米国トランプ外交が中国に敗北のお粗末。習近平が貿易戦で使った「孫子の兵法」とは?

 

●中国は大豆輸入先を戦略的に分散

中国はトランプの一時145%という高関税の発動に対する報復として米国産大豆の輸入をストップした。昨年は、米国の大豆輸出の約半分にあたる126億ドル(約2兆円)を買ってくれた最大顧客だというのに、今年はゼロで、農家は悲鳴をあげている。ゼロは極端だが、こうなる前から中国は大豆について過度の米国依存を改善すべくブラジル産の輸出を継続的に増やし、とりわけトランプの関税戦争発動が予想されるとブラジルから買えるだけ買って在庫を積み上げて備えた。

また最近はアルゼンチンからも大量に輸入するなど、供給先の分散を戦略的に進めてきており、今回の首脳会談で輸入再開が合意されたとしても、昨年までの量を回復することは難しいだろう。

大豆産地はトランプ当選に貢献した「赤い州」と重なっており、トランプとしては中間選挙までに「ほら、中国と厳しい交渉をやって輸入再開を約束させてきたぞ」と言える状況を作りたいのだが、うまく行くかどうか。再開された時にはブラジルやアルゼンチンに対中輸出シェアを奪われている公算が大きい。

●レアアースを止められたらお手上げ

トランプ関税への対抗措置として中国はレアアースの供給をストップした。

それがどれほどの意味を持つのか、トランプは全く理解していなかったようで、レアアース供給の9割を支配し、とりわけその中の6種の希土類(ヘビー・レアアース)と希土類磁石(レアアース・マグネッツ)を完全支配している中国にそれらを止められたら他のどこにも振り変えることができない。「ドロ
ーン、自動車、航空機、風力タービン、多くのエレクトロニクスおよび軍事装備などの製造が影響を受け、いくつかの米国の工場は閉鎖を余儀なくされる。

何しろ、たった1隻の潜水艦を作るのに4トンのレアアースが必要なのだ」(NYタイムズ1日付、ニコラス・クリストフ「アメリカは中国との貿易戦争に負けた」)。

 

クリストフによれば……

▼トランプの貿易脅迫は、案に相違して彼自身が脅迫される結果となり、そのため彼は中国の機嫌を取って妥協しようとし始めた。

▼トランプは(新しい関税措置を打ち出すどころではなく)関税を元に戻した。中国へのチップ輸出のルールを緩和した。ティックトックが米国内で操業することを認めた。台湾総統の訪米を差し止め、報道によると台湾への武器売却を延期した。

▼シンクタンク「米国進歩センター」が言うとおり、「トランプ政権の中国へのアプローチは戦略的な急降下状態に陥った」のである。

▼偉大なる軍事戦略家である孫子は2600年前に兵法書にこう書いた。「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」と。これこそが習近平が今考えていることだろう。すなわち、レアアースという新しい貿易支配力を用いれば、ミサイルを1発も打つことなく西太平洋により多くの軍事力を展開できるし、トランプに台湾支援を削減し南シナ海でのパトロールを減少させるよう促すこともできると。……

こうして今回のトランプの第2期で初めてのアジア訪問は、他のことはともかく中国との交渉に関する限り、手酷い敗北に終わった。教訓ははっきりしていて、関税だけで世界を動かそうという着想は、貿易というものを「量」だけで見て「質」の面を見ていなかったという点で、余りに間抜けだったということである。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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