本格的には停戦に動くことがないロシアの本音
トランプ大統領の苛立ちの理由に、ウクライナが資源協定に消極的で、近日中に合意に至る見込みがないことが挙げられますが(まあ、ウクライナとしては、喉から手が出るほど欲しい安全保障の確約が与えられないのに、一方的に妥協する必要はないと考えて当然です)、資源国であるロシアは、レアアースのみならず、原油や天然ガスといった資源に関するディールをアメリカに提供する可能性をチラつかせて、ロシアが望む制裁の解除やSWIFTへの接続再開、ノルドストリームの再開などを、トランプ大統領に、まるでロシアのエージェントであるかのように欧州に働きかけさせる状況を作り出そうとしています。
ただし、例え合意などなくとも、ロシアとしてはまだ困っておらず、制裁の解除の可否についてはどちらでもいいというのが本音でしょうから、ロシアは本格的に停戦には動かないものと考えます。
欧州ではフランスのマクロン大統領が音頭を取り、ロシアがレッドラインに設定する“ウクライナへの欧州軍の派遣と駐留”を、英仏を核として進めようとしており、ウクライナのシビハ外相もフランス・モンペリエでの会合に参加し、規模や必要とする装備、人員、そして駐留場所について協議しているようですが、欧州内でもイタリアは反対していますし、スペインやポルトガルといった南欧諸国のみならず、欧州の核と考えられるドイツも、政権が変わっても欧州軍構想には乗り気ではないため、恐らくまた“動けない欧州の気前の良い空約束”となりかねないと考えます。
そしてすでに戦後のロシアとの適切な距離感の確保に関心が移っている欧州諸国としては、直接的な脅威に晒され、対人地雷禁止条約からの脱退を行ったか、その方向を決めたバルト三国やポーランド、フィンランド(そして恐らくスウェーデン)という例外を除き、露骨なウクライナへの肩入れは、国内の厭戦機運とも相まって、言っているほどのレベルでは行わないというのが、私の個人的な感触です。
結局のところ、プーチン大統領は掌の上でトランプ大統領はもちろん、国際社会全体を躍らせ、可能な限りロシアに有利な状況を作り出すことに成功し始めているように見えます。
ウクライナの奇襲を受けたロシアのクルスク州の住民という例外を除き、ロシア国民は現時点ではウクライナ戦争の影響をあまり感じていないという統計もありますし、思考のベースに「どうせ誰もロシアのことは理解できない」という思いがロシア国民の中で共通しているということに鑑みると、プーチン大統領が何か小さなことでもアメリカや国際社会から分捕ってきたら、それは大きな成果に変わるというマジックも働くことが濃厚です。
ウクライナフロントでの戦況を優位に進めつつ、停戦というニンジンをぶら下げて交渉を遅延させて時間を稼ぎ、その間に態勢・体制を立て直すという作戦が着々と進んでいます。ここでいう態勢・体制とは軍事的なものに限らず、ロシアの国際社会におけるプレゼンスと影響力の回復と拡大も意味します。
その意味では中東、アフリカ地域での影響力の回復が見られますし、縁を切ったはずのワグネルもスーダン内戦において暗躍し、ロシアのプレゼンスの拡大に一役買っています。
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