「カーク氏暗殺事件」捜査の行く末も影響大か?実質的な「大統領選」の中間選挙を前に“異常事態”を迎えたトランプ米国の政局

 

4つ巴のレースとなっているNY市長選のカオスに過ぎる対立軸

更にここにトランプ政権が、トランスジェンダーへの銃規制を検討しているという問題が絡みます。ということで、カークと福音派、ロビンソンとトランスの交際相手、本当にロビンソンは左派なのか、ユタとモルモン、ロビンソン一家のモルモン信仰と、そこからはみ出た(?)ロビンソンという「複雑な葛藤」がそこにはありそうです。

それにしても、相当な距離から一発でカーク氏を狙撃した腕前、鮮やかに逃亡しつつも、あっけなく両親に通報されたという経緯など、事件には不自然な点が数多くあります。当分は、このニュースでアメリカは持ち切りになりそうです。

ユタ州としては、モルモン教徒と福音派の対立というのは起こしたくないはずです。そんな中で、(1)と(2)のグループとしては、ロビンソンが極左だというストーリーが好都合ということになります。ですが、事実関係は一体どうなのか、ということでこのニュースは極めて政治的な意味を持ちつつあるのです。

もう一つ、大事なのが先ほども言及した今年の11月のNY市長選です。既に両党の予備選は終わっていますが、無所属出馬している有力候補が2名おり、4つ巴のレースとなっています。簡単にプロフィールを紹介すると、

マムダニ市議:(4)の象徴。イスラム教徒で社会主義者。公約は食品スーパーを公営化して卸値で販売、市内のバスと託児所の無償化、廉価な公営住宅の充実、億万長者への懲罰的課税といった政策

スリワ共和党公認候補:銃を持たない民間自警団を長年率いているユニークな人物。NYの治安悪化に懸念を持つ。一方で筋金入りのトランプ嫌い。つまりは(3)の代表

アダムス現市長:バイデンとの確執などから、トランプに接近。自身への汚職容疑をチャラにする代わりに、移民捜査に協力するという「裏切り」の結果、民主党としての市長候補から追放されている。にも拘らず、「勝てそうもない」のでトランプから切られつつある

クオモ前NY州知事:コロナ政策の失敗とセクハラ疑惑で知事を解任。だが両疑惑は晴れたとして、リベンジ出馬。(3)を代表するとして逃げも隠れもせず、トランプとも提携を示唆

ということで、クリントン=オバマ路線の継承者であるクオモ氏が、一番トランプ氏に近いというカオスな対立軸がここにはあります。そんな中で、クオモ氏を追放して知事になったホークル女史(現職州知事、民主党)は、長い間ダンマリを決め込んでいたのが、ここへ来て昨日(14日の月曜日に)マムダニ支持を表明しました。

これは、対立軸的にはヒラリーやハリスが、サンダースやAOCと提携するぐらいのカオスな動きとも言えます。ですが、ホークル女史としては、26年の中間選挙と同時選となる知事選で、再選を目指すにはNY市内での勝利が必須ということから、マムダニ氏との提携を選んだわけです。

このマムダニ氏ですが、投票まで2ヶ月の現時点ではかなり優勢になっています。最新の世論調査では、マムダニ(45%)、クオモ(25%)、スリワ(17%)、アダムス(12%)と票としては割れていますが、マムダニ候補の優位はかなり顕著となっていると言えます。

これに対しては、トランプ大統領自身は「共産主義の市長誕生は絶対に許せない」として「マムダニ当選の暁には連邦からの補助金をカットする」という脅しを口にしています。問題は、民主党の中枢で、シューマー上院院内総務ほか穏健派の重鎮たちが、果たしてどの時点で支持表明をするのか、または見送るのかが焦点となっています。

というわけで、分断の複雑化、4分裂というのが、現在のアメリカ政局のメインストーリーになるわけですが、選挙を左右するのは結局のところは経済ということだと言う見方もあります。

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