プーチン大統領が国際社会に対して仕掛けるゲーム
ウクライナ戦争の解決を可能な限り先延ばしする背後で、スーダンでの内戦を長引かせ、イランとアメリカの緊張を煽り、トランプ大統領には“イランの核開発阻止に向けて協力できるかもしれない”と持ち掛けてイランを見捨てるように見せつつ、しっかりと中国と共にイランを支えるという状況を作って、ロシアに有利な状況を作り出していますし、世界がイスラエルの蛮行に怒る中、その影で一度は失ったシリアでのプレゼンスを、旧アサド派を支援することで取り戻し、東アフリカ側にも影響力を及ぼすことで、地中海を挟む形でロシアは軍事的なプレゼンスも回復し、拡大しようとしています。
“停戦”に前向きという姿勢を武器に、相手の弱みに付け込んでじらし続け、自らの要求をのませるのは、旧ソ連時代から特有の交渉術と言われていますが、まさに今、プーチン大統領は欧米諸国および国際社会に対してこのゲームを仕掛け、自らが夢見るプーチン版大ロシア帝国の再興を目論んでいます。
ただその背後でウクライナの一般市民が犠牲になり、ウクライナとの前線で戦うロシア兵の命が犠牲になり、スーダンでは内戦を長引かせることで数百万人にのぼる死者を出している悲劇を増長し続けています。
同じくイスラエルのネタニヤフ首相も、自分の保身と政治的な基盤の死守のために、ガザにおけるハマスとの終わらない戦争、ヒズボラとの戦いとレバノンへの戦線拡大、イスラエル人に根差す生存への渇望という根本的な心理と恐怖感に訴えかけて戦争を継続し、自らに非難の矢が飛んでこないように交錯し続けています。
そしてかつてはアメリカの仲介の下、対イラク戦争を戦うためにイランに武器供与を行い“同盟関係”にあったイラン革命政府を、イスラエルの生存に対する最大の脅威としてイメージ付けを行って、激しくイランを威嚇しつつ、アメリカの反イラン感情を利用してそれに乗っかって、イランとの緊張を作り出し、その緊張の緩和のためにはイランとの交戦もやむを得ないという危機を作り出して、ネタニヤフ首相の権力の維持・拡大という私欲に利用しているように見えます。
そのためにハマスが捕えたイスラエル人の人質は駒として使われ、ハマス掃討という大目的を掲げつつ、イスラエルとイスラエル人が自らの生存への脅威とずっと位置付けてきた「パレスチナ人を今こそ排除すべき」という極右の論調を利用して容赦なく無差別攻撃が続けられ、結果、罪なき一般市民が尊い命を無残に奪われるという、大矛盾が引き起こされています。
これまで紛争調停官として、紛争の現場で(多くの場合、最前線で)酷い状況を見てきましたが、国家安全保障という御旗の下、次々と一般市民の命が奪われていく現状に直面して、どうしようもない無力感を感じるとともに、それでも調停努力を続けないといけないという使命感を抱いて、何とも言えない精神状態に陥っているように感じます。
「今週は何も起こらなかったので、国際情勢の裏側についてお話しするネタがないんですよね」
そう言える時がそう遠くないうちに訪れることを切に祈りつつ、今週のコラムを終えたいと思います。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年4月4日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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