あまりに一方的と言わざるを得ない、トランプ大統領による各国に対する相互関税の設定。なぜトランプ氏は日本を含む友好国にまでこのような要求を突きつけるに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、その背景を徹底解説。「アメリカの横暴」という理由だけでは片付けられない世界経済の裏事情を詳説しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ関税と資本主義の崩壊
トランプ関税と資本主義の崩壊
トランプ大統領の関税政策が、世界の国々に大きな衝撃を与えていますね。日本でも25%の関税が課せられるという文書が送付されてきたようで、これが施行されると日本経済に少なからず影響が出ることでしょう。
このトランプ関税は、実は現在の資本主義システムの欠陥の表れでもあるのです。
なぜトランプ大統領は、こんな無理難題とも言えるような関税策を講じたのでしょうか?これは単なるアメリカの横暴とだけでは片づけられない、深刻なシステム上の欠陥があるのです。
今回から数回に分けて、このトランプ関税が発表された背景と、資本主義システムの欠陥について追及していきたいと思います。
世界最大の借金国が世界経済の元締めという矛盾
トランプ大統領が、関税を高くして輸入を減らそうとしている最大の理由は、アメリカの貿易赤字の蓄積です。アメリカは長年貿易赤字が続いており、現在の対外債務は約25兆ドルに達しています。日本円にして、約3,800兆円ほどです。しかもこれは現在も非常な勢いで増加し続けています。
またアメリカは、対外債権から対外債務を差し引いた対外純資産も約14兆ドルの赤字です。日本円にして約2,000兆円ほどです。つまり、アメリカは14兆ドル(約2,000兆円)の債務超過なのです。この14兆ドルの対外純債務というのは、世界最大にして史上最大です。
が、この破産状態のアメリカの通貨であるドルは、世界経済の基軸通貨です。基軸通貨というのは、ざっくり言えば世界貿易の決済などにおいて使われる通貨ということです。
たとえば、日本が中東から石油を輸入した場合、その支払いにはドルが使われます。中東から見れば日本円で代金を支払われても困るのです。日本円は日本から輸入製品を買うときには使えますが、日本以外の国のものを買うときには原則として使えません。しかし、ドルであれば、世界中の国のものを買うときにも使えます。つまり、それが基軸通貨ということです。
しかし、世界最大の借金国の通貨であるドルが未だに世界の基軸通貨となっているということは、世界経済において大きな矛盾といえます。
通常、世界貿易で使われる通貨などというものは、もっとも信頼のおけるもっとも安定した通貨でなくてはならないはずです。なのに、現代の国際経済では、世界一の借金大国の銀行券が、世界の基軸通貨として使用されているのです。
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アメリカが赤字だからこそ世界経済は回っている
しかも、アメリカの国際収支(経常収支)はよくなる気配がありません。
アメリカの2023年の輸出入額を見てみると、輸出額が2兆452億ドルに対して、輸入額が3兆1,085億ドルもあるのです。輸出額の1.5の輸入をしているのです。
そしてアメリカはこの状態がかなり長く続いています。こういう状態が続けば、いくら何でも国は破綻してしまうはずです。というより、今のアメリカは、いつ破綻してもおかしくない状態だといえます。
今のアメリカ以上に対外債務を増やした国は、いまだかつてありません。他の国は、アメリカほど借金はできないし、これほど借金が膨れ上がる前に、デフォルトを起こしています。つまり、アメリカは世界最悪の借金国であり、史上最悪の借金国なのです。
にもかかわらず現在アメリカは世界の中央銀行の役割を果たしています。その史上最悪の借金国の通貨であるドルが、世界の基軸通貨となっているのです。借金まみれの国が、世界の通貨の総元締めを担っているのです。
これほどの矛盾はないだろうし、中央銀行としてはこれほど危なっかしいことはありません。もしアメリカがデフォルトなどと起こせば、世界経済は崩壊するのです。
アメリカがそういう危険な状態であることは、当然トランプ大統領は知っているわけです。だからこそ、無理難題とも言えるようなトランプ関税を発表し、貿易赤字を減らそうとしているわけです。
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そもそもなぜアメリカ・ドルが世界の基軸通貨なのか?
