いじめや不登校に悩む子どもたちや保護者にとっては、一息つける時間を得ることが可能となる夏休み。実はそんな時期こそ学校側に相談を申し入れる好機だと、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんは言います。7月23日のNHK『あさイチ』出演時のアドバイスが大きな反響を呼んだ阿部さんは、自身のメルマガ『伝説の探偵』で今回、その納得の理由を解説。さらに夏休みに保護者が我が子の様子を「観察」する際に重要となるポイントと、言葉に出して伝えるべきメッセージを教示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:夏休みはいじめなどの相談の絶好のチャンス
今この時期がチャンス。夏休みにこそ学校にいじめや不登校の相談を申し入れるべき理由
世間一般のイメージだと、というか、私がいじめ問題などの社会問題についての対応をして初めて知ったことだから、もう知ってるよ。という方も多くいるかもしれないが。
夏休みは先生も休むのだと思っていた。15年くらい前から、先生は休まないというのは知っていたが、児童生徒が休みでも、学校は様々な業務で動いている。
つまり、授業などの業務はないけれど、出勤していることが多いわけだ。
いじめや不登校など悩みがある場合に被害保護者や当事者本人、被害当事者の友人が相談したりするには絶好の機会だと言えるのが夏休みだ。
公立校や私学の現役教職員の方々に普段の時間割を書いてもらうと、出勤してから退勤するまで、余裕がある時間はほとんどなかった。教育は自治体が守備範囲という性質が強いから、当然に地域差や校長の方針などで様々ではあるが、ある小学校の現役教員は、15分間の給食の時間に、食べ物をほぼ飲み込み、マル付けや連絡帳のチェックの記入などをしていた。まさにトイレの時間もない。
また、私が見た限り、公立校の電話回線は一般家庭レベルの設備であり、電話がすぐに話し中になってしまう。学校規模に合わせた企業並みに回線を太くすれば良いのにとも思うが、改善されることなく、相談の電話が長くなればなるほど、業務の支障は全体に及ぶことになっているわけだ。
つまり、夏休みはそうした懸念が少ない時期であり、当然に、この休みの間に教員もやるべき仕事はあるが、気持ちの上でも時間的にも、平時の授業があるときと違って、余裕がある時期と言えるのだ。
だからこそ、どうしても複雑になりやすいいじめなどの相談を学校とするのは絶好の時期なのだ。
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親として知っておきたい「スクールロイヤー」の真実
「スクールロイヤー」直訳すれば、「学校弁護士」である。まさに学校の法の番人を期待したいところではあるが、私が知る限りでは、一般の生徒や児童が直接相談できる体制はまず無い、当然、保護者が相談したいと言っても相談できないだろう。
そもそも自治体や教育委員会から、この人がスクールロイヤーですと発表されているケースもほとんど見受けられない。
多く行われている実際の運用は、校長が申請書を書き、教育委員会に提出し、日程を調整して電話や対面でスクールロイヤーの契約をしている弁護士に相談するという仕組みだ。
イメージでは、それこそ、学校現場に来て、先生や生徒共に、色々な問題を法律を駆使して解決していくという感じだが、実際は申請書を書き、日程を調整して…だから、イメージは崩壊するだろう。
稀に、独自に動く人がいるようだが、そうした人は指で数えるほどしかおらず、一般的ではないと言えるのが現状だ。
ドラマや漫画アニメなど、創作の世界で実際を知らない作者側が勝手に描く分には、作品だから仕方ないことなのだが、読者の皆様には、そうではないということをよく覚えておいて欲しいところだ。
また、特に「スクール○○」という職の人たちは主に学校や教育委員会、自治体、学校法人に雇用されている。特にスクールカウンセラーはだいたい会計年度契約だから、1年ごとの更新でその雇用は極めて不安定であるのだ。
一定の守秘義務は認められることが多いようだが、雇用主への報告はその業務に入っているケースが圧倒的に多い。また、人間関係のトラブルや深刻なケースで連携しなければならない場合は、守秘義務どころではないところもあろう。
それでも、方針違いで校長に意見して翌年の更新がされなかったケースや関わっていないけれど勤務校で大きな事件が起きて半ば解雇に近い状態になった方から相談を受けたこともある。つまり、極めて弱い立場であるのだ。
そもそも、こうした「スクール○○」は、学校の業務や様々な社会問題に対応していくために、専門的な見地からサポートしてもらおうということで設けられた制度のはずだ。
それが、実際の運用となると、学校の機能の1つとして組み込まれ、雇用も契約も不安定なものになり、立場も弱く独立性もない状況になるというのは、本末転倒ではないか。
7月20日に選挙があり各政党が公約を掲げ、政策を発表したが、教育問題はだいたい触れられていた。そこで思うのは、こうした「スクール○○」の職の独立性を確保し、本来の専門的見地から安定した立場で、誰からの圧をかけられることなく、意見を述べることができるように、そもそもの目的に立ち返られる制度設計に見直してほしいと思うのだ。
