アメリカ・ファースト政策が米国を殺す。トランプ政権の致命的な大誤算

 

2. 地政学:孤立主義と国際的信頼の喪失

2.1 トランプの「アメリカ・ファースト」と同盟国との亀裂

トランプの外交政策は、WTOやパリ協定からの離脱、在韓米軍撤退の示唆、NATOへの圧力(防衛費5%要求)など、国際協調を後退させる「一国主義」を特徴とする。

2025年8月時点で、カナダ(81%)、ドイツ(72%)、日本(61%)の世論調査でトランプへの信頼低下が顕著である(YouGov)。

これにより、同盟国は米国依存からの脱却を模索し、日本はASEANとの経済連携を強化、EUは中国との貿易関係を再評価している。

トランプの「取引型外交」(例:パナマ運河やグリーンランド問題での強硬姿勢)は、短期的な譲歩を引き出すかもしれないが、長期的な同盟の信頼を損なうだろう。

2.2 習近平の地政学戦略との比較

習近平は、一帯一路構想やBRICS、SCOを通じて、多極化世界の構築を推進し、米国の覇権に挑戦している。

香港での強権統治は、西側諸国からの制裁を招き、国際的孤立を深めたが、中国はグローバルサウスでの影響力を拡大し、2024年にはサウジ・イラン和平仲介に成功した。

トランプの孤立主義は、皮肉にも習近平の多極化戦略を後押しする。トランプが同盟国を遠ざける一方、中国はロシアや北朝鮮との連携を強化し、ウクライナ戦争での間接的支援を通じて、欧州の不安定化を助長している。

トランプの政策は、米国の地政学的リーダーシップを弱め、中国の「中華民族の偉大なる復興」を間接的に支援する結果を招いている。

2.3 批判:地政学的リーダーシップの放棄

トランプの孤立主義は、米国の伝統的リーダーシップを放棄し、中国に地政学的空白を埋める機会を与えている。

習近平の統制が香港の自治を奪ったように、トランプの高圧的姿勢は同盟国との信頼を損ない、米国のソフトパワーを弱体化させる。

スティーブ・ツァン(SOAS大学)は、「トランプの『アメリカ・ファースト』は、習近平の『中国の夢』を大きく前進させた」と指摘する。

台湾問題においても、トランプの取引型アプローチ(例:台湾への軍事支援削減の示唆)は、中国の軍事的圧力を助長し、アジア太平洋の不安定化を招くリスクがある。

米国の地政学的後退は、民主主義国家の結束を弱め、長期的に中国の影響力拡大を許す危険性を孕む。

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