米国で普通に行われている「至って落ち着いた」真面目な議論
そもそも米国においても、台湾海峡で戦争が起きてほしい――あるいは、起きても構わないから危機をギリギリまで煽って金儲けをしたいなどという不謹慎なことを考えているのは、軍需産業とその手先の国防族のタカ派議員、多額の寄付を受けている右派シンクタンクの研究者やお仲間の評論家など、全体から見れば極く一部にすぎない。
トランプ大統領でさえも、ほどほどの煽りで金儲けはしたいが本気で戦争するのはイヤだという程度の、腰のひけ具合であって、上記の雑誌のタイトルのように、「米国」が一枚岩となって日本に台湾への軍事介入を要求しているかに描くのは間違いである。
米国で普通に行われている真面目な議論は、至って落ち着いたもので、その一例は、米議会調査局の7月25日付のレポート「台湾:防衛と軍事の問題」で、筆者は「民主主義防衛財団」のアジアの安全保障や中国問題の専門家=ケイトリン・キャンベルである。
まず、第1に、彼女は、流布されてきた「27年に中国が台湾侵攻」説にやんわりと釘を刺す。
周知のように、その説が急浮上したのは、2021年3月9日に退任間際のデービッドソン=米インド太平洋軍司令官が議会証言に立ち、「〔習近平の〕野心の目標の1つが台湾であることは間違いなく、〔そのことは〕実際には今後6年のうちに明らかになると思う」と述べ、さらに彼の後任となるアキリーノ新司令官が3月23日、指名を受けるための公聴会で、「中国は台湾に対する支配権を取り戻すことを最優先課題と位置付けており、この問題は大方が考えているよりも間近に迫っている。我々は受けて立たなけれならない」と後追いしたためである。
「6年後、ということは2027年か?」と大騒動になったが、やがて司令官たちの根拠は「その年に習近平が4選を目指している」とか「人民解放軍創建100周年の節目だから」とかいう与太話に過ぎなかったことが判明し、一旦は収まった。
しかし、その2年後の23年2月2日にバーンズCIA長官が講演の中で、「米政府の機密情報として、習近平が27年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、軍に指示を出した」と明言、「やっぱり本当だったのか」と不安を再燃させたのだったが、これについてキャンベルのレポートは「バーンズがこれを言ったのは、軍事能力〔整備〕の目標としてであって、必ずしも習が戦争を始める意図を示したものではない」と、誤解の余地がないようはっきりさせている。
メディアが飢えた野犬の群れのように“危機ネタ”という餌を求めて唸り声を上げている中では、こういうことをいちいち噛んで含めるように正確に吟味しておくことが大事なのだ。
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