調査報告書からの事件の経緯
陽向さんは、東京高専に入学し、1年生で推薦される形で学生会の会長に立候補し当選している。2年生で学生会会長として活動(1年次)になった。そして、事件のあった令和2年の2年次も学生会の会長に選出されている。つまり2年連続の会長である。
陽向さんを知る人に話を聞けば、真面目で正義感があり、信頼されている、さわやかで親しみのある対応をしてくれる学生という。
さて、この事件の背景には、社会環境の変化があったことが強く影響していると言える。令和2年と言えば、新型コロナウイルスの猛威が始まったばかりの事だ。
内閣総理大臣による全国小中学校、高等学校などに休校要請があり、4月には緊急事態宣言が発出された。
学生会の会長であった陽向さんは、コロナ禍での文化祭開催について、感染対策が極めて困難であるなどを理由に、文化祭の開催を見送る決定を学生会(文化祭については親交委員会)でまとめた。
これに反対したのが高専教員Aである。高専教員Aは、学生会の「暴走」「独断」などと揶揄し、脅しともとれる内容を学生会役員へLINEを通じて送信していた。
どんだけ文化祭がやりたいんだよ…とも思えるが、事実である。
あまりの酷さから、陽向さんは校長宛に「ハラスメントの申入書」を作成し、提出している。後日、高専教員Aは、陽向さんに謝罪しているが、この経緯を見る限り、大事にしないために、高専教員Aに謝罪をさせ、アカデミックハラスメントの申し立てを引っ込めさせたと私は考えている。
第三者委員会は、このアカハラの件と自死と結びついた会計監査の件は別問題として考えているというが、私は人情としてこの件の意趣返しとして、高専教員Aが会計監査を仕掛けたのだと考えてしまう。
また、そもそも一般的にいうところの文化祭である「くぬぎだ祭」は、新型コロナ感染症の対策が出来ないとして中止になっている。当然といえば当然の結果だし、大人が責任を取るということを考え、そのリスクとメリットを天秤にかければ容易に判断できる事であろう。
さて、会計監査についてであるが、そもそもで東京高専の学生会の会計は杜撰極まるものであった。調査報告書においても、使途不明金が多く、管理されているとは言えない状態であったとされている。
学校が学生会に現金を直接渡すなどのそもそもの構造的な問題もあるが、調査報告書によれば、2016年度で475万円、2017年度はおよそ373万円、2017年度は660万円、2019年度に至っては1097万円と、学生が管理する金額としては桁外れに多い。
これを、しっかりと管理運営する新制度を設けたのが、陽向さんであった。しかし、これだけの会計をほぼ一人で行うことになったことで、高専教員たちはいつか音を上げるだろうと高みの見物をしていたのだ。
陽向さんら学生会が取り組んだ新会計制度は、これまで杜撰だった部分を学生会が一手に管理し、受発注をする仕組みであった。ただし購入の際、よくあるポイントがついてしまう。
問題となったのは、このポイントの運用であるが、実は、このポイント利用について関わる高専教員は、学生会のために使うのは良いと許可を出しており、学生会活動ための備品購入等に使われていたようだ。
しかし、高専教員Aは、これは不正会計だと決めつけて、監査役の学生に調査を命じた。監査役の学生は「囚人と看守のジレンマ」のような感覚に陥り、極めて高圧的な取り調べを、テストなどの期間への一切の配慮もなく実行したのだ。
調査報告書を一部引用しよう
高専教員Aによる、学生会費の不適切な利用があるとの独断的判断は、学生である監査委員を手持ちの駒のように動かすこととなった。これはまさに、野村陽向が自身の存在をかけていたといえる学生会活動の、その組織内部の監査機能を利用して、学生が学生を裁くという野村陽向の自尊心を根本から覆す苛酷な方法を取ったものであった。
なお、東京高専で行われた学生へのヒアリング調査で、監査委員の学生が、高専教員Aからの指示による仕事であるとしつつ、野村陽向を追い詰める自覚があったことが、確認されている。
つまり高専教員Aは、陽向さんを追い詰めるために、もともと許可されていた会計運用を一方的に問題視して、恰も不正をしたように仕立て上げたのだ。
それだけではない。
高専教員Aは、学生会の他のメンバーに、退学、停学等の処分の説明をしたり、奨学金が受け取れなくなることや入寮審査が通らないこと、就職の際に企業への推薦に影響が出るなどを説明し、暗に処分をする可能性が高いように脅迫していたのだ。
こうして陽向さんは自死という選択をしてしまったのだ。
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