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甲子園出場辞退の広陵高校など氷山の一角。全国大会の常連部活で暴行事件やいじめが多発する構造的な問題

下級生への集団暴行事件に対する批判殺到を受け、夏の甲子園大会期間中に異例の出場辞退を発表した広島県代表の広陵高校。同校を巡ってはSNS上で「類似別件」までもが拡散されるなど、事態は炎上の一途を辿ることとなっています。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、この案件をここまで大きくした要因について解説。その上で、広陵高校に限ったことではない「全国大会出場の常連校」が抱える構造的な問題を明らかにしています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:広陵高校の問題について

広陵高校の問題について

広島広陵高校で上級生から下級生へのいじめが野球部内で起きたのにもかかわらず、被害等を矮小化して、高野連を含んで、甲子園大会への出場をしているということで、大きく報じられて、批判が殺到している(編集部註:広陵高校は8月10日、大会の出場辞退を発表)。

確認する限り、被害保護者のSNSアカウントから発信された内容が拡散され大炎上した。内容は具体的で、高校1年生の野球部員が禁止されているカップ麺を食べていることが見つかり、高校2年生に集団で暴行を受けた他、学校では調査で確認できないということであるが、性器を舐めさせたり、便器をなめさせたという情報もある。

結果、継続される嫌がらせや暴力から逃れるために、この被害者(高校1年生)は広陵高校を去る事になった。

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問題点

問題は、広陵高校と高野連(高等学校野球連盟)の処分があまりに軽かったということだろう。特に広陵高校は、暴力事件は単発だからとこの事件を県に報告していない。

いじめ防止対策推進法においては、専門家でなくても誰が見ても「重大事態いじめ」に当たるのだ。

重大事態いじめは、法28条に規定されており、重大な被害があるとされる場合に適用される。1号と2号があり、1号は「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」、2号は「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」とされている。

つまり、被害生徒が学校をやめている事実は、2号事案となり、いじめの被害状況は1号事案発生と評価できるから、この件は、管轄する県に報告しなければならない「重大事態いじめ」であるのだ。

一方で、広陵高等学校学則によれば、34条懲戒において「学校の秩序を乱し、その他生徒としての本分に反した者」とあり、停学及び退学の処分を校長が行うことができるとある。

高校などではこうした規定が校則に多く見受けられるが、基準として文科省は、「いじめや暴力行為は学校の秩序を破壊し、他の児童生徒の学習環境を脅かす重大な問題行動と位置づけ」ており、毅然とした対応が求められるとしている。

また、「学校の秩序を乱す」行為は大きく4つに分類されており、「他の生徒に対する暴力行為(傷害、威嚇、金品の強奪など)」「継続的ないじめ」「心身の安全を脅かす行為」「授業妨害など教育活動の正常な実施を妨げる行為」となっている。

現状では校長の裁量権が強いため、その考えに委ねられるところがあるが、広陵高校において行われた加害生徒への懲戒は、謹慎処分のみであったという。

高野連に関しても、学校に厳重注意、加害生徒は1か月の対外試合の出場停止であったということだから、出場停止や資格停止を喰らった他事案よりだいぶ軽い処分であった。

また、世間的な批判では、甲子園大会の主催の朝日新聞や後援の毎日新聞が報じなかったと批判が集中した。他にも高野連の幹部に広陵高校の校長がいることや広陵高校の野球部は監督一家が寮母やコーチなどをやっていて取り仕切っているなども批判されている。

また、高野連が、SNS上の投稿について誹謗中傷については法的措置も辞さないと強気に出ていることも、脅迫しているのかと大炎上を起こしている。

関係者に話を聞いてみると、言葉が足りなかったようで、加害生徒とされる個人の情報や写真の晒し行為が行われていることを危惧しての事であったようだが、こうしたことは切り取られたり、さらなる炎上をすることがあるから、彼らもよくよく注意すべきであろう。

類似別件も発覚

さらに問題は続く。

広陵高校が被害側に提示した報告書と高野連への報告書が異なるということが発覚している。高校側は被害側へは未完成の中間報告で、高野連への報告書が完成版だとしているが、相当無理がある言い訳だと言われてしまうだろう。

また、この問題となった件は、2025年1月の事件についての事であるが、この問題が大きく報じられるなどしてから、さらに別件が浮上したのだ。

別件もほぼ同一の被害の様子で、こちらは、現在調査中なのだという。

他にも未確認であるが、同様類似のいじめ事件が続々と出てきており、親交のあるライターによれば、週刊誌のタレコミ窓口には、かなり確度の高い、詳細な被害があったというメールが殺到しているというのだ。

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強豪校や名門校の諸問題

強豪校や名門校と言われるところは、そのスポーツの結果によって入学希望者が増えたりするわけだ。OBでプロで活躍する選手がいれば、それで入学希望者も増えるし、学校への寄付も増えるだろう。

また一方で、こうした強豪の部活出身者に聞くと、校名よりコーチや監督を生徒側は選ぶのだという。誰を師事するかの方が重要だということだろう。

いじめの現場にいると、かなりの率で名門校の全国大会常連部活内の問題にあたる。そして思うのは、構造的な問題が複雑に絡んでいるということだ。

例えば、名監督とコーチの学校内の権力は圧倒的で、当初は校長らが合意していたことでも簡単に覆されることが多いし、全国大会の主催団体などは大事にならない限り、深刻な問題が生じていても揉み消そうと圧力をかけてくることは常にあるのだ。

