3つの大きな謎に包まれた極めて不透明なアメリカ経済の現状
今度はアメリカ経済の現況ですが、これまた政局と同じようにカオスであり、極めて不透明です。こちらにも3つの大きな謎があり、専門家の意見も割れに割れているからです。
(謎の1)雇用の低迷が、不況の兆候なのか、それともAI効果なのか?
(謎の2)消費は減退しているのか、それとも相変わらず強いのか?
(謎の3)物価は沈静化しているのか、それともインフレ懸念がまだまだあるのか?
まずここ数ヶ月、確かに雇用データは渋い数字を出しています。色々なパラメータを使って雇用統計を出していた政府が、過去にさかのぼって雇用データを悪い方に修正するということも起きています。特に、大卒の新卒市場というのは、非常に厳しくなっており、中国同様に「氷河期」となっています。
この現象が、景気減退の兆候なのか、それともAIによる合理化の成果であって、景気は相変わらず強いのか、これは現時点ではまだわかりません。実際に事務職や中レベルの研究開発職などでは、90年代から2010年代にDXが一巡して、景気は良くなっても雇用はどんどん減るという時代がありました。
今回のAI革命は、DXよりもずっと革命的であり、中付加価値以下の知的職種に対しては壊滅的という見方もあります。もしも、この動きが顕著となれば、一気に躍進するのは(4)つまり民主党左派です。共和党は、さすがに国内については絶対的な自由経済ですから、AIによる雇用減を規制するという発想はないからです。
次に、景気そのものを反映する消費動向ですが、これも良くわかりません。伸びているのが物価高のせいで、実は消費は鈍っているのかが、現在の各種統計ではクリアーに出てこないからです。例えば、先週は毎年恒例のアップルの新製品発表がありましたが、アメリカ国内の引き合いはかなり強いようです。249ドルのイヤホンとか、799ドルの新型スマホなどに相当の注文が来るというのは、何だかんだ言って消費は底堅いのかもしれません。
そうなると、改めて、景気は底堅いがAIによるリストラが暴走しており、雇用は低迷ということだと、俄然(4)の、それこそマムダニ路線のようなものが、Z世代を引き寄せていくことになりそうです。
一番の指標は歳末商戦で、ここで関税の効果がどう出るのか、その上で純粋なインフレはどの程度なのかを考えながら、景気と雇用の将来を見ていくことになります。
その上で、短期から中期で相当な悲観論が出れば、1月の年明けに株価が暗転するということは十分にありえます。
物価ということですと、一時期鳥インフルのために高騰していた卵はやや沈静化しています。その一方で、気候変動の影響でアメリカ人の大好きなコーヒーとオレンジジュースが暴騰している他、歳末商戦のメインとなる消費者向け電気製品とアパレルは、現状ほぼ100%が輸入ですので、関税政策の結果がどう反映するのかが注目されます。
というわけで、当面のアメリカの動向は、カーク氏暗殺事件の捜査の行く末、11月のNY市長選、そして歳末商戦とインフレ、景気、株価といった問題を見てゆくことで判断する必要があるように思います。
一言で言えば、6月ぐらいまでの情勢では、トランプ政権の政策変更を元の常識的なものに戻せば、アメリカも国際社会も落ち着くといった主張が成立する状況がありました。ですが、現在の国際情勢、テクノロジーと経済の情勢を考えると、もしかしたら共和党や民主党の穏健派の集票力は、相当に細っているかもしれないのです。
国際情勢の不安とAI時代への不安から、有権者の投票行動も海図なき領域に入りつつあるのかもしれません。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年9月16日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「自民党総裁選と政局、5つの注目点」や人気連載「フラッシュバック80」もすぐに読めます。
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