4つのグループが全く別の方向を向いているアメリカの異常事態
ということで、上院の改選議席については、共和22対民主13ですから、共和党が取りこぼしをすると逆転もありそうにも見えるのですが、現時点ではかなり困難と言うのが現状だと思います。反対に、下院における民主党の「+5」というのは、激戦選挙区が多くある中では歴史的に見れば、それほど難しい数字には見えません。
だからこそ、共和党は現在、猛烈な勢いで州知事や州議会をコントロールしている州において、下院の選挙区割を極限まで自党に有利に組み替えようとしているのです。また民主党はこれに必死の抵抗をしています。
各州の「治安の悪化している大都会」に、州兵を投入するというのも狙いは同じです。州兵によって、ギャング団や集団万引き犯などを検挙し、過去の民主党市政などが「犯罪に甘かった」という印象を拡散。そして中間選挙における「民主党の強い選挙区」を個別に撃破するという作戦だと考えられます。
それはともかく、現在のアメリカの政治風土は異常事態となっています。4つのグループが、全く別の方向を向いているからです。
(1)トランプ政権本体は、とにかく日替わりで政策変更、つまり米国の伝統政策の組み替えに奔走中
(2)MAGA派とか、Z世代のトランプ支持派は、トランプの政策が過激度を下げているので不満。特にウクライナを見捨てられないこと、トランスジェンダーの銃規制を考慮している点、などに反対。これに「エプスタイン文書の全面開示を求める」動きがあり、とにかく「より右からの不満」を政権に向けつつある
(3)一方で、民主党穏健派と共和党内の隠れ穏健派は、戦々恐々としながらダンマリを続行中。とにかくグローバル経済にフレンドリーな態度を見せれば、左右から攻撃が飛んでくる中で困惑と沈黙の日々。ただ、民主党の「中堅世代」は、前回の敗戦への犯人探しを今でも続行中(例えばハリス女史の近著など)
(4)民主党左派、特にZ世代は一層の左シフト。象徴的なのはNY市長候補のゾルダン・マムダニで、社会主義、再分配、公営化、億万長者への懲罰など左派政策を掲げて猛進中。中東問題も大不満で、この点では(1)(2)(3)の全てとシャープに対立
という感じです。旧来の「アメリカの分断」というのは、(1)+(2)と(3)+(4)の対立と分断であったのですが、現状は(1)と(2)の対立も激化、(3)と(4)の対立ももっと激化という状況になっています。
そんな中で、9月10日に発生したZ世代の宗教右派、チャーリー・カーク氏の暗殺事件は、深層にある真相は全く「闇」に包まれていますが、とりあえず(1)と(2)の再和解と、彼らの(4)への憎悪という力学を発生しています。
直前までカークは、政権主流には批判的で、エプスタイン問題などでかなり突き放したことを言っていましたし、全体的に(1)と(2)の対立は激化していたのでした。ですが、カーク殺害犯とされるタイラー・ロビンソンの交際相手がトランスジェンダーだということと、殺害犯のメモに「反ファシズム」という語彙が使われていたということから、大統領は「アンタフェ」つまり「反ファシズム運動」を名乗る極左の犯行と断定的に語っています。
あわよくば、(4)のグループを反米的だとして、よりパージを強化しようという感覚もそこにはあります。一方で、事件の現場はユタ州であり、殺害犯の家族はユタの多数派である末日聖徒イエス・キリスト教会(いわゆるモルモン教)であることから、ユタの知事は事件の捜査には非常に慎重です。
話が脱線しますが、ロビンソンを警察に突き出したのは両親で、両親はモルモン教徒であり、性転換には福音派以上に批判的です。一方で、殺害されたカーク氏は、福音派の中の極右であり、モルモン教徒は相容れません。モルモン教自体は、開拓時代に合衆国と交戦状態に陥ったことを反省して、暴力は厳しく否定する立場です。
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