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強制力や罰則ナシ。それでも全住民を縛る愛知県豊明市「スマホ規制条例」が意味不明である2つの理由

愛知県豊明市で10月から施行される「スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例」。子供のみならず市民全員を対象に「1日2時間以内」という“あくまでも目安”を示した全国初の試みですが、その是非を巡り大きな議論が巻き起こっています。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、当条例が象徴する「思考停止」の危うさを指摘。さらに本質的な課題解決のあり方についても疑問を呈しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:米国経済の現在地を確認する

スマホ禁止条例の思考停止を考える

愛知県の豊明市では、スマホなどの「適正使用を推進する条例案」が市議会本会議で可決されました。この条例ですが、この10月1日から施行されるそうです。対象は、子供だけでなく全市民で、余暇時間での使用を1日2時間以内、小学生以下は午後9時まで、中学生以上18歳未満を午後10時までとする「目安」を示したものだそうです。

全市民を対象としたスマホ等の適正使用を定めた条例は全国でも初だそうです。ちなみに、条例は理念条例と位置づけられており、罰則や強制力はないそうです。

具体的に何が「2時間規制」の対象になるのかというと、条例で適正使用が求められる行為としては、インターネットやアプリなどの機能を利用した情報の閲覧や視聴が挙げられています。また、対象の機器としては、ゲームやSNSをすることができるスマホやタブレット、ゲーム機器、パソコンなどが想定されるとしています。

しかし、この条例ですが、何が言いたいのか全く意味不明だと思います。その意味不明感というのは、この条例というのが、たぶん非常に浅い思考、表面的な見方から出ているからだと思われます。

1つ目は、仮にこの条例の提案をしている市長などが「家族間のコミュニケーションを高めるべき」だとか、子どものメンタルヘルスを何とかしたいというのが主要な理由だとしたら、順番が逆だということです。

確かに、夕食を一緒にしているのに、子どもが画面ばかり見ているとか、みんなが画面ばかり見ていて会話がない家族というのは、問題かもしれません。ですが、それはスマホがあるので家族の会話がなくなったということではないと思います。

そうではなくて、親が忙しがっていて子どもの話を聞かないとか、子どものSOSをキャッチできないという問題があって、その結果としてお互いに関係性を構築できずに画面ばかりを眺めるということになっている、そうしたケースが多いと思います。その場合、スマホを制限しても問題の解決にはならないと思います。

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2つ目は、依存症の問題です。スマホ依存というのはたしかに問題ですが、重要なのは中身です。ゲームに「ハマって」しまって、勉強する時間も睡眠時間も確保できなくなるのであれば、それはゲーム依存です。また、意味のないショート動画に「ハマって」いつまでも流れてくる動画を見てしまうのは、また別の依存症だと思います。

更にいえば、SNSの上の人間関係に拘束されて、リアルで会ったのに、意味もなくLINEでつながって、既読スルーにモヤモヤしたり、お互いに依存関係になって、人間関係を危うくしてしまうのは、また別の依存です。どれも過度になれば深刻な問題ですし、対処をしなくてはなりません。ですが、依存の種類は全く別です。

ゲーム依存とショート動画のダラダラ閲覧は、依存の質は別です。ましてLINE依存というのは、リアルな関係性も含めて人間同士の関係性に不健全性があり、幼い子供の場合は年長者の介入や保護が必要になると思います。とにかく、そうした依存症の怖さ、カテゴリの多さを無視して、「スマホ2時間規制」をやれば、事態が改善するというのは、考え方として甘すぎると思います。

こうした「上からの規制」というのは、何よりも、個人の自由だという原則論で片付けてしまいがちです。それはそれで原則論としては間違っているとは思えません。ですが、その一方で、この種の「大ざっぱな規制」を考えてしまうという体質の中には、本当に深刻な問題について適切な対策を考えないという、思考停止が含まれているのは間違いないと思います。こちらもかなり深刻な問題だと思います。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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