「台湾有事は日本有事」というバカ話に踊らされる人々。根拠なき憶測をタレ流す日本メディアと自称専門家が堕ちる地獄

 

中国にとっての「グレーゾーン作戦」の戦略的な意味合い

第2に、日本でも頻々と報道される、中国軍の台湾周辺での活発な軍事行動をどう評価するかという問題がある。

頻繁な軍事演習、ほぼ毎日のように行われる台湾近辺でのパトロール、22年以前はほとんど行われることのなかった台湾海峡のいわゆる「中間線」の戦闘機による侵犯、サイバー作戦、金門島周辺での警察活動の強化などは、キャンベルの定義では「グレーゾーン活動」とされる。

何がグレーなのかと言えば、台湾側にしてみれば、その度ごとにそれが本格的な攻撃のための準備行動なのか、そのための単なる訓練なのか、あるいはまた台湾側の反応を見るための情報収集活動なのか等々を見極めつつ対処しなければならず、そのために台湾軍が常時待機し必要に応じて作戦行動を取らなければならない負担は多大なものがある。

しかし、彼女がこれをグレーゾーンと呼ぶ理由はそれだけではない。中国にとってのグレーゾーン作戦の戦略的な意味合いは、軍事的よりもむしろ政治的なところにあるのではないか。つまり、繰り返しこうした威嚇行動をとることで、台湾市民の間に台湾軍の力でこれを跳ね返すことは無理だという諦めを抱かせ、中国の言うところの平和的統一に屈するしかないのかと思わせる政治的・心理的圧力をかけることが狙いなのではないか。

考えてみれば当然で、もし大規模な戦闘になれば米中という2大核保有国の戦争になりかねないので、中国もそのリスクは避けたいのである。

そうだとすると、中国軍の台湾周辺や尖閣界隈から東・南シナ海にかけての活発な活動は、もっぱら今にも侵略の危機が切迫している証拠として軍事的にのみ語られがちなのであるけれども、中国側から見るとそうではなくて、むしろ逆に戦争を避けて「平和的統一」に持って行くための政治的な布石という意味もあるのだということになる。

いや、もちろん、後者の意味だけだと決め込んで警戒を解除していいことにはならない。軍事的と政治的の境目はそもそもグラデーションであって、だからこそ「グレーゾーン」と捉えて柔軟に対応し、戦争にならないように政治的に物事を解決することが必要になるのである。

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