中島聡の仕事術【最新版】超高速開発を実現するAIネイティブな組織とは?/Vue.jsかReactかアンソニー・フー氏との対話/企業がオープンソースに取り組むメリット

 

MulmoCastをオープン・ソースな形で作る理由

先週、企業がオープンソースに取り組むべき理由として、以下のように書きました。

プロジェクト内部に閉じた形で作られたソフトウェア・モジュールは多くの場合、そのプロジェクトでしか使われず、たとえ同じ社内であっても共有されることは滅多にありません(私がいた頃のMicrosoftがそうでした)。結果として、社内で作られたさまざまなソフトウェア・モジュールが再利用もされずに「死蔵」されてしまいます。

それだけでも大きな損失ですが、作るエンジニアからすると、そのソフトウェア・モジュールを一度だけ使うために作るのか、再利用を前提に作るのかで、設計の仕方もコードの書き方も大きく変わって来ます。特に、オープンソースとなれば、だらしないコードを公開することは、自分の恥を晒すことになるので、意気込みも違います。

MulmoCastに関しても、同様で、オープンな形で書くからこそ良いものが作れる、という面は多分にあります。

それに加え、MulmoCastの場合、私自身の「会社経営ではなくコーディングに集中したい。売り上げを上げることよりも、良いものを作ることを優先したい」という気持ちも、とてもオープンソースと相性が良いのです。

この業界には、毎年、何千、何万という数のベンチャー企業が誕生していますが、その大半がVC(ベンチャー投資家)から資金調達も出来ず、必要な売り上げを上げることができずに消えて行きます。

ごく一部の選ばれたベンチャー企業はVCからの資金調達に成功しますが、その多くも、やはり2~3年で消えてしまいます。

VCから億単位の資金を調達しながら、なぜすぐに倒産してしまうのか不思議に思えるかも知れませんが、そこにはVCのビジネスモデルがあります。

VCは、LP(VCに資金を提供する投資家)から集めた資金を有望なベンチャー企業に投資します。上場企業への投資と違って、かなりハイリスクな投資であるため、成功した場合のリターンは大きいものでなければなりません。100社に投資し、そのうち大半が倒産したとしても、数社がそれぞれ10倍、100倍のリターンを返してくれれば十分なのです。

野球に例えれば、VC傘下のベンチャー企業群は、全員がホームラン狙いの野球チームのようなものです。打率は低くても良いので、常にホームラン狙いで「マン振り」することを期待されており、バントヒットが得意な選手は、そもそもチームに入れてもらえないのです。

私自身もCEOとしてそんな環境に二度ほどさらされました。どちらも結果オーライ(売却)でしたが、それ故、途中で売却しなければいけなくなってしまったし、私自身がコーディングを楽しむことが出来ませんでした

MulmoCastの場合、幸いなことにメルマガからの収入があるため、売上やVCからの資金に頼らず、地に足をつけた形で、まずは「世の中に価値を提供する」ことに専念出来ます。生産性の高い2.5人のエンジニアが、資金繰りの心配もせずに1年間開発を続けたら、どんなものが出来るのか、想像しただけでワクワクします。

「Googleとの交渉破談」という苦い経験を糧に

以前、メルマガに書いた記憶がありますが、私が2000年に作ったUIEvolutionは、私が開発したUIEngineという、組み込み機器向けのユーザーインターフェイスの描画エンジンをライセンスするビジネスを行っていました。2004年にGoogleからGoogle TVへの採用を打診されたことがあります。

当時、スクエニと組んでビジネスをしていたUIEvolutionは、パナソニックのテレビへのUIEngineの採用に向けて交渉を進めていましたが、そこに横槍を入れてきたのがGoogleだったのです。

当時、Googleは家電の第一歩としてGoogle TVの開発の準備を進めていましたが、まだAndroid OSを持っていなかったGoogleは、コンパクトで移植性の高いUIEngineを評価し、採用を打診して来たのです(GoogleがAndroidを買収したのは翌年の2005年)。

パナソニックも交えた交渉が始まったのですが、そこでGoogleが強く主張したのは、UIEngineをオープンソースにすることでした。テレビ以外の家電や、自動車への進出まで考えていたGoogleとしては、コアとなる技術を一社に頼り切ることは出来なかったのです。

そのころの私は、オープンソースの本当の価値を理解していなかったこともあり、「オープンソースにしてしまっては、UIEngineのライセンス料が入らなくなる」と考え、それを頭から拒否してしまったため、破談になってしまったのです。

この苦い経験も、MulmoCastをオープンソースで開発することに繋がっています。オープンにすることにより、複数の企業とパートナーシップを結び、大きなエコシステムを作って行くことが出来たら良いと考えています。(次ページに続く)

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