高等教育は本当に全員に必要なものなのか?日本は「大学までいくのが当たり前」という価値観を見直す時期にきているのでは? …そんな疑問が人気コンサルタントの永江一石さんに届きました。永江さんは自身のメルマガ『永江一石の「何でも質問&何でも回答」メルマガ』の中で、高等教育と少子化問題に対する自身の見解を語っています。
高等教育と少子化問題に対するわたしの見解
Question
永江様、令和6年の日本人の出生数が68万6千人、合計特殊出生率も1.15と最低を記録したそうです。
政府機関が令和5年にまとめた将来予測人口(中位推計)では、令和6年の日本人の出生数を75万5千人と見込んでいましたので、わずか1年後の予測を1割も外すという大失態を犯したようですね。(わざと大甘に予測したのかもしれませんが)
この状況での、日本の高等教育の意義について質問させていただきます。私は一流と言われる高校大学を卒業し、知識や教養が必要とされる仕事をしていますが、実際に仕事で使っている知識のほとんどは中学校までか、大学を卒業してから身に付けたものばかりです。
もちろん、高校や大学での課外活動で得た組織感覚や人間関係の経験などは非常に役立っていますが、授業の知識はほとんど使っていません。もし中学卒業後に、今の仕事に必要な勉強をしていれば、より早く稼げるようになっていたことでしょう。
近年の就職採用の現場は、高校や大学の授業の知識が必要だからではなく、知能テストの代わりに学歴を使っているように感じます。実際、多くの人が高学歴を目指す現状においては、競争に勝った高学歴の人ほど優秀な可能性が高いと思います(地頭が良いという意味で)。
ですが、就職のパスポートのために多くの若者が中学卒業後7年以上の時間を費やすのは、日本社会にとって良いのでしょうか?多くの人が大学を出て高度な知識を身に付ければ、革新的な技術を開発する人も多く出るという面はあると思います。しかし技術があっても、工場で働く人がいなければ物は作れません。今の日本は働く人がいないので、技術があっても海外で作るしかない状況です。
極論ですが、高校進学率10%、大学進学率5%の社会になったら、次のメリットがあると思います。
・早く社会に出るので、日本の労働力が増加する。
・塾も含めた学費のために子供を諦める必要がなくなり、出生率が上がる。
・社会に出て生活が安定するのが早くなるため、結婚の時期が早まり、出生率が上がる。
これらのメリットは無視できないと思います。デメリットも大きいことは承知していますが、少なくとも日本人が絶滅に向かってどんどん減少するのを防ぐことができます。
最近の少子化対策は、高校や大学を無償化して、より多くの人を大学に行かせようとしていますが、むしろ、中学校を出たら1~2年ほど職業訓練校に通って就職するような社会を目指したほうが、少子化対策になるように思います。せめて、大学に行かなくても不利にならない社会にすべきではないでしょうか。
永江さんはどう思われますか?どうぞよろしくお願いいたします。
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永江さんからの回答
とても良いご質問ですね。これは講演ができるくらい話せるテーマですw
質問者さんの提案は気持ちは分かります。ただ、これを日本で取り入れようとすると大反発があるでしょう。大学は遊ぶところだと思っている子どもからはもちろん、「まだ13,14歳の子が将来を決められるなんて可哀想」という過保護な親からも反対されると思います。
まず人口予測の話から始めましょう。日本の出生数減少は加速度がついてきており、このペースだと2040年には40万人くらいになってしまいます。おっしゃる通り、将来予測人口の中位推計は一度も当たったことがないどころか、実際は下位推計よりも下回っています。
人口予測が外れ続けるのは理由があって、本当の数字を出すと厚生年金も健康保険も成り立ちませんと国が認めないといけなくなるから。人口問題研究所というのは完全な厚労省の下部団体で、この中位推計ではなぜかコロナ後に突然人口が増え始めるという設定になっています。
コロナでは厚労省が医師会と一緒に国民を締め付けて、2年以上も鎖国しましたよね。若者はみんな恋愛なんてできなくて、青春時代を無駄にさせたわけです。その子たちが結婚相手を見つけられるはずがない。
ぶっちゃけ、人口問題研究所は年金の社会保障システムが崩壊しないような予測値を出してるとしか思えないんです。普通なら外れたら修正するのに、それをしないのはそもそも予測する気がないんです。「5年後、10年後に社会保険がなくなります」とは口が裂けても言えないから。
厚労省の職員も、東大出の優秀な人たちだから全員気づいているでしょう。人口予測がおかしいのに、これをもとに政策文書を書いて「こんなものを出していいのかな」とものすごい罪悪感に苛まれていると思います。w
また質問者さんのご提案は国や親の立場からは分かりますが、子どもの立場の視点が完全に欠けています。子どもは借金とか知らないし、考えたくもないので永遠に遊んでいたいんです。
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例えばFラン大学に借金をして行く子は単純に4年間遊びたいから大学に行きます。田舎の親も、自分が高卒だと大学というだけで立派だと思う人は大勢いるので、Fランだと就職もできないとは知らないんです。日本人の60%以上が日本に1,000兆円の国債があると知らないわけで、そういう人たちから見たら、大学さえ出ていればおまんまの食い上げはないと思っているわけですね。
ドイツは13歳で勉強ができない子は実務方面に行くと決まり、振り分けが行われます。そのため大学進学率が低いですが、少子化は続いています。一方で沖縄はお金がないし、進学率も低いのに出生率は高い。なぜかというと、マインドが明るいからです。
北海道の出生率が低いのは、食えなかったら餓死するしかないみたいな厳しい環境だから。沖縄はフラフラしていても食うに困らない。だから少子化を解決するには、マインドが変わることが重要なんです。「これから日本は良くなる」というマインドになることが必要で、わたしは規制緩和が一番効果があると思っています。
選択制別姓もOK、LGBTもOK、何でも自由になって、規制がどんどんなくなる。農業規制もなくなり、誰が農家をやってもいいんだよとなれば、日本も風通しが良くなり、子どもも生まれると思います。
教育については、Fラン大学への補助金を切って、高専のような実務教育を充実させる方向性が現実的だと思います。高専って実は偏差値がめちゃくちゃ高くて、上位は67から69で、進学校と変わりません。
高専はハードエンジニアを育てる学校なので、トヨタの設計部にも高専卒がたくさんいます。大学の工学部は専門的なことを教えないので、車のデザインをしたいと思ったら、工学部より高専に行った方が絶対良いです。(トヨタの工場のエンジニアは年収1,000万円超えがザラにいます)
規制を緩和し、日本の風通しを良くする。教育についてはFラン大学への補助を切って、高専のような実務教育を充実させる。できるかどうかは謎ですが、その方向が最も現実的だと思います。
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