そもそもなぜ、借金だらけのアメリカの通貨であるドルが、世界経済の基軸通貨になっているのでしょうか?それは、第二次世界大戦後の世界経済レジームがアメリカを中心につくられたからです。
アメリカは、第一次世界大戦、第二次世界大戦ともに国土が戦災を受けませんでした。そして、第一次世界大戦、第二次世界大戦ともに、連合国側に大量に軍需物資を売りつけ、世界の金の7割を保持するまでになったのです。
アメリカはそういう我が世の春を謳歌する一方で、世界大恐慌から第二次世界大戦に至る世界経済の混乱では痛い思いもしました。世界大恐慌の後、イギリス、フランスなどがブロック経済を敷いたため、世界市場の大半が閉ざされたのです。
アメリカの大量の農産物や工業製品は行き場を失うことになり、アメリカ経済は大きなダメージを受けました。そのためアメリカは戦後世界の経済覇権を握り、アメリカを中心とした自由貿易圏を世界中に広げようとしたのです。
第二次世界大戦の終盤の1944年、アメリカのブレトン・ウッズで戦後の国際経済の新しい枠組みが作られる会議が開催されました。かの有名なブレトン・ウッズ会議です。
アメリカが、世界金融の中心になったのは、このブレトン・ウッズ会議からだといえます。アメリカはこの会議において、「ドルを金と兌換させドルを世界の基軸通貨とする」ということを強行に主張しました。
「アメリカは保有している大量の金を背景にドルと金の兌換に応じる」「ドルはその信用を背景にして、世界貿易の基軸通貨となる」ということです。
第二次世界大戦前、欧米諸国は、通貨の価値と金の保有量を連動させる「金本位制」をとっていました。金本位制では、通貨と金の交換価値が定められており、各国の中央銀行は、求められれば通貨と金を交換していました。そうすることで、通貨の価値を保証したのです。
しかし、世界大恐慌などで金の流出が続いたため、各国は相次いで金の兌換を停止させます。金本位制のルールが壊れ、世界貿易は大混乱をきたしたのです。
その問題を解消するため、アメリカは、世界中の国に対し、「ドルと金の兌換を保障するから、今後の世界貿易はドルを基軸通貨として使うべし」と主張したのです。
しかし、ドルを世界貿易の基軸通貨とするならば、世界中の国が、貿易に際してドルを調達しなければならず、必然的にアメリカは「世界の銀行」としての地位に君臨することになります。
それまでの世界の基軸通貨はイギリスのポンドであり、イギリスとしてはアメリカの主張は簡単に受け入れられるものではありませんでした。
が、第二次大戦後のアメリカとイギリスの経済力の差は歴然であり、というよりイギリスは戦後復興をアメリカの支援に頼らざるを得なかったため、最終的にアメリカの主張が通ったのです。
こうして「ドル金本位制」とも呼べる、戦後の世界金融の仕組みが出来上がったのです。
戦後の世界金融レジームでは、アメリカ以外の国々の紙幣は金との交換はしません。しかし、各国の紙幣とドルとの交換レートが決まっており、ドルが金との交換を保証しています。つまり、ドルとの交換レートが定まっている国は、間接的に金の交換を保証しているということです。そうすることで、自国の通貨の安定を保っていたのです。
つまり、世界中の国々は、自国の金保有量が少ないので、金本位制を採ることはできませんが、アメリカ・ドルを頼ることで間接的に金本位制を採るということです。
しかし、この「ドル金本位制」はそう長くは続きませんでした。ブレトン・ウッズ会議から、わずか二十数年後に崩壊してしまうのです。
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「金・ドル本位制」は長くは続かなかった
なぜ「ドル金本位制」が、長く続かなかったかというと、第二次世界大戦後、アメリカ経済が急速に落ち目になったからです。
第二次世界大戦終結時まで、アメリカが世界経済の中で圧倒的な強さを誇っていました。だからこそ、世界の金の7割を保持するまでになっていたのです。