当然、教員の働き方改革もあるが、ブラック労働サブスク働かせ放題ではなく、役割の構造も変えるべきだと私は思うのだ。
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「自称カウンセラー」等の被害に遭わないための注意点
さて、話を戻そう。
もしも保護者やいじめの当事者である児童生徒などが、法律的な相談をしようと思ったらどうすればよいか。無料相談であれば、役所や弁護士会などが無料相談会をやっていることがあるので、そうした情報を検索するのが良いだろう。
また保護者の方は、加入している損害保険や学資保険など、保険系の約款やサービスなどが書いてあるパンフレットをよく読んでもらいたい。結構な率で、弁護士特約が付いていたりして、そうした保険の制度を利用して、無料相談が出来たりもする。
無料相談の範囲では、何かの書類を作ってもらったり代わりに何かを使えてもらうなどの業務は無いだろうから、自分でできない範囲は当然費用が発生するだろう、それでも、依頼をすることをお勧めする。
やはり弁護士は法律の専門家である。仮に何かの法律の条文を暗唱できたとしても、弁護士の足元にも及ばない付け焼刃に過ぎないのだから、無理せずに依頼をするのがよいのだ。
収入によっては法テラスで法律扶助が使えたり、様々な救済制度もあるから、弁護士会や法テラスに相談してみるのも手だ。
ちなみに、内容証明郵便を送れば大丈夫!と勘違いしている人も多くいるようだから、その点に言及しておくが、内容証明郵便とは、単純に郵便局がこの手紙にはこうした内容が書かれていました!と証明するに過ぎない。
つまり強制力はないのだ。何のトラブルにも巻き込まれたことがない人が、仰々しい文書を受け取れば焦るかもしれないが、慣れた人間であれば、「無視」で終わることも多い。
理由は従う必要はないからだ。
さらに言えば、この内容にちょっとでも脅迫めいたことや過剰な要求があれば、それ自体が問題になってしまう。つまり、送った側、そのお手紙を書いた者に非があるとみなされることになり、それを内容証明だから、郵便局が証明しますとなってしまう。本末転倒とはこのことだ。
だから、内容証明郵便をするしないは、弁護士に相談して欲しいのだ。また、弁護士法から考えれば、これは弁護士のみの専売特許とも言える。弁護士以外が法律事務を有償で請け負うのは、弁護士法72条違反の非弁行為にあたり、懲役刑もある犯罪行為になってしまうし、中途半端な知識や経験で、踏み込んでよい領域ではない。自己責任で自分の事をやるのは自由だが、当然、それで責任が発生すれば自分に火の粉が飛んでくることになる。
いじめの場合は、特に夏休み明けの直前になると、多くの弁護士会が無料相談窓口を設けて相談に対応するというのがニュースになったりするから、そうした時期を待ってみてもいいだろう。
中途半端な自称専門家や知識や経験、臨床などの裏付けがない自称カウンセラーなどの被害があとを絶たないから、相談先の実績や専門性は、自分でよく調べることを強くお勧めする。
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泣き崩れいじめを告白してきた子どもに親がかけた言葉
具体的に夏休みの時期にいじめをチェックできるシートなどは、ネットを検索すると出てくるが、普段の様子からすべてを知るということは事実上不可能であるから、あくまで参考の範囲で考えるのが良いだろう。
つまり、こうしたものは、ゾーンを絞った心理テストのようなもので、いじめではなくてもチェックがついてしまうのだ。では、どんなことに気を配るべきかとなると、普段との差をしっかり観察してほしいのだ。
普段暗かった子が明るくなった、よかったねではなく、それには何らかの変化があったはずなのだ。
実際、私の知人が、「うちの子は暗いんだよ、ちょっとオタクだし、大丈夫かなって心配なんだ」と話していて、しばらくして、とっても明るくなったという話を聞いた。その話を聞いた日に、たまたま、私とその知人は帰り道が一緒で、彼の自宅でトイレを借りたのだ。
その洗面所で、ものすごく暗い表情で自分の肘をつねっていたその子を見つけた私は、しばらく観察していたところ、鏡で笑顔の練習をしていたのをみてしまった。
間違いなく、何かを隠し、無理をしていると思った私は、知人にその事実を話し、一度、家族で話し合ってみてくれと勧めた。
「親だからわかるけど、ちょっと無理しているかなって、少し心配なんだ」と言ってみてくれとアドバイスした。そして彼は、とりあえず、私の言葉通りに何気ないところで、その子に話しかけたところ、泣き崩れ、突然、いじめを告白してきたそうだ。
小学校入学に祖父母から買ってもらった学習机の引き出しには、何度も書き直した遺書があり、事態は深刻であった。
突然人が変わったように、というエピソードを聞くこともあるが、やはり変わるにはなにかのキッカケや出来事がある。だからこそ、よく観察して普段との差に気が付いてほしい。
保護者が知っていなければならない「基本中の基本」
