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米国の貿易赤字が増大すれば世界経済が崩壊、解消すれば大不況。戦後の資本主義経済が抱える「超巨大な矛盾」の正体

4月2日にトランプ大統領より発表され、世界を震撼させた相互関税。「アメリカ・ファーストの極み」とする論調も見受けられますが、その背景には複雑怪奇とも言うべき資本主義の矛盾が存在しているようです。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、現在の世界経済が回っている「仕組み」を解説。その上で、「トランプ関税」が資本主義を崩壊に導きかねない理由を詳説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ関税と資本主義崩壊の危機

アメリカの赤字解消が世界経済を破壊する。トランプ関税と資本主義崩壊の危機

前回まで、戦後の世界経済は「アメリカ・ドル」を中心に回ってきたということをご説明しました。

【関連】元国税調査官が暴露。世界経済を激震させる「トランプ関税」の正体は、“資本主義システムの欠陥”そのものだった

「アメリカ・ドル」は、世界の金の7割を持っていたアメリカの莫大な金保有量を背景にして、世界で唯一、「金と兌換してくれる通貨」として信用され、世界経済の基軸通貨として君臨してきたのです。

が、戦後の世界経済は、アメリカの一人勝ちが終焉し、西ドイツ、日本などがアメリカの工業製品シェアを次々に奪っていきました。アメリカは世界最大の貿易黒字国から、世界最大の貿易赤字国に転落したのです。

そして、アメリカの莫大な金保有は、瞬く間に減少し、1971年には、アメリカはドルと金の兌換は停止したのです。そのため、世界中の国々の通貨は、金との結びつきがなくなったのです。

しかし、不思議なことに、アメリカ・ドルは、そのまま世界の基軸通貨として使用され続けました。そして、世界中の国の金融システムもそのまま使い続けられました。

なぜでしょうか?

端的に言えば、ドルに代わる適当な基軸通貨がなかったのです。

ドルが金との兌換をやめたからといって、では、金と兌換してくれる通貨が他にあるかといえばそうではありません。

またアメリカ以外の国の通貨は、ドルほどは世界で信用されていません。イギリスのポンドも、日本の円も、ドイツのマルクも、ドルに比べれば、信用は低いし、流通もしていません。

また、第二次世界大戦後、アメリカが世界中に経済支援、軍事支援をしており、これにはドルが使用されました。そのため世界中にドルがばら撒かれ、結果的に国際決済においては、「ドルを使用することが普通」という状態になっていたのです。だから消去法として、アメリカ・ドルは、世界の基軸通貨の地位を維持し続けたのです。

1971年のニクソン・ショック以降のアメリカ・ドルというのは、実は通貨の歴史を変えたものなのです。

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ニクソン・ショックにより崩れてしまった「前提条件」

通貨というのは、古来から貴金属などの価値と結び付けられるのが通例でした。通貨がつくられた当初は、貴金属そのものが、通貨として使用されていました。

また、紙幣が登場してからも、その紙幣は「貴金属との引換券」だったのです。貴金属と引き換える権利を持っているから、その紙幣は通貨としての価値を保持していたのです。

貴金属などとのまったく結び付けられていない紙幣というのは、これまで歴史上、登場したことがほとんどありませんでした。一時的に、貴金属との兌換を停止した紙幣はありますが、「貴金属や資産との兌換をしない」ということを前提にした紙幣が、これほど広範囲で使用されることはなかったのです。

なぜ紙幣が常に貴金属などと結び付けられていたのか、というと、そうしないと誰も信用しなかったからです。

紙幣というのは、その物質自体は、ただの紙切れであり金銭的な価値はほとんどありません。それを誰も価値のあるものとして認めないし、価値が認められなければ流通しないのです。

だからこそ、これまで紙幣は、「貴金属と交換できる」という価値の裏付けがされてきたのです。この通貨のしくみは人類が経験知として作り上げてきたものであり、ニクソン・ショックまでは、それが世界の常識だったのです。

ニクソン・ショック以前にも、通貨と貴金属との兌換を中断した国は多々あります。イギリスなどのヨーロッパ諸国や日本なども、第二次世界大戦前には、金不足に陥り、軒並み、金との兌換を停止しました。

