2024年末に日本中を驚かせ、連日のように報道が過熱していた元タレントの中居正広氏による元フジテレビ女性アナウンサーへの「性加害」問題。先月31日に、第三者委員会から公表された調査報告書の中身は、私たちが想像していた以上の酷い実態を記したものでした。健康社会学者の河合薫さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、今回の報告書がWHOの「性暴力」に関する定義を用いたことに触れながら、フジが過去に犯したハラスメント事例を要約して日本の「病巣」を憂いています。
“性暴力“とは?
元タレントの中居正広氏によるトラブルを巡る一連の問題に関する第三者委員会の調査報告書が、先日公表されました。
すでに多くのメディアが取り上げているとおり、中居氏の元女性アナウンサーへの行為が性暴力と認定され、フジテレビ社内に根付く「ハラスメントに寛容な企業体質」を断罪。「性別・年齢・容姿などに着目」してアナウンサーらが呼ばれる取引先との不適切な会合が開かれていた実態も明かされました。
さらには、過去にも類似の事案が複数件あったとことや、フジテレビの報道キャスター、元常務ら2人にも、女性へのハラスメント行為があったと認定しました。
中居氏と関係が密だった男性社員とのやり取りや、被害者女性とのメール内容、過去に遡っての社内調査など、第三者メンバーは相当な労力をかけて、本事案に取り組んだことが伝わる内容でした。
報告書公表後の第三者委員会の記者会見も、実に丁寧かつ簡潔に整理されていて、その姿勢自体が、今回の事案の深刻さを物語るものでした。
印象的だったのは、記者会見の冒頭で「性暴力(Sexual Violence)の認定が世界保健機構(WHO)の定義に基づいて行われた」と説明した点です。
強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為をいい、被害者との関係性を問わず、家庭や職場を含むあらゆる環境で起こり得るものである。
また、この定義における「強制力」とは、有形力に限らず、心理的な威圧、ゆすり、その他脅しが含まれるもので、その強制力の程度は問題とならない。
このように、性暴力は「その強制力の程度は問題とならない」というWHOの定義で世界は動いているのです。
今回のフジテレビの問題は「芸能人」と「女子アナ」という枠で捉えた報道や解釈が大半です。しかし、日本にはいまだに「これくらいだったら問題ないだろう」と考える、昭和脳の輩が大勢います。
先進国で唯一ハラスメント自体を禁止する法律のない日本は、第三委員会が認定した過去のハラスメント行為の内容と、それに対する社内上層部の対応を知るべきだと思います。
残念なのは、この問題が報告書の要約版にはなく、300ページにわたる全体版にしか詳細に記載されてないことです。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
本メルマガでは、要点の概要を以下で紹介しますので、何がアウトなのか、自分の会社ではどうか、自分の周りはどうか、を考えてみてください。
<報道番組キャスターS氏によるハラスメント その1>
- 2006年頃、女性社員MさんをS氏は何度も食事に誘う。
- Mさんが誘いに応じ一対一での食事に行ったところ、休日にドライブに誘われ、食事、花火、映画、バーなどに連れ回された。
- その後、MさんがS氏の食事の誘いを断ったところ、業務上必要なメモを共有してらもえなかったり、原稿が遅いなどと不当な叱責を部内一斉メールで送信されたり、電話で怒鳴られたり、威圧的な口調で話をされたりした。
- 上長に相談するも、納得できる対応は得られなかった(上長はS氏が行為の一部を認めたことから叱責したが、Mさんには伝えられていなかった)。
<報道番組キャスターS氏によるハラスメント その2>
- 07年~08年頃、S氏は女性社員Nさんを一対一での食事に誘ったり、休日に「今何しているのか写メを送れ」という趣旨のメールをした。
- Nさんが、それらの誘いを断ったところ、Nさんに対しても不当な叱責を部内一斉メールで送信したり、電話での論旨不明な叱責をしたりした。
- Nさんも上長に相談するが、納得した回答は得られなかった。
< 2018年1月、S氏の「報道番組のメインキャスター就任」が発表される>
- 週刊誌がS氏のMさん・Nさんへのハラスメントを報道
- 専務取締役(当時)と報道局長(当時)からMさんとNさんに対し、S氏に本件ハラスメント行為を否定するような言動はさせないことを約束しつつも、ハラスメントを口外しないよう求めて事態の鎮静化を図ろうとした(当時の録音テープで確認)。
これらの調査結果を受け、第三者委員会は「女性社員の心情を無視して対外的に事実関係を否定する声明を出すことによってハラスメント行為自体を隠ぺいし、で解決を図ろうとする組織的な体質の現れであるといえる」と指摘。
さらに「S氏は、ハラスメント行為を行った当時や週刊誌の報道後も懲戒処分を受けることなく、現在も報道番組のキャスターとして出演し、その後も一貫して昇進を続け、2021年にはフジテレビの取締役に就任している」と批判している。
さて、いかがでしょうか。
あなたの周りにも似たような事案があるのではないでしょうか。
私はこれと同じようなハラスメントにあった人から、何度も相談を受けました。
そういう企業では、この時フジテレビが取った対応とほとんど同じ対応をしています。つまり、なかったことにする、です。被害者ではなく加害者守りに徹するのです。
加害者は大抵の場合、企業を階層最上階に登りつめた“大ジジイ“の子飼いで、何をやっても許され、大ジジイの引きで昇進し、階層上階に用意された椅子に「何事もなかった」ように太々しく座ります。
今回、第三者委員会は日枝氏の影響力にも言及したものの、「日枝氏だけが企業風土をつくったわけではない」とし、役員全員に責任があり、経営責任は取締役全員が負うべきだと結論付けました。
私は・・・今回明かされたフジテレビの病巣は、日本社会そのものの病巣に思えてなりません。
WHOの性暴力の定義を、日本のすべての企業の経営者は知るべきだし、知って欲しいです。
自分の大切な娘が、自分の自慢の息子が、性暴力にあったらと考えてみてください。
みなさんのご意見や体験など、お聞かせください。
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