アンソニー・フー氏との会話で感じたこと。とてもユニークな「決定プロセス」
今回、ちょっとしたきっかけから、Anthony Fu氏と食事をする機会がありました。Anthonyは、私が気に入って使っているVue.jsのコントリビューターであり、TypeScript業界では、有名なエンジニアです。
Anthonyは、中国生まれのエンジニアで、台湾の大学でコンピュータ・サイエンスの勉強をしていた時に、Vue.jsのコントリビュータになり、それがきっかけで、フランスの会社NextLabsに採用され、給料をもらいながらオープンソースの開発をするという恵まれた環境に置かれています。
最近になって、日本の学生ビザを取得し、日本に移り住んでリモートで働くという、とても面白いことをしている人物です。
食事の場ではいろいろな話をしましたが、もちろん、MulmoCastの話もし、興味を持ってもらえました。彼の専門はAIではありませんが、当然、何が起こっているかは知っており、MulmoCastを通じて、AIの世界にもコントリビュータとして参加してもらえたら良いと考えています。
ちなみに、MulmoCastは、先週ベータ版(beta1)を発表しましたが、まだ一般の人には使いにくいので、次のフェーズ(beta2)では、アプリ版をリリースする予定です。その際に、UIはWebの技術を使って作るのですが、Reactで作るべきか、Vue.jsで作るべきかは、悩ましいところです。
私自身は、Vue.jsの方が好きなのですが、AIにコードを書かせる場合にはReactの方が有利なのです。
市場のシェアは、8:2でReactの方が有利なため、githubのリポジトリーを教育データとして学んだ大規模言語モデルは、Reactの方が得意なのです。
すでにUIのプロトタイプもReactで作り初めていたため、「このままReactで行くしかないかな」と考えていた矢先に、Anthonyと会ったのです。
私は、「Anthonyと会ったところでReactを採用する決定は下すしかない」と考え、その決定の通知を翌朝MulmoCastの開発チームのSlackチャンネルに書き込もうとしたら、驚くことにAnthonyがそのチャンネルに参加していることに気がつきました。
確かに食事の場で、「Slackチャンネルに招待するよ」みたいなことを言ったことは覚えていますが、私は社交辞令ぐらいにしか考えておらず、実際にすぐに入ってくれるとは驚きです。
そこで、試しに、「Anthonyが手伝ってくれるなら、Vue.jsを採用するよ」とカマをかけたところ「君たちにとって一番良いプラットフォームを採用すべきだよ。僕に何が出来るかは考えてみるよ」という返事が返って来ました。
そう言われてしまっては、Vue.jsでUIを構築して、彼にコントリビュートしてもらうことを期待するしかありません。オープンソース業界ならではの、とてもユニークな「決定プロセス」になりました。
(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年6月10日号を一部抜粋・再構成したものです。中島氏が最新ニュースや技術トレンドを解説する「私の目に止まった記事」や読者質問コーナー(今週は12名の質問に回答)などメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です ※メルマガ全体約1.6万字)
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