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中年男性の“恨み”が大結集。神谷代表の参政党が成功した「氷河期世代の不満」取り込みと「支持基盤の限界」という課題

先の参院選で大幅な議席増を果たし、次期衆院選でも躍進することが確実視される参政党。良くも悪くも神谷宗幣代表のリーダーシップに大きな注目が集まっていますが、何が彼をここまでの「カリスマ」に育てたのでしょうか。今回のメルマガ『上杉隆の「ニッポンの問題点」』ではジャーナリストの上杉隆さんが、その背景を探るべく神谷氏の軌跡を徹底検証。さらにそこから見えてきた、神谷宗幣という人物が体現する「現代日本政治の光と影」を明らかにしています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:参政党躍進 神谷宗幣氏の光と影

今後の政治のあり方に大きな影響。躍進の参政党・神谷宗幣氏の光と影

2025年7月20日の参院選で、参政党は2022年の1議席から14議席獲得と劇的な躍進を遂げた。この歴史的な議席拡大を牽引したのが、党代表兼事務局長の神谷宗幣氏(47)である。彼の軌跡を検証すると、成功の陰に隠された挫折と論争の歴史が浮かび上がる。

森友学園との深い関係──2008年の「感動」体験

神谷氏の政治思想を理解する上で避けて通れないのが、森友学園との関係である。2008年5月1日、吹田市議当選から1年後の神谷氏は、学校法人森友学園が運営する塚本幼稚園を視察している。

神谷氏は自身の公式サイトで当時の体験を詳細に記録している。「昨年の当選当初から、大阪にすごい幼稚園があると伺っており、1年越しでついに視察をすることができました」と記述し、教育勅語を暗唱する園児たちの姿に「感動しました」と率直な感想を綴っている。

とくに注目すべきは、神谷氏が教育勅語について「戦前の軍国主義をイメージするように教えられてきたからです。しかし、一度内容をしっかりみてください。中心となる内容は今日の我々の社会や教育に必要な事が沢山書いてあります」と積極的に擁護している点だ。

この塚本幼稚園訪問は、後に森友学園問題として大きな政治スキャンダルとなるが、神谷氏はこの時点で同園の教育方針に深い共感を示していた。鼓笛隊の演奏や将棋の授業、論語の暗唱などを「圧巻でした」「感心して声が出ませんでした」と賞賛し、「このような幼稚園があることをもっと多くの方に知って頂きたい」と記している。

ただ、森友学園の関係者は、筆者の取材に対して「神谷さんはのちに奥様になる女性が学園事務局で働いていてその関係でいらしたことはありますが、ご本人が関わっているということはありません」と答えており、一方通行の思いだったことがわかる。

家業の破綻──スーパー経営での挫折

神谷氏の人生には、政治活動以前に大きな挫折があった。2002年、関西大学卒業後の神谷氏は、実家が経営する有限会社カミヤストアー(食品スーパー)の店長に就任した。両親が地元で営む地域密着型スーパーの経営立て直しに挑んだが、結果は倒産だった。

この経験は神谷氏にとって相当な痛手となった。地元の名士として知られていた家族の事業を引き継ぎながら、それを立て直すことができなかった挫折感は、後の政治活動への動機となったとも考えられる。しかし、この経営失敗の詳細や原因については、神谷氏自身が詳しく語ることは少ない。

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吹田市議会での孤立──「右翼」のレッテル

2007年の吹田市議初当選後、神谷氏は1人会派「吹田新選会」を結成し、教育問題に特化した活動を展開した。しかし、彼の政治姿勢は議会で激しい反発を招いた。

当時の吹田市議会は日本共産党が第一党を占めており、神谷氏の保守的な主張である「卒業式での「日の丸・君が代」実施の要求、親学の推進、教育勅語の評価」は強い対立を生んだ。神谷氏は「右翼」と呼ばれて孤立し、議会内での立場は極めて困難なものになった。

この経験は、神谷氏の政治観に大きな影響を与えた。既存の政治システムに対する不信と、自らの信念を貫く姿勢を強化させる結果となったのだ。しかし同時に、協調性を欠く政治手法として批判される要因ともなった。

橋下徹との確執──維新からの排除

2009年2月、神谷氏は橋下徹大阪府知事と若手市議による「大阪教育維新を市町村からはじめる会(教育維新の会)」を結成し、中心的役割を果たした。しかし、翌2010年の大阪維新の会結党時には参加を断られている。

この背景には、神谷氏が推進する「親学」に対する橋下氏の拒否反応があった。神谷氏は橋下氏に親学の導入を提案したが、「親学はよそでやって下さい」と断られたと後に証言している。

この件について、神谷氏は2012年の『週刊文春』で橋下氏を批判する記事を発表した。政治的な理念の違いが個人的な確執に発展し、その後の政治活動に影響を与えた例として注目される。

