で追い出すことができるのであれば、言論が委縮しないはずはない。
第一、大陸のインフルエンサーが「武力行使に理由は不要」と発信したからといって喜ぶのは一部の大陸の中国人だけだ。台湾の人々はかえって警戒を強めるだろう。それとも中国共産党が「亜亜在台湾」を真に受けて侵攻するとでもいうのだろうか。
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