MAG2 NEWS MENU

「潰してやる」。東京高専パワハラ自死事件の報告書で触れられなかった加害教員の暴言

多くの級友たちや後輩から慕われ、世に出ていたならば社会に貢献する働きをしていたことに疑いのない若者が自ら命を絶った、東京高専パワハラ自死事件。発生から5年を経た今年10月5日に第三者委員会が発表した報告書は、学校側の対応に問題があったことを認めるものでした。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、被害者家族による手記の全文を掲載するとともに、報告書を引きつつ事件の経緯を紹介。その上で、第三者委員会の調査内容と高専機構の姿勢を検証しつつ、再発防止に向け教育機関が果たすべき責任を問うています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:東京高専パワハラ自死事件記者会見

【関連】いじめ探偵がパワハラ教員を告発。東京高専の生徒を自殺に追い込んだ悪魔の所業
【関連】真相解明の意思はあるか?東京高専の学生自死事件で発覚した第三者委の不誠実
【関連】東京高専パワハラ自死事件で、元官僚エリート理事が遺族に「トンデモ発言」をメール送付の異常事態

東京高専パワハラ自死事件記者会見

令和2年10月5日、東京高専の学生が自宅で自死した。高専教員からのパワハラが問題になっていた。第三者委員会が設置され、調査は終了していた。令和7年10月5日にやっと高専機構など学校側と第三者委員会、ご遺族の記者会見が行われた。

今回、ご遺族の野村さんに手記を預かっている。まずは、冒頭に、この手記を掲載することにした。

野村さんによる手記

阿部泰尚さんをはじめ、多くの方々とのご縁があり、第三者委員会の報告書公表の記者会見を開催されることになりました。

ありがとうございます。

都議会議員の上田令子さんには、記者会見のプレスリリースを報道の方々にお知らせいただきました。

当日は、第三者委員会の説明を別室でモニター視聴するように言われていましたが、東京高専の関係者に働きかけていただき、会場に入ることができました。

ありがとうございます。

第三者委員会の報告書、遺書を読み返すと、息子は、学生会で何とかしたかった思いを持って、学生会長を務めていたのがよく分かりました。しかし、コロナ禍があり、学生会活動で、つらいときに側に誰もいなかった。夜中に、会計監査の対応、学生会メンバーからの連絡を受ける中、いろいろ思いを巡らせ、自らの命を賭けて、何かを守ろうと決断をした。

今考えると、本人も、最期は、まともな選択ではなかったと思っていると思います。しかし、そこまで学生を追い込んでいった、あのときの東京高専の対応は異常でした。

前年の2019年、2016年にも自死学生がいました。2019年に亡くなった学生については、冬休みに入る前日に校内で飛び降りたそうです。

当時のことを覚えていた、息子の同級生の学生によると、過労死で亡くなったのではと話す人もいたそうです。教員が学生に対して関心が薄く、学生主事補の言動に問題があったことに対しては、学生主事は学園祭の実施可否について、トラブルを起こした学生主事補に対して、学生会長と距離を取りなさい、言葉遣いに気をつけなさいと伝えたに止まっている。教員同士でも踏み込まず、距離を置いた関係で、関心が薄い状況でした。高専、高専機構が生まれ変わるきっかけになるために、息子は自らの命を絶った訳でない。

息子は夢を抱き、沢山の友人、家族と人生を送るために、生まれてきたはずです。無念でなりません。遺書には、最大限の配慮をして、自分が追い込まれていたことは、誰も悪くないと書いていました。呪ったりしないからと。遺書にはまた、しっかりとお世話になった方々へのお礼を綴り、学生会のメンバーから後輩たちを守るように要望があり、学生会長としての役割をどういう形で果たすのか、思い悩んでいた様子が浮かんできます。

息子が弱かったから亡くなったのだという方もいます。

何もかも、放り出してしまえば、良かったんじゃないかと。当時の東京高専は、息子の責任感を逆手にとって、教員が学生を使って、息子を追い込んでいました。実際、学校という閉鎖的な環境では、まともな大人がどこにいるのか、それは誰なのか、見つけられないかもしれません。息子が亡くなった後、東京高専の女子学生が弔問に来てくれた際、自分の周りに負荷がかかり、きつい思いをしている学生がいます、と話をしてくれました。

野村先輩のようになってしまうのではないかと心配している、何と言葉をかけてあげたら良いかとの相談を受けました。高専がSOSが受け取れるような体制にすべく努力していると記者会見でも伺いましたが、学生と教員の間に、信頼関係はあるのでしょうか。他の高専へ解決に向けた展開をしているのでしょうか。

