甲子園出場辞退の広陵高校など氷山の一角。全国大会の常連部活で暴行事件やいじめが多発する構造的な問題

 

強豪校や名門校の諸問題

強豪校や名門校と言われるところは、そのスポーツの結果によって入学希望者が増えたりするわけだ。OBでプロで活躍する選手がいれば、それで入学希望者も増えるし、学校への寄付も増えるだろう。

また一方で、こうした強豪の部活出身者に聞くと、校名よりコーチや監督を生徒側は選ぶのだという。誰を師事するかの方が重要だということだろう。

いじめの現場にいると、かなりの率で名門校の全国大会常連部活内の問題にあたる。そして思うのは、構造的な問題が複雑に絡んでいるということだ。

例えば、名監督とコーチの学校内の権力は圧倒的で、当初は校長らが合意していたことでも簡単に覆されることが多いし、全国大会の主催団体などは大事にならない限り、深刻な問題が生じていても揉み消そうと圧力をかけてくることは常にあるのだ。

生徒の上下間でも、「しごき」「かわいがり」といった理不尽かつ非科学的な下級生つぶしが常態化していることは常であり、監督やコーチなどはこれを見てみぬふりをする事も多い。

また一方で、そもそも部活動は教育の場であるのに、勝敗に何よりも重きが置かれ、目標に向かって全力を尽くすという過程の教育が軽視されがちである。

生徒間でも強豪の部活にいる部員は、教師らからあまり注意されることもなく、その他一般生徒とは異なる特別扱いを受けていることが常に感じられる状態にあるものだ。

特に私学は、管轄する都道府県などの自治体が強い監督権を有さず、法制度上は一定の指導が認められていても、事実上形骸化しているから、なんちゃって監督機関的状態となり、世論でもない限りは、学校は間違っても独自の判断がまかり通ってしまうのだ。

学校内部の権力構造や入学者がいなければ倒産してしまう私学の学校経営においては、特色とされる強い部活、有名強豪部活は、翌年からの入学希望者を産出する要因でもある。

つまり経済的観点からも強豪部活内でのトラブルは、学校の死活問題に発展し得るスキャンダルになると言えるだろう。

だから、揉み消す、無かったことにするというのは安直ではあるが、それまで多くを揉み消してきていればこそ、組織対個人の強みを最大限行使して、隠ぺいをはかるのだ。

しかし、現在はこのもみ消しが、SNSの浸透により、簡単には出来なくなってきた。広陵高校の重大事態いじめ揉み消し問題も同様だし、問題炎上から新たに出た別件の類似問題についても同様だ。被害側の個人の発信が拡散され、事実が確認されていき、問題が大きく炎上して、大手マスメディアもこれに乗じてきた。

そうすると、次々と問題が浮上し、さらに燃え上がるコメントを高野連やら学校やら、問題の監督までもがする始末だ。

もともと危機管理能力がゼロからマイナスのレベルにある日本のこうした組織は、酒席での猥談やら倫理的には許されない無礼講での不適切な見解を公式の場で、然も当たり前のように発言してしまう、俗にいう「偉い人」がいることが多い。

こうした偉い人の発言は、記者らからすれば大好物の格好の獲物であるし、私も記者会見等には時折顔を出しているが、狙った通りに、言ったら炎上するコメントが取れることが多い。それだけ意識が低いということなのだ。

きっとこれまで、注意してくれる人がいなかったのだろうし、もしかしたら、注意する人を切り捨てていただけなのかもしれない、ある意味可哀想な人たちなのである。

一方で、マスコミの中には、視聴率等を上げたいために、敢えて切り取って問題提起をする場合もあるわけだ。

現状では、文科大臣すら厳しいコメントを出しているわけだから、危機管理上からすれば、広陵高校は少なからず加害行為をした部員のみでも、甲子園大会の出場は停止するのが妥当な判断ではなかったかと思う。

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