また、多くの相談を受けて対応をしていると、いじめの疑いにはなにか自信ありげな割に、子ども友人の名前や家の連絡先などをほとんど把握していない親御さんがいる。
例えば、子どもが一番の親友と言えるのは誰でしょう?友人は誰でしょうというのを、すぐに答えられる程度の予備知識は、保護者としてはまずは基本中の基本だ。
これ読む保護者の立場で、どのくらい答えられるだろう。子どもの友人の名前と写真からすぐに誰かがわかるか、最近面白かったエピソードは?子どもの推しは誰か?何か?など
もしも答えられないのであれば、まずはそこから、この夏休みにこどもとコミュニケーションをしっかりとって、色々な話を聞くのが良いだろう。
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「命の最期の砦」になり得る子どもが安心できる居場所
私が時折、Xの教員アカウントなどで、「学校の外で起きたことまで言われても困る、対応しない」というようなコメントを見ると、とてつもなく残念に思うのは、学校の関係が、こどもにとって「ほとんど世界」といえるくらいの「居場所」であるからだ。
もちろん、家庭も大切な「居場所」である。そして、できる限り両方とも必要な「居場所」なのだ。
前述の「学校外でのこと」をというのは、よくいじめ防止対策推進法のいじめの定義(第2条)の条文批判で使われることが多いが、学校教育法第11条「懲戒」において、学校の内外とは書かれていないが、学校外で起きたこととであっても、重大な影響を及ぼす行為等については、その指導が認められ当たり前に指導がおこなわれている。
例えば、児童が公園で他人の自転車を盗み、警察に保護されたとする。警察から連絡を受けた学校は、必ずこの児童を指導するはずだ。
つまり、学校は学校の外で起きたことであっても、問題によっては指導するのであり、いじめは指導しないというのは、職務の放棄に他ならない。
いじめは、その行為自体で、被害を受けた子どもは、学校での居場所や学校関係での居場所の大半を奪われる、そこで、きっといじめを止めてくれるであろう教員が、外で起きたことだから知らない、関係ないとすれば、その被害者は学校、学校関係で形成された人間関係における居場所を失うことになるのだ。
だからこそ、私は、いじめ法を批判したいだけで、子どもの居場所を奪ってしまう無責任な教員の呟きをとても残念に思うのだ。
一方で、これを読む保護者に当たる人たちには、少なくともあなたは、我が子の居場所を奪わないでくださいと思う。
イライラモヤモヤすることもあるだろう。反抗期にもなれば生意気なことも言ってくるだろう。いじめの被害を受ければ、そのストレスから心にもない酷い言葉で親を罵るかもしれない。それでも、親はわが命を身代わりにしても我が子が大事なはずだ。
すべての保護者に、我が子へ「ここにいて大丈夫」「ここは安全なんだ」と思えるように、しっかりとメッセージを言葉にしてもらいたい。
また、サードプレイスと言われるこども食堂などの場を提供していたり、ネット空間でそうした場を提供している方々も、夏休みの時期は特に、多くの発信をしてもらいたい。
大丈夫、いじめの被害を受けても、何がどうあれ、あなたを受け入れてくれる安心できる居場所はあると多くのこどもたちに知ってもらいたい。
なぜなら、こどもが安心して安全だと思える居場所は、命の最期の砦になり得るからだ。
どうかこどもの居場所を奪わないで欲しい。
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探偵も実感する「筋肉トレーニング」がもたらす効用
「デブ」酷い言葉だ。キテレツ大百科では、あだ名が「ブタゴリラ」という子がいましたが、このニックネームは、即アウトだろうと思います。ジャイアンの妹はジャイ子ですからね…。
今年も、体形でいじめられるという子がくるかどうかはわかりませんが、ほとんど毎年、私のところには、ちょっと強くなりたいんですという子が来ます。
単純に食事のメニューを変えて、運動を取り入れて規則正しい生活の時間割を作って、私はハッパをかけるだけなのですが、だいたい3週間ほど続けていくと、見た目が少し変わってきて、やっている本人はかなり実感が湧くようです。
自信がついてきて、自らメニューを少し増やしたいとか、YouTubeで観たトレーニングを勝手に取り入れていたりします。
友人のトレイニー(ジムに生息するキン肉マンたち)に聞くと、テストステロンなどの脳内物質が出て色々なやる気、バイタリティーが出てくるとか…。まあ、心の状態にもよるとは思いますが、効く子には、ものすごい有効だなと思っています。
かくいう私も、トレーニングが続いている週は、仕事の進み方や処理の速さ、グリットと言われる「やり抜く力」出ていると実感があります。あまりに忙しすぎてトレーニングの時間より寝る欲求が強いと、その真逆の状態に陥ることもあります。
なんでも筋肉が解決するわけではないのですが、意外と筋肉の効果はある。
目指せベンチプレス180キロ!!
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