孤高の天才ブライアン・ウィルソンの音楽が照らした、母国アメリカのまばゆい「光」と漆黒の「闇」

 

父からの虐待、ドラッグ、精神疾患…ブライアンの闇夜

初期のビーチ・ボーイズのマネージャー役を担った父親は、今でいう虐待を繰り返しており、ブライアンさんの闇は幼少期から始まっていると考えられる。

ブライアンさんに関する記事では、精神疾患、統合失調症、ドラッグ等の表記でその苦悩の日々を表現しているが、この父親との関係性がもう少し健全であったならば、彼の人生は大きく変わったであろうことを思うと、映像でどんなライブを見ても、その横顔に漂う切なさに、その虐待の追憶、苦悩の日々と薬の影響を見てしまう。

しかし、この苦悩の中にいる天才は20世紀最高の名盤とされる『ペット・サウンズ』を生んだ。

The Beach Boys『Pet Sounds』(1966)

The Beach Boys『Pet Sounds』(1966)

ブライアンさんはインタビューで、65年のビートルズのアルバム『ラバー・ソウル』に衝撃を受け、その音作りを超える作品を目指したことを明らかにしている。

ビートルズのポール・マッカートニーさんとは同い年で、その後、2人は親交を深めるが、音楽において米英でそれぞれ大きな足跡を残し、世界中のポップミュージックに影響を与えた。

もちろん、JPOPも例外ではなかった。

ブライアンが示した「再生の光」は、米国の「闇」を照らす一助となるか

ブライアンさんの暗闇の物語が、ほんの少し微笑ましくなるのは、ほぼ半世紀後に完成された「スマイル」と、晩年のライブ活動に接する時である。

image by: Richard King, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

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「スマイル」の楽曲を披露したライブは音楽評論家の荻原健太さんの「50年目の『スマイル』 ぼくはビーチボーイズが大好き」に詳しく、この内容を私が評する知見はない。

ただただ、晩年に歌手の娘とも共演し、自分のサウンドづくりを結実させた彼を見るのは、あたたかい気持ちになる。

その光はあたたかいものとして放ち続けている、と。

生き続けてよかった、と涙腺が緩む。

 そのライブは、ポップ音楽の可能性、音のハーモニーの深奥を示し、崇高な儀式にも思えてくる。

苦悩の闇から、新しい光を示したその姿と、人を闇夜に葬る攻撃を展開する米国を重ね合わせた時、ブライアンさんが示した再生の光から、考えたい。

爆撃の闇夜から脱するために、何とか光を見いだせないだろうか。

【関連】【追悼】ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが82歳で死去。傑作『ペット・サウンズ』を聴いて“気絶した”話

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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