コンプライアンスの徹底が叫ばれる令和の世になっても、教師による不適切な指導や体罰が依然として報告される日本の教育現場。そんな現状を改善する手立てはあるのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、およそ信じがたい事例を具体的に挙げつつ各々の理不尽な対応を強く批判。その上で、治外法権化していると言っても過言ではない学校を変えるための施策を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:置き去りに、飯捨てテロ、何でもアリか教育現場
解像度を高めれば可視化する現実。部員置き去りに飯捨てテロ、何でもアリな教育現場
X(旧Twitter)で、こんなポストがあった。
昭和時代学生だった方、教師から不通に暴力当たり前だったそうですか本当ですか?
昭和を生きた私ども、40代後半以上の世代にはしびれる質問だ。答えを見てみると
学校には一人は竹刀を常時持ち歩く先生がいた。
あーいたいた、しかも、その竹刀は飾りではなく、本当に使うから、ボコボコになるんだ。
げんこつは当たり前、ビンタは往復だった!
確かにいた。拳骨喰らうと思って、歯を食いしばっていたら、みぞおちに一撃喰らうなんていうことは、普通にあった。
確かにそういう時代があったことは、今から必死に隠そうとしても隠せるものではない。しかし、今も昔も変わらない。「体罰」は「体罰」なわけだ。
色々な論点があるだろうが、一部には理不尽な暴力を受けたという話ができると思った人もいるだろう。
教育問題の解像度を高めれば、体罰はいくらでも可視化する。
富山県の小学校では担任が児童の給食を捨てるという暴挙に
射水市の小学校で起きた事件では、担任教諭が小学4年生の児童の給食を捨てたということが報じられている。しかも、このクラスでは、黙食であった。
黙食とは、その字の通り、「黙って食え」ということだ。
つまり、黙食での給食を指導していたところ、小学4年生の二人の児童がその指導に従わなかったから、担任教諭は残飯用の容器に、給食で出た2人のカレーライスを捨てたのだ。
黙食指導は、新型コロナウイルス対策のために行われていた時期はあるが、2022年11月に文科省の基本的対処方針の改訂で、適切な対策を講じれば会話も可能という通知を出している。2025年現在では、黙食ルールは基本的に一般的ではないとされているはずだ。
もしも仮に、この指導について正当性があり、何らの問題もなかったが、保護者がモンスターでだというなら、保護者が怒り狂い新聞社などに情報をリークしニュースになっていたことだろう。しかし、不適切な対応でしたとして、プレスリリース等は射水市教育委員会が行っている。つまり、親がどうこうというわけではないのだ。SNSでは無責任に保護者を叩いているようだが、どうやらその実は違う。
一方、担当教諭は指導から外れ、謝罪をしたという。つまり、これまで理不尽な指導などで問題になっていた教諭の行為が目に余る状態で、結果として腰の重い教育委員会が出てきて処分等をしたというのが妥当だろう。
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名門女子バスケ部の顧問が起こした「生徒置き去り事件」
佐久長聖高校(長野県佐久市)で女子バスケットボール部の顧問を務める女性教諭が、新潟市での練習試合の際に、部員一人を置き去りにして、この部員が新幹線で帰宅していたとしてニュースになっている。指導の理由は、プレイが気に入らなかったから。
「一人で帰れ」と言って、宿泊先に置き去りにしたのだ。
続報では、そもそもで部員10人をバスに乗せず、宿泊先から遠征の学校までの7キロを歩かせていたということが発覚した。
なぜこんなことをしたのか?という理由では、挨拶が出来ていなかったからだという。挨拶の指導のために、炎天下の中、バスに乗せず7キロも歩かせ、一人は新幹線で帰宅するという事態がおきたのだ。
プレイが気に入らないから、一人で帰れ!というのは指導の範疇をすでに超えているだろう。
学校は教諭を厳重注意処分としたということであるが、果たしてその程度の事であったのだろうか。
体育会系の部活では、パワハラが横行しやすい環境が確かにあるが、基本的にそうした指導は誤りであることは現代社会においての正解なのだ。
広島広陵高校野球部の事件も同様であり、こうした問題は多くの学校が抱えていることであろう。
【関連】甲子園出場辞退の広陵高校など氷山の一角。全国大会の常連部活で暴行事件やいじめが多発する構造的な問題
体罰の規定や不適切指導の判例からみれば、上の事件は双方とも確実に不適切指導であり、体罰とも言える理不尽な暴力性によって引き起こされたものだと断じることが出来よう。
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いじめの引き金になった「あなたたちはいらない子」との暴言