生徒の上下間でも、「しごき」「かわいがり」といった理不尽かつ非科学的な下級生つぶしが常態化していることは常であり、監督やコーチなどはこれを見てみぬふりをする事も多い。

また一方で、そもそも部活動は教育の場であるのに、勝敗に何よりも重きが置かれ、目標に向かって全力を尽くすという過程の教育が軽視されがちである。

生徒間でも強豪の部活にいる部員は、教師らからあまり注意されることもなく、その他一般生徒とは異なる特別扱いを受けていることが常に感じられる状態にあるものだ。

特に私学は、管轄する都道府県などの自治体が強い監督権を有さず、法制度上は一定の指導が認められていても、事実上形骸化しているから、なんちゃって監督機関的状態となり、世論でもない限りは、学校は間違っても独自の判断がまかり通ってしまうのだ。

学校内部の権力構造や入学者がいなければ倒産してしまう私学の学校経営においては、特色とされる強い部活、有名強豪部活は、翌年からの入学希望者を産出する要因でもある。

つまり経済的観点からも強豪部活内でのトラブルは、学校の死活問題に発展し得るスキャンダルになると言えるだろう。

だから、揉み消す、無かったことにするというのは安直ではあるが、それまで多くを揉み消してきていればこそ、組織対個人の強みを最大限行使して、隠ぺいをはかるのだ。

しかし、現在はこのもみ消しが、SNSの浸透により、簡単には出来なくなってきた。広陵高校の重大事態いじめ揉み消し問題も同様だし、問題炎上から新たに出た別件の類似問題についても同様だ。被害側の個人の発信が拡散され、事実が確認されていき、問題が大きく炎上して、大手マスメディアもこれに乗じてきた。

そうすると、次々と問題が浮上し、さらに燃え上がるコメントを高野連やら学校やら、問題の監督までもがする始末だ。

もともと危機管理能力がゼロからマイナスのレベルにある日本のこうした組織は、酒席での猥談やら倫理的には許されない無礼講での不適切な見解を公式の場で、然も当たり前のように発言してしまう、俗にいう「偉い人」がいることが多い。

こうした偉い人の発言は、記者らからすれば大好物の格好の獲物であるし、私も記者会見等には時折顔を出しているが、狙った通りに、言ったら炎上するコメントが取れることが多い。それだけ意識が低いということなのだ。

きっとこれまで、注意してくれる人がいなかったのだろうし、もしかしたら、注意する人を切り捨てていただけなのかもしれない、ある意味可哀想な人たちなのである。

一方で、マスコミの中には、視聴率等を上げたいために、敢えて切り取って問題提起をする場合もあるわけだ。

現状では、文科大臣すら厳しいコメントを出しているわけだから、危機管理上からすれば、広陵高校は少なからず加害行為をした部員のみでも、甲子園大会の出場は停止するのが妥当な判断ではなかったかと思う。

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広陵高校は外部調査委員会を立ち上げ、全問題を調査し県に報告すべき

広陵高校は外部調査委員会を立ち上げ、全問題を調査し県に報告すべきだろう。そうでなければ、無関係の生徒まで問題に巻き込まれることになる。

実際、甲子園大会の応援スタンドは野球部関係者のみで、チアリーダーや吹奏楽部は参加しておらず、静かだという(編集部註:出場辞退発表前に行われた7日の対旭川志峯戦)。

不参加には大きな大会が控えているという理由を取ってつけても、事実上参加しなかったことは正解なのだ。甲子園大会は公共放送で放送されるし、スタンドにもカメラがたくさんあるわけで、問題とは無関係の生徒が撮影されてしまうからだ。

これは可能性ではなく、いれば確実に撮影される。

1件出てきて、別件も出てきて、さらに無数の報告がマスコミにタレこまれている今、もはや待ったなしで、問題対応をしなければならないだろう。

そして何よりも、被害生徒は転校せざるを得なくなったわけだ。これについて、あらゆる面で、加害者も学校も責任を取っていくべきだろう。

編集後記

問題が報道され、記事を作成しているうちに続報が相次ぎ、どうなっているんだとさすがに驚きましたが、関係者などに話を聞くと、まだまだトラブルがあるとのことで、そもそもでこれまで隠ぺいしていただけなのだと思いました。

私は連帯責任という風習があまり好きではありません。ちなみに野球は好きでもなければ嫌いでもない程度です。甲子園大会の中継はまず観ません。それでも、甲子園を目指して日々練習している球児をみれば、一部の事件を起こす部員らのせいで、出場が停止になってそれまでの努力が無駄になるというのは、あまりに理不尽ではないかと思うのです。

まあ、連帯責任にすれば、指導はしやすいかもしれませんが、甲子園大会はプロへの登竜門でもあるわけですから、無関係の生徒にはチャンスがあって良いのではないかと思います。あくまで私の考えに過ぎません。

甲子園好きの友人は、今回は広陵の件があってずいぶん冷めると言っていました。何か汚された気がして、どうにもモヤモヤするそうです。同様に考える人もいるかもしれませんね。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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