アメリカは、資源もあり、豊穣な農地もあり、しかも世界最先端の工業国でした。世界貿易においてこれ以上ないというほどの強みを持っていたのです。
しかし、絶対的勝者に見えたアメリカ経済は、第二次世界大戦後、あっけなく落ちていくのです。1950年代後半から西側のヨーロッパ諸国(特に西ドイツ)や、日本が経済復興してきて、アメリカ製品のシェアを奪うようになりました。
アメリカは、その経済的繁栄により人件費が高くなっており、また奢りにより技術革新も怠るようになっていました。これまで無敵の強さを持っていたアメリカの輸出力は大きく鈍り、1971年には貿易収支で赤字に転落することが確実の状況になってしまったのです。
輸出力が鈍るとともに、アメリカの金は急激に流出するようになります。しかも、アメリカは第二次大戦後、東西冷戦の影響で、世界中に軍事支援、経済支援をしたり、いくども軍事行動をしていました。それも金の流出を加速させたのです。
アメリカが世界中にばら撒いたドルが金と兌換され、アメリカの金が急激に流出し始めたのです。いったんアメリカの金が流出しはじめると、ドルを保有している誰もが危機感を抱き、金との兌換を急ぐことになります。金の兌換が停止される前に、ドルを金に換えておこうということです。
アメリカの金流出は、1950年代からすでに始まっており、1958年の一年間だけで、約2,000トンが国外に流出しています。60年代に入ると、アメリカの輸出の不振などで、さらに流出が加速しました。1970年ごろにはアメリカの金の保有量は8,000トン程度になってしまっていました。第二次大戦終結時のアメリカの金保有量は、約2万2,000トンだったので、25年程度で60%が流出したことになります。
このままの勢いで流出が続けば、アメリカの金が枯渇してしまいます。前述したように、1944年のブレトン・ウッズ会議では、ドルが金との兌換に応じるということで、世界金融のシステムが保たれるようになっていました。当時のアメリカは世界の7割の金を保有していたので、金兌換を続けることができたのです。
「ドル=基軸通貨」というのが、戦後の国際金融のレジームです。もし、このまま金の流出が続けば、このレジームが根本から崩れることになります。そのため、1971年、アメリカのニクソン大統領は、ついにアメリカ・ドルと金の一時的な交換停止を発表しました。これがいわゆるニクソン・ショックです。
このニクソン・ショックの「ドルと金との兌換一時停止」は、「一時停止」にとどまりませんでした。ドルと金の兌換は、その後、現在に至るまで再開されておらず、事実上のドル・金の兌換は行わないことになったのです。
戦後の世界金融レジームは、アメリカ・ドルと金が交換されることによって、成り立っていたものです。だから、アメリカの金兌換停止により、このレジームは根本が崩壊したといえるのです。いわば、アメリカという世界の中央銀行は、不渡りを出してしまったようなものなのです。
しかし、この不渡りを出してしまった世界の中央銀行は、未だに営業を続けているのです。しかも、不渡りを出した1971年よりもはるかに経営状態は悪化しているにも関わらず、です。
なぜ、不渡りを出したアメリカ・ドルが未だに世界の基軸通貨なのか?この矛盾は、今後の世界経済にどんな影響を与えるのか?ということを次回、追及したいと思います。
(本記事はメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2025年7月16日号の一部抜粋です。「税金はほんのちょっとの知識で簡単に安くなる」「節税はポイ活よりはるかに効率的」「節税は一度やったらやめられない」を含む全文はご登録の上ご覧ください。初月無料です)
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image by: Joshua Sukoff / Shutterstock.com