記者会見後、全国の高専では、息子の自死について学生に説明し、学生を守っていく覚悟を表明した高専を、東京高専以外に知りません。全国の高専では、自死、自死未遂、失踪が増加しています。

高専機構は、高専を統括する組織として、高専生の自死にしっかりと向き合ってきたのだろうか。

遺族に対する不適切な対応をしながら、各高専でのハラスメント、いじめ事案の被害者に寄り添った対応が現状、出来ているのだろうか。 記者会見が終わったら、もう終わりだと思っていませんか。そう思うのなら、もうこの話は終わりだと、思わせて欲しい。

以上

東京高専学生会長指導死遺族
野村正行

2025年10月5日日曜日、私は国立東京高等専門学校(東京高専)の記者会見に、ご遺族と同行しその行方を見守った。当日は、亡くなった野村陽向(のむら・ひなた)さんの命日でもある。

まず事件を簡単に振り返ってみると、以下の通りとなる。

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

登録して活動を応援する

調査報告書からの事件の経緯

陽向さんは、東京高専に入学し、1年生で推薦される形で学生会の会長に立候補し当選している。2年生で学生会会長として活動(1年次)になった。そして、事件のあった令和2年の2年次も学生会の会長に選出されている。つまり2年連続の会長である。

陽向さんを知る人に話を聞けば、真面目で正義感があり、信頼されている、さわやかで親しみのある対応をしてくれる学生という。

さて、この事件の背景には、社会環境の変化があったことが強く影響していると言える。令和2年と言えば、新型コロナウイルスの猛威が始まったばかりの事だ。

内閣総理大臣による全国小中学校、高等学校などに休校要請があり、4月には緊急事態宣言が発出された。

学生会の会長であった陽向さんは、コロナ禍での文化祭開催について、感染対策が極めて困難であるなどを理由に、文化祭の開催を見送る決定を学生会(文化祭については親交委員会)でまとめた。

これに反対したのが高専教員Aである。高専教員Aは、学生会の「暴走」「独断」などと揶揄し、脅しともとれる内容を学生会役員へLINEを通じて送信していた。

どんだけ文化祭がやりたいんだよ…とも思えるが、事実である。

あまりの酷さから、陽向さんは校長宛に「ハラスメントの申入書」を作成し、提出している。後日、高専教員Aは、陽向さんに謝罪しているが、この経緯を見る限り、大事にしないために、高専教員Aに謝罪をさせ、アカデミックハラスメントの申し立てを引っ込めさせたと私は考えている。

第三者委員会は、このアカハラの件と自死と結びついた会計監査の件は別問題として考えているというが、私は人情としてこの件の意趣返しとして、高専教員Aが会計監査を仕掛けたのだと考えてしまう。

また、そもそも一般的にいうところの文化祭である「くぬぎだ祭」は、新型コロナ感染症の対策が出来ないとして中止になっている。当然といえば当然の結果だし、大人が責任を取るということを考え、そのリスクとメリットを天秤にかければ容易に判断できる事であろう。

さて、会計監査についてであるが、そもそもで東京高専の学生会の会計は杜撰極まるものであった。調査報告書においても、使途不明金が多く、管理されているとは言えない状態であったとされている。

学校が学生会に現金を直接渡すなどのそもそもの構造的な問題もあるが、調査報告書によれば、2016年度で475万円、2017年度はおよそ373万円、2017年度は660万円、2019年度に至っては1097万円と、学生が管理する金額としては桁外れに多い。

これを、しっかりと管理運営する新制度を設けたのが、陽向さんであった。しかし、これだけの会計をほぼ一人で行うことになったことで、高専教員たちはいつか音を上げるだろうと高みの見物をしていたのだ。

陽向さんら学生会が取り組んだ新会計制度は、これまで杜撰だった部分を学生会が一手に管理し、受発注をする仕組みであった。ただし購入の際、よくあるポイントがついてしまう。

問題となったのは、このポイントの運用であるが、実は、このポイント利用について関わる高専教員は、学生会のために使うのは良いと許可を出しており、学生会活動ための備品購入等に使われていたようだ。

しかし、高専教員Aは、これは不正会計だと決めつけて、監査役の学生に調査を命じた。監査役の学生は「囚人と看守のジレンマ」のような感覚に陥り、極めて高圧的な取り調べを、テストなどの期間への一切の配慮もなく実行したのだ。

