石破首相が旧安倍派主導による「総裁選前倒し」を阻止へ。安易な“石破おろし”を牽制する「続投宣言」真の狙い

 

誰も文句のつけようがない森山幹事長の「老獪な危機管理」

石破氏は自らを「保守リベラル」と称し、リベラルの本質は寛容性にあるとしている。少数意見を大切にし、野党にも丁寧に耳を傾ける態度こそが「保守」の本質であると説いている。この理念は、特定のイデオロギーを前面に出す「強硬保守」の政治スタイルとは根本的に異なる。

昨年の衆院選や今年の参院選での惨敗は、石破政権にとって大きな痛手ではあった。だが、安倍派を中心とする自民党内の「強硬保守」勢力が後退し、相対的に穏健派の発言力が増す政治的環境が整ったことをプラス面と判断、それを持続させるために「続投」を宣言し、高市早苗氏ら保守強硬派に台頭の機会を与える「総裁選」を容易に開かせないよう画策している可能性がある。

そもそも石破首相には、選挙で負け続けている原因が裏金問題や統一教会問題を引き起こした旧安倍派にあり、そのメンバーを軸とした保守系議員たちが「石破おろし」を主導しているのは許せないという思いが強い。だからこそ意固地になって政権にしがみついている側面もあるのだろう。

むろん、その意向を支える政治的歯車として、見逃せないのが森山幹事長であり、その動きだ。参院選後、党内から石破首相の退陣を要求し、両院議員総会の開催を求める署名活動が活発化したさい、「党則に則って判断する」という誰も文句のつけようがない方針を示したことは、老獪な「危機管理」といえた。

その方針は、両院議員総会でも適用された。保守派と目される有村治子氏が総会長として議長をつとめ、総裁選の実施を迫る“アンチ石破”議員の意向を汲んで参加者にこう提案した。

「党則に基づき、臨時総裁選を行うかどうかの意見集約を党の総裁選挙管理委員会にやってもらうよう申し入れる、ということでよろしいですか」

そのさい、有村氏に発言を促された森山幹事長は「ルールに基づいて運営することが大事だ」と念を押して、そのまとめ方に賛意を表明。提案はスムーズに了承された。

これで、総裁選に向けて急ピッチで動き出したかのごとくメディアは報じたが、「党則順守」という厳格かつ公平なイメージが思わぬ方向に働いた。

8月19日、総裁選挙管理委員会の初会合。終了後、記者団の前に姿を見せた委員長、逢沢一郎衆院議員はこう語った。

「厳正に慎重に制度設計をして間違いのない意思確認を行っていく」

参加者の話によると、総裁選のように全員が集まって無記名で投票すべきという声も上がったが、逢沢委員長は「総裁の地位にかかわることで、厳正にやらねばならない。誰が書いたのかわからない投票は好ましくない」と述べたといい、記名回答になる可能性が高まっているようだ。

記名となれば、石破政権が存続した場合の人事上の不利益を懸念する心理が働くだろう。ただでさえ官邸や党本部への“忖度”で生きながらえている議員の多い自民党のことだ。反石破の急先鋒はともかく、副大臣や政務官、党の役職についている議員たちは、役職を辞めない限り総裁選開催に賛成しにくくなる。

石破退陣を求める議員に対して心理的圧力をかけるやり方ともいえるが、「厳正な判断」という大義名分が立つため、反石破派が正面切って反対できないのは確かだろう。

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