今年(2025年)に入り、あるいじめ問題を調べていたところ、加害側の保護者が私をテレビで見たことがあると訪ねてきた。少し会話を交わしていたら、兄弟の兄の方が加害行為に加担してしまった弟にじっくり聴き取ったら、確かにやってしまったと告白したというのだ。
だから、被害側に許してもらえるまできちんと謝罪をしたいというのだ。
状況を被害側に話をすると、その子に関しては受け入れるというので、家族も含めた謝罪の会が行われた。
そこで、なぜいじめに加担してしまったのか?という問いが出た。よくある回答だが、彼は主たる加害者がクラスのリーダー的存在で怖くて抵抗できなかったと思うというような話をした。
普通は、回答はこれで終わりなのだが、続けてこう言った。
「先生が○○と××は、うちのクラスにはいらない子ですと言いました」
だから、机が2つ並びで教室の端に置かれていたのだということもわかった。この発言に関して、被害を受けた児童も、ショックが大き過ぎて親には言えなかったと言った。
また、もう一人名指しをされていた子は、すでに不登校になっていた。連絡先を調べて、今回の被害保護者が話聞いたところ、その発言があってその後、児童間で一方的に息ができなくなるほど殴られたとのことで、校長と話をしている最中だということであった。
学校が問題を認知しても、隠すことはよくある事であり、児童の人生に大きな影を落としても、ごめんなさいと言えば終わりという場合も多くある。
結果、この問題は、いじめの調査の一環で採ったアンケートで多くの児童らが聞いたと書き、明らかになったが、特に処分は無かった。
教育委員会の担当者に話を聞くと、担任は情緒が不安定で癇癪持ちで、あまり注意してもよくはならないし、この件を認めていないのだそうだ。また、担任の業務を拒絶していて、事実上、教頭が替わって対応しているとのことだった。
他にもある。
しかし、これを1つ1つ示していたら、数百ページ必要になるだろうから、ここでは書かない。枚挙にいとまがないというやつだ。
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学校が治外法権に近い状態になっているという現実
学校は治外法権ではない。学校で起きたことだから、教育指導の一環だから、部活の指導なのでといって、何をしてもよいというわけではない。
当たり前のことだ。
しかし、現実は、未だに実質上、学校は治外法権に近い状態になっている。理不尽なブラック校則然り、体罰や不適切指導事案然りだ。
いつになったら、正常化するのかわからないが、理不尽な指導、児童生徒への懲戒行為には断固として対応しなければならないだろう。
「でっち上げ」がまかり通る日本の教育現場
学校の問題を教職員らによる不正まで広げれば、事実と異なる報告を教育委員会にあげていたり、被害保護者をモンスターペアレンツに仕立て上げていたりすることは日常茶飯事で見ています。
まさに「でっちあげ」です。
これらは、情報開示請求などの手続きで明らかになるのですが、反証するのもなかなか骨が折れます。やっていないこと、言っていないことを証明するのは、立証の証拠収取活動の世界では「悪魔の証明」といって、本来不可能とされている部類になります。
一方、公務員だったり、先生という立場は、その報告自体が公式見解的扱いを受けますから、作成した書類の類いは証明力が強いのです。
ほとんどは反証を成功させて、なんとかしますが、中には、もうどうにもならないものもあります。そもそも悪魔の証明は不可能というのが常識ですからね。私は無理ゲーをやっているというところです。
そうした経験を常にしていると、なぜこんなに歪んでいるのだろうと疑問が生じます。
中には証拠を残さないために、議事録は作らないとか、データは即削除、紙は即シュレッダーというケースもあります。
当然、真面目にきちんと大変だけど取り組んでいるところはたくさんある事でしょう。私のところに来るのはトラブルになってからですから、特別なケースを見ているのだとされれば、それまでかもしれません。
しかし、相談件数で言えば、NPO法人になる前から数えられるだけ数えて、だいたい2万2,000程度あります、当然被りもあるし、そこまで酷くないケースもたくさんあるのですが、それでも、結構多いんじゃないと思うのです。
学校は治外法権化している。そう考えると合点がいきます。
教育委員会は独立した行政委員会という建付けです。私学はその独立性がある程度広い範囲で認められています。結果、ちっこい王様を作ってしまっているのではないかと思えるのです。
やはり、監督し、強い指導権を持った監査機関が必要なのではないか。実現できるかはまずは度外視して、そんなことを考えています。
こどもたちが理不尽なトラウマを経験をせず、被害者にも加害者にもならないように、教育関係者の方々には今一度、広い世間にも目を向けて熟考してもらいたいと思います。
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