調査報告書を一部引用しよう

高専教員Aによる、学生会費の不適切な利用があるとの独断的判断は、学生である監査委員を手持ちの駒のように動かすこととなった。これはまさに、野村陽向が自身の存在をかけていたといえる学生会活動の、その組織内部の監査機能を利用して、学生が学生を裁くという野村陽向の自尊心を根本から覆す苛酷な方法を取ったものであった。

なお、東京高専で行われた学生へのヒアリング調査で、監査委員の学生が、高専教員Aからの指示による仕事であるとしつつ、野村陽向を追い詰める自覚があったことが、確認されている。

つまり高専教員Aは、陽向さんを追い詰めるために、もともと許可されていた会計運用を一方的に問題視して、恰も不正をしたように仕立て上げたのだ。

それだけではない。

高専教員Aは、学生会の他のメンバーに、退学、停学等の処分の説明をしたり、奨学金が受け取れなくなることや入寮審査が通らないこと、就職の際に企業への推薦に影響が出るなどを説明し、暗に処分をする可能性が高いように脅迫していたのだ。

こうして陽向さんは自死という選択をしてしまったのだ。

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

登録して活動を応援する

記者会見では

さて記者会見で、私はご遺族である陽向さんのお父さんの隣にずっといた。

第三者委員会の説明も、高専機構や東京高専の説明も隣で聞いていた。

そしてご遺族の記者会見でもお父さんの隣に座って記者さん達の質問などに補足回答をしたりしていた。

率直に私が感じたことは、今回の第三者委員会のメンバーは業界内で誰もが疑いもなくトップランナーだと言われる専門家で固められていた。ベストメンバーとも言える。

しかし、その中で一人は調査途中で、利害関係人であると言い辞めている。実際に調査対象との関係者であったのだが、学生からの聞き取りなど最も重要なところが全て終わってからの辞任となった。これ自体は、関係者に有利となる情報が流れた恐れもあり、第三者委員会の設置者の問題になろう、極めて残念なことがあった。

また、高専教員Aは学生らに「野村陽向を潰してやる」「学校にいれなくしてやる」と話していたというかなり確度の高い情報があったが、これについては触れられなかった。ハラスメントの申し立てをされた高専教員Aが内心、陽向さんらを逆恨みしているのでは?と考えるのは自然だろう。

それについて第三者委員会は、線引きしているというのは、やはり解せないのだ。

ただし、この調査報告書は、人の心理がどのように動いていくか、その背景や起きた出来事の事実をしっかりとらえていて勉強になった。

一方、ご遺族記者会見においては、高専機構が案内をしていたにもかかわらず、司会者が引き継がれることもなく、さっさと引き上げてしまったことや、高専関係者を含め、誰一人、会場にいなかったし、高専機構も東京高専もの職員等は、会場にだれ一人残ることもなく、一切の手伝いも使い方の説明も案内もなかった。

結局、私と記者さんでマイクを手に取り、記者さんに司会のようなことをしてもらって、記者会見を進めることになった。

こういうことはよくある事ではあるのだが、私は会場に入ってから出るまで、複数人でご遺族関係者を監視するようにしていた様子もあり、あまり良い気はしなかった。

本当に改善できているのだろうか?この対応や様子を見て率直感じた私の感想だ。

どんなに良き計画や指針やガイドラインを作っても、それを使う人がよく理解し、行動に移せなければ、何の意味もないのだ。真の意味で、改善できたという学び舎を作って欲しいものだ。

編集後記

今回は10月5日の記者会見について書きました。

陽向さんは、どの人に聞いても、報告書の中でも、やはり、すごいヤツでした。

仲間思いでしっかり者、優しく頑張り屋で、実力もある。いわゆる、できる子です。

こういう子が世に出たら、間違いなく社会に貢献する働きをしたことでしょう。

可能性の塊ですよ。

それを、潰す高専教員Aのドス黒い何かというのは、許してはならないと思います。

実は、高専教員Aは――(にわかには信じがたい「教員Aの現在」を含む全文は『伝説の探偵』2025年10月23日号に掲載されています。ご興味をお持ちの方は、この機会にぜひご登録ください。初月無料でお読みいただけます)

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

登録して活動を応援する

 

image by: Ishimochi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 阿部泰尚メルマガ「伝説の探偵」 』

【著者】 阿部泰尚 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 9日・23日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け