中国では、AI、EVに続く“次の主戦場”とされていたヒューマノイドロボット(人型ロボット)の分野ですが、わずか150万円の人型ロボットが登場したと話題になっています。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では今回、既存メーカーの数分の一の価格で販売される人型ロボットが突きつける「新たなデフレ」の正体を追っています。
もうデフレ? 「価格破壊」中国で人型ロボットがわずか150万円
中国の新興ロボット企業DAXA Robotは2025年10月13日、ヒューマノイドロボット「X7シリーズ」を正式発表した。
発売は限定100台、価格は最廉価のEDU版で6.98万元(約150万円)前後から。競合製品の数分の一にあたる“価格破壊者”として業界に衝撃を与えた。
高性能なハード/ソフトウェア、AIを搭載したヒューマノイドロボットをどのようにしてこのような価格帯を実現したのか不明点は多い。
しかし、EVの次の次世代産業ヒューマノイドロボットでもデフレ(低価格化)は確実視されていたが、DAXAの登場で本当にそうなった。
どんな人型ロボット?
X7シリーズは身長170cm、全身23~26自由度を持つフルサイズのヒューマノイド型ロボットで、教育・研究用途の「X7 EDU」と商用向けの「X7 Pro」の2モデルが存在する。
EDU版では片腕7自由度、両腕10kgの最大負荷を実現。Pro版では頭部2自由度を加え、全身26自由度構成となる。
いずれも可動範囲は地上0~2m、両腕は70cmの長さを持ち、末端にはグリッパーやデクスタスハンドなど多様なエンドエフェクタを取り付け可能。
2足歩行ではなく、移動は6DOFの全方向モーションを採用し、ベースには自律移動型ホイールが搭載されている。
また、Pro版には立体感知・交互通信を可能にする「立体感知交互システム」が搭載され、腕部と頭部に深度カメラを内蔵。
センサーと遠隔操作
ベースにはLiDARと深度カメラの複合センサーが組み込まれ、空間認識・障害物回避・対人インタラクションを実現している。
頭部にはタッチディスプレイが備えられ、音声や映像による対話操作も可能だという。
さらにVRヘッドセットや手柄操作機を使った「同構操縦」「遠隔操作」に対応し、リモートマニピュレーションも行える設計となっている。
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エンドtoエンド
X7シリーズの内部制御には、NVIDIA Jetson AGX Orin 32GBが採用可能。
AI演算と動作制御を統合した独自システム「XBrain 1.0」により、クラウド連携やエンドtoエンド制御も実現している。
DAXAによれば、このXBrainは人間の神経伝達構造を模した「類脳型知能」であり、将来的には自律的な環境理解や協働動作を可能にするという。
人間的動作を実現
デザイン面では、白を基調としたスリムな筐体に丸みのある関節構造を採用。
関節部には高負荷対応の7軸アクチュエータを備え、滑らかな人間的動作を追求している。
公式ビジュアルでは、ロボットがスーパーマーケットで商品を補充したり、図書館で本を運んだりといったシーンが描かれ、「(習近平国家主席が提唱する)次世代生産力はX7から始まる」と謳う。
設立は5ヶ月前
興味深いのは、DAXAが2025年5月設立と非常に新しい点だ。
創業メンバーは京東(JD.com)、テンセント、達闥科技(CloudMinds)など出身者を中心に、清華大学、北京大学、上海交通大学、MITなど国内外の研究者が参加している。
設立からわずか2ヶ月あまりで、X7の初期モデルと「XBrain 1.0」エンドtoエンド商用モデルを完成させ、第1回世界人形ロボット競技大会で好成績を収めたとされる。
技術開発スピードは驚異的だが、同社は既存のモジュールやプラットフォームを巧みに組み合わせ、AI制御部分に集中する“ソフトウェア主導型”の開発手法を取っていると見られる。
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戦略提携、100台を供給
さらに9月下旬には、姫械机科技集団(Maschine Robot Tech Group)との戦略提携を発表。
DAXAは同社に100台以上の人型ロボットを供給し、介護・医療・緊急対応分野で具身知能システム「BIROS」を搭載した見守り・安全監視用途の実証展開を進めるという。
ここでは、Maschine Robot Techが開発するAIシステムと、DAXAの実機が統合され、「脳(AI)+体(ロボット)」の具現化を目指す。
家庭・教育現場への普及
こうした動きは、中国の人型ロボット市場が実証段階から「商用応用」のフェーズへ入りつつあることを象徴している。
特に6万元台という価格設定は、教育機関・研究室・地方産業施設などが実機を導入しやすくする突破口となる可能性が高い。
従来は数百万元クラスだったヒューマノイドが、ついに“家庭・教育現場”レベルに降りてくる。
象徴的な転換点か?
「頑丈な体と器用な手足」を掲げるDAXAは、短期間で中国の新興人型ロボット企業群の中でも特異な存在となった。
X7が本当にそのスペックと価格を両立できるのか、また量産化や保守体制を含めた信頼性がどこまで確保されるかは未知数だが、「AI+具身化」が加速する中国において、同社の試みは一つの象徴的な転換点となりつつある。
出典: https://mp.weixin.qq.com/s/cTfyu1nyHrposTiIT5DsxA
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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