■ 心理的影響から視聴習慣と生活リズムの変化
ネットフリックスが与えた影響は経済だけに留まらない。
心理的側面にも深く作用している。
その最たる例が「視聴の自由化」である。これまでテレビ番組は放送時間に縛られていたが、ネットフリックスは“いつでも”“どこでも”“好きなだけ”見ることができる。この自由度の高さが視聴者の生活リズムに変化を与えた。
「ながら視聴」や「一気見(ビンジ・ウォッチングというらしい)」といった行動様式は、その代表例だ。
特に一気見に関しては、没入感が高く、ストーリー展開に対する感情の揺さぶりが強くなるという心理的特性がある。
これは良くも悪くも、視聴者の感情や日常生活に一定の影響を与えることが研究でも指摘されているのだ。ちょっと怖さもあるね。
一方で、コロナ禍のステイホーム期間中においては、ネットフリックスは“心の避難場所”としての役割を果たしたとも言える。
実際に2020年~21年のネットフリックスの視聴時間は大幅に増加し、社会的な孤立感や不安感をやわらげる一助となったという声も多い。
人々は物理的な移動が制限された中で、映像の世界を通じて「仮想的な旅」や「共感の共有」を得たのである。自分もその中にすっぽりと収まってしまった感がある。
■ 徴候としての現象からカルチャーの再編成とジェネレーションギャップ
ネットフリックスはカルチャーの再編成にも寄与した。
若者世代にとっては、テレビよりもネットフリックスの作品のほうが「話題の中心」になりやすい。
『ストレンジャー・シングス』『ウィッチャー』といった海外作品がTikTokやInstagramでトレンド入りする一方で、地上波のドラマやバラエティは“親世代のメディア”としてやや距離を置かれている。
また、アニメやドキュメンタリーなど、多様なジャンルがいつでもアクセスできることで、「趣味の個別化」が進んだ。
これにより、共通の話題が減り、家族内でもメディア体験が分断されるようになっている。たとえば、親はNHKの大河ドラマ、子どもはネットフリックスの韓国ドラマをそれぞれスマホで視聴しているというような風景は、すでに日常の一コマとなってしまった。
このような分断は一見ネガティブにも映るが、「多様性の受容」とも言える。それでもやっぱり少し違和感は残る。
従来の“みんな同じ番組を見る”という価値観から、“それぞれが好きなものを選ぶ”という新たな価値観へのシフトは、自己表現の自由とも連動しているから仕方ないのだが、昭和世代はたまに寂しくなるものなのだ。
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