中共独裁体制の「つけ」
こうした最近の出来事から推測できることは、「米国の時代」あるいは「Pax Americana(アメリカによる平和)」がもうしばらくは続くであろうということです。
今、世の中では、「アメリカの凋落」を語る識者が多く、「経済的にも軍事的にも、米国の時代は終わりに向かっている」という推測が一般的です。
しかし、アメリカに代わる「グローバルな覇権国」が他に現れるとは思えません。米国の介入が減ることで「多極化」の傾向は強くなるにしても、グローバルな規模で経済軍事的にリーダーシップを発揮することができるのは米国だけです。
これまで、中国がまず「BRICS」内で覇権国となり、米中の冷戦を経て、中国の時代がやって来るといった未来予想図を語る評論家や財界人は少なくありませんでした。米国が凋落し、中国の時代がやって来るというわけです。
しかし、現実には、中国経済はガタガタ、習近平国家主席の命脈は風前の灯です。現状は、軍のトップである張又侠(ちょうゆうきょう)上将が習近平派を抑え込み、長老派と手を結んで非習近平派による「集団指導体制」が敷かれています。問題は、時期政権を担う有能な若手がいないという点です。
なぜなら、独裁者として君臨していた習近平主席が、将来自分を脅かす危険のある優秀な若手を、悉(ことごと)くパージ(排除)してしまったからです。結果、生き残ったのは老人や使えないイエスマンばかりで、優秀で生きの良い若手は誰も残っていません。中共は独裁体制の「つけ」をここに来て払わざるを得なくなったのです。
しかも、「金の切れ目は縁の切れ目」、最早、忠誠心を金で買いたくとも、そのお金がありません。中国は混乱と分裂の時代に入ったようです。「グローバルな覇権国」どころの騒ぎではないのです。
EUは「解体」の危機?
同様の混乱と分裂は「EU」においても始まっています。米国やソ連、中国に対する「対抗勢力」として、グローバリストの国際金融資本家たちが後押しして創り上げた「EU」ですが、これもそろそろ賞味期限が来てしまいました。
かつて、経済的組織としてのEUと軍事的組織であるNATOは、まるで戦車の両輪のように力を合わせ、旧大陸の「統一覇権体」を目指して、旧東欧諸国を吸収するだけでは飽き足らず、新生ロシアに対しても侵出の触手を伸ばしていたのです。
こうしたEUやNATOの野望に呼応する形で、ビクトリア・ヌーランドに代表される米国の「ネオコン(Neocon戦闘的な新保守主義者)」勢力は、2014年、ウクライナに傭兵や工作員を送り込み、クーデター(オレンジ革命)を引き起こして親露政権を転覆しました。これが、現在も続いている「ウクライナ戦争」の発端です。
その後、彼らはウクライナ東部のロシア系住民4万人を殺害し、ロシアを戦争に引きずり込むことには成功したのですが、戦況は当初の予想とは逆になりました。ロシアは欧米の経済制裁を撥ね返し、軍事的にも粘り強さを発揮し、欧米の支援するキエフ傀儡政権を敗戦に追い込もうとしています。
そして、これはウクライナだけの問題ではなく、EUとNATO、そして米国の「敗戦」でもあります。
ベトナム以来、「敗戦慣れ」している米国にとって、今回のダメージは想定内です。米国の軍需産業は充分に儲けましたし、前述の通り、既にトランプ大統領はプーチン大統領と「戦後」の儲け話についてソロバンをはじいています。「転んでもただでは起きない」のが覇権国というものです。
ところがEUは、敗戦前から、既にボロボロです。とても「覇権」どころではありません。下手をすればEUの「解体」が始まりかねないのです。
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