国政挑戦での連続落選──自民党時代の挫折

2012年、神谷氏は自民党に入党し、大阪13区支部長として衆院選に出馬した。当時の安倍晋三総裁(後の首相)や小泉進次郎青年局長の応援を受けながらも、日本維新の会候補に敗れて落選した。

この選挙戦での敗北は、神谷氏にとって大きな転機となった。地方議員としての実績と保守的な政治姿勢を武器に国政進出を図ったが、維新旋風の前に敗れ去った。

さらに2015年には大阪府議選にも無所属で挑戦したが、再び落選を経験している。この二度の敗北により、神谷氏は一時的に政治の第一線から退くことを余儀なくされた。

YouTube配信への転身──発信手法の革新

政治家としての道が閉ざされたかに見えた神谷氏は、2013年からYouTube番組「CGS(Channel Grand Strategy)」を開始した。この決断は、後の参政党躍進の基盤となる重要な転換点だった。

現在、同チャンネルは登録者数45.8万人を超える影響力を持つ。歴史、教育、経済、国際情勢などを扱うコンテンツは、従来の政治番組とは異なる新しい形の政治発信として注目された。しかし同時に、この時期の発信内容には後に「陰謀論」と批判される要素も含まれていた。

参政党結成──「政党DIY」の理念と現実

2020年の参政党結成は、神谷氏の政治的復活を象徴する出来事だった。「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつくる」という「政党DIY」のコンセプトは、既存政党への不信を抱く有権者に強くアピールした。

しかし、党の運営過程では様々な問題も露呈している。創設メンバーの松田学氏との路線対立、武田邦彦氏の離党、内部の意見対立など、組織のトップに立つ人物としての課題が表面化している。

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2025年参院選躍進の背景と課題

今回の参院選での14議席獲得は、神谷氏の政治的集大成とも言える成果だった。とくに「日本人ファースト」というスローガンは、外国人労働者問題や移民政策への不安を抱く有権者の心理に訴えかけた。

朝日新聞の出口調査によると、参政党支持者の60%が男性で、40代・50代の就職氷河期世代が中心となっている。これは、長期的な経済停滞と社会変化に対する中年男性の不満が結集した結果とも解釈できる。

しかし、この支持基盤は同時に限界も示している。60代以上の高齢者からの支持は相対的に薄く、女性の支持率も40%にとどまっている。幅広い国民的支持を得るには、さらなる政策的洗練が必要だ。

今後の国会戦略──連立政権への現実的可能性

神谷氏は参院選後の記者会見で、次期衆院選での40議席獲得を目標として掲げた。この数字は決して非現実的ではない。現在の政治状況を考えれば、多党制による連立政権が常態化する可能性が高く、参政党が「キャスティングボート」を握る可能性もある。

神谷氏の言及する「4~5党による連立政権」構想は、欧州では一般的な政治システムだ。日本でもこうした多党制連立が定着すれば、参政党のような中規模政党の影響力は飛躍的に高まる。

ただし、政権参加を目指す上では、これまでの一部の極端な主張を修正する必要もある。反ワクチン論や陰謀論的な発言は、責任ある政治勢力としての信頼性を損なう可能性がある。

評価と展望──現代政治への問題提起

神谷宗幣という政治家は、現代日本政治の光と影を同時に体現している。地方議員から出発し、挫折を重ねながらも独自の政治思想を貫き、最終的に国政で大きな影響力を獲得した軌跡は、ネット時代の民主主義の可能性を示すものだ。

しかし同時に、その過程で見せた森友学園との親和性、極端な保守思想、陰謀論への接近などは、現代政治の病理をも映し出している。

神谷氏の成功は、既存政治システムへの不信と、新しい政治参加の形への渇望を反映している。SNSを通じた直接的な政治発信、「政党DIY」という草の根的な政治運動、既存メディアに依存しない情報発信など、参政党の示した手法は今後の政治のあり方に大きな影響を与えるだろう。

一方で、その政治手法には危険な側面もある。感情的な訴求力に依存した政治、検証困難な情報の拡散、排外主義的な傾向などは、民主主義の健全性を損なう可能性がある。

神谷宗幣氏の今後の政治活動は、これらの問題をどう克服し、より大きな政治勢力として成長できるかにかかっている。参政党の躍進は、日本政治の新たな可能性を示すと同時に、その限界をも問いかけている。

現在47歳の神谷氏には、まだ長い政治人生が残されている。その選択次第で、日本政治の未来は大きく変わる可能性がある。彼の政治的成熟度と判断力こそが、参政党ひいては日本政治の行方を左右する鍵となるだろう。

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(『上杉隆の「ニッポンの問題点」』2025年7月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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