しかし、それは一時的な方便に過ぎなかったのです。いずれは、金との兌換を再開するという期待があったので、通貨の価値は維持できたのです。

第二次世界大戦後、ほとんどの国では、通貨と金との兌換は再開できませんでした。しかし、ドルと自国通貨をリンクさせることで、自国通貨の価値を維持してきたのです。

ドルは、金との兌換に応じてくれる、そのドルとレートを定めてリンクしておけば、間接的に金の価値を結びつけることができるのです。

第二次世界大戦後の世界の金融は、そういうシステムによって各国の通貨の価値を維持してきたのです。

しかし、1971年のニクソン・ショックによって、その前提条件が崩れてしまいました。ドルが、金の兌換に応じないということになったので、各国の通貨は、間接的な貴金属との結びつきを失ってしまったのです。貴金属と結び付けられていない、ただの「紙切れ」の通貨が、各国で使われることになったのです。

が、不思議なことに、各国の通貨はそれほど支障をきたさずに普通に使われ続けました。多少の混乱はありましたが、通貨がまったく流通しなくなり物々交換が始まるというような事態は起きませんでした。

これまでドルはあまりにも広範囲で使われてきたために、貴金属との結びつきがなくなっても、そのまま使われることになったのです。

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「アメリカ・ドル」が象徴するお金の仕組みの矛盾

現在、アメリカという国は、貿易収支は長期間、赤字が続いており、世界一の借金大国です。アメリカ・ドルが、金と兌換しなくてよくなったため、逆にアメリカの輸入は際限がなくなったのです。

1971年までは輸入超過(貿易赤字)になれば、その分の金が流出してしまっていたから、金の保有量をにらみつつ、輸入を制限する必要がありました。

しかし、ニクソン・ショック以降は、輸入超過が続いても、輸入代金としてドルを渡せばいいだけです。そのドルは、金と兌換しなくていいので、アメリカの金が減るというリスクもありません。アメリカにとっては、輸入を制限するためのリミッターがはずれたようなものです。

もちろんアメリカ政府としては、むやみやたらに輸入が増えることは歓迎していませんでした。輸入超過があまりに大きくなれば、ドルの信用力が低下するかもしれません。そうなると、それ以上の輸入ができなくなります。それを懸念し、輸入超過に対しては一応目を光らせていたのです。

しかし、いくら輸入超過が増えても、アメリカ・ドルの信用が落ちる気配はありません。ドルに代わる有力な通貨は出てこないし、世界でたびたび紛争がおきるので、その都度、戦争に強いアメリカの通貨は、信用を増すのです。そのため、アメリカは、貿易赤字を累積することになりました。

現在アメリカの対外債務は約25兆ドルです。日本円にして、約3,800兆円ほどです。しかもこれは現在も異常な勢いで増加し続けています。

またアメリカは、対外債権から対外債務を差し引いた対外純資産も約14兆ドルの赤字です。日本円にして約2,000兆円ほどです。つまり、アメリカは14兆ドル(約2,000兆円)の債務超過なのです。

この14兆ドルの対外純債務というのは、世界最大にして史上最大です。もしこの14兆ドルを、金で支払おうとした場合、アメリカの所有する金は完全に枯渇してしまいます。

というより、アメリカの所有している金で、14兆ドル(約2,000兆円)を清算しようとしても、焼け石に水程度の返済額にしかならないのです。

このアメリカの対外純債務14兆ドルというのは、ドルが金と兌換していないからこそできた借金なのです。金本位制の時代ならば、アメリカはとっくに破産している状態なのです。

この破産状態のアメリカの通貨であるドルが、未だに世界の基軸通貨となっているということは、世界経済において大きな矛盾といえます。

通常、世界貿易で使われる通貨などというものは、もっとも信頼のおけるもっとも安定した通貨でなくてはならないはずです。なのに、現代の国際経済では、世界一の借金大国の銀行券が、世界の基軸通貨として使用されているのです。

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常に赤字になっていなければならないアメリカの国際収支

しかも、アメリカの国際収支(経常収支)はよくなる気配がありません。アメリカの2023年の輸出入額を見てみると、輸出額が2兆452億ドルに対して、輸入額が3兆1,085億ドルもあるのです。輸出額の1.5倍の輸入をしているのです。

そしてアメリカはこの状態がかなり長く続いています。こういう状態が続けば、いくら何でも国は破綻してしまうはずです。というより、今のアメリカは、いつ破綻してもおかしくない状態だといえます。

今のアメリカ以上に対外債務を増やした国は、いまだかつてありません。他の国は、アメリカほど借金はできないし、これほど借金が膨れ上がる前に、デフォルトを起こしています。トランプ大統領が、アメリカの貿易赤字の縮小に躍起になっているのも、これが大きな理由なのです。

しかも、現在アメリカは世界の中央銀行の役割を果たしています。史上最悪の借金国の通貨であるドルが、世界の基軸通貨となっているのです。借金まみれの国が、世界の中央銀行を担っているのです。

これほどの矛盾はないだろうし、世界の中央銀行としてはこれほど危なっかしいことはありません。もしアメリカがデフォルトなどと起こせば、世界経済は崩壊するのです。

このアメリカ・ドルの矛盾は、実は資本主義の欠陥を体現しているものでもあります。というのも、もしアメリカの貿易が赤字じゃなく黒字だったら、アメリカ・ドルは世界中に普及しません。

「アメリカの貿易が黒字になる」と「他国に払う通貨が減り、他国の通貨が増える」ということになります。となると、アメリカ・ドルの他国への支払いが減り、他国の通貨がアメリカに入ってきます。

つまり、アメリカ・ドルが、世界からアメリカ本国に回収され、逆に他国の通貨がアメリカに入ってくることになるのです。

当然、世界全体の通貨量は減り、世界経済は停滞してしまうのです。そのためアメリカは、ドルを世界に供給し続けなくてはなりません。ということは、アメリカの国際収支は、常に赤字になっていなければならないのです。そうしないと、世界は通貨不足に陥り、貿易決済ができなくなるからです。

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「世界のお金の原資」となっているアメリカの借金

今のお金の仕組みというのは、常に誰かが借金をしていなければ回らない仕組みになっており、その誰かというのがアメリカになっているという見方もできるの
です。

つまり、アメリカが、各国に巨額の借金をすることで、間接的に世界中の銀行からお金を引き出し、そのお金で世界経済は回っているという面もあるのです。

たとえば、日本などはそのいい例です。日本は貿易で稼いでいる国ですが、その最大の稼ぎ先はアメリカです。というより、日本の国際収支の黒字のほとんどはアメリカなのです。

2023年の日本の貿易収支は、約13兆円の赤字でしたが、アメリカとの貿易に限定してみてみると、約715億ドル(日本円で約10兆円)の黒字なのです。

日本人は、アメリカとの貿易摩擦は過去の問題と思っているようですが、決してそうではないのです。1980年代、アメリカの対日貿易赤字がもっとも大きかった年は、1987年ですが、この年、アメリカの対日貿易赤字は、約570億ドルでした。2023年の対日貿易赤字は約715億ドルなので、現在の方が赤字額は大きいのです。

1987年と現在とではGDPの規模がまったく違うので、直接の比較はできませんが、アメリカの対日貿易赤字の規模が、今も相当に大きいことは間違いないのです。

そして、このアメリカから得た貿易黒字の約715億ドル(日本円で10兆円)分の通貨が、日本社会に流れ込んでくることになります。この貿易黒字分があるからこそ、日本社会のお金が回っているのです。

もしアメリカの産業が復活し、日本との輸出入が均衡するようになれば、日本経済はたちまち金不足に陥ってしまいます。

アメリカから見れば、日本との貿易不均衡は面白くないことであり、できれば、輸出入の均衡をはかりたいと考えています。だからこそトランプ大統領は、日本にむちゃくちゃな言いがかりをつけて高い関税を課そうとしてきたのです。しかし、そうなると、日本経済が立ち行かなくなってしまうのです。両国にとって、矛盾はなはだしい状況です。

しかも、これは日本だけの話ではありません。世界中の多くの国が、アメリカの貿易赤字が縮小し、ドルがアメリカ本国に戻ってしまうと、たちまち世界経済は停滞し混乱してしまうのです。

「アメリカの貿易赤字がこれ以上増え続ければアメリカがデフォルトを起こし、世界経済は崩壊するかもしれない」

「しかしアメリカの貿易赤字が解消すれば世界経済は大不況に陥ってしまう」

戦後の資本主義経済というのは、そういう超巨大な矛盾を持ち続けているのです。

(本記事はメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2025年8月1日号の一部抜粋です。「税金はほんのちょっとの知識で簡単に安くなる」「節税はポイ活よりはるかに効率的」「節税は一度やったらやめられない」を含む全文はご登録の上ご覧ください。初月無料です)

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【関連】財務省の秘密警察部門、国税庁が「国会議員の不倫調査」を得意とするワケ。全国民監視の強大権力、分割急務(作家・元国税調査官 大村大次郎)

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