中国の自動運転では、『駐車し、支払いを済ませるまでドライバーが一切動かない』状況を作り上げようとしています。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では今回、駐車場が自ら車と会話しようとしている中国の自動運転の最新状況について紹介しています。
駐車場のチケット・清算も不要な中国の自動運転の最新状況とは
自動運転において、駐車場はどの国にとってもネックだ。
日本の場合、紙のチケットを受け取り、出庫の際には精算機に向かってウインドウを開けるか、一旦車外に出て自ら料金を支払う必要がある。
自動運転なんだからここもシームレスに完結したい、チケットの受け取り、清算も、降車も不要という要望はもっとも。
しかし中国の場合、AI技術を通じてこれがかなりシームレスになっている。おそらく日本人が想定する真の「自動運転」に近づいているのが今の中国だ。
中国の駐車場は急速にスマート化が進んでいる一方、格差も激しい。
そんなケースバイケースでもAIにより、できるだけ人間が行う作業を代行しようとする中国の取り組みを、理想(Lixiang)の最新技術から見てみる。
中国の駐車場状況
中国の都市では、駐車場の智能化レベルをG0~G2の等級で分類している。
G0は従来型の人工精算、G1はQRコードや地磁センサーを使った半自動、そしてG2がカメラによるナンバープレート認識とクラウド決済を備えた完全自動型である。
2025年現在の推計では、全国でG0が35~40%、G1が45~50%、G2が10~15%程度。
上海・深セン・杭州など大都市圏ではG2比率が25%を超え、ほぼ全ての路上駐車スペースが高位カメラとアリペイ等によるクラウド課金に対応している。
もはやチケットも係員も不要で、車の入出庫と同時に自動で課金処理が行われる。
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降車不要、音声で完結
このインフラ変化の上に立ち、Liは自社のAIエージェント「理想同学(理想くん)」とアリペイ決済を深く融合、駐車から支払いまでを一切人の操作なしで完結できる仕組みを実現している。
Liの車は目的地に到着すると周囲の環境を自動スキャンし、駐車場のQRコードやナンバープレート認識システムを検知。
駐車場がアリペイ決済対応であれば、AIがユーザーの代わりに決済APIを呼び出し、音声報告だけで支払いを済ませる。
仕組みとしては、ナンバープレート認識で入退場時間を算出、QRコードで読み込んだ先で、ナンバープレートの入力が求められ、それを入力すると、駐車料金が確定する。
Liの最新モデルではQRコードのスキャンやナンバー入力までAIが代行するため、ドライバーは画面操作すら不要だ。
P2Pの改良型
いわゆるパーキングスペースtoパーキングスペース(P2P)のさらなる改良型だ。
自宅駐車場を出発し、目的地の有料パーキングに到着、用事を終えた後再び自宅駐車場へ帰るまで、ユーザーは一度も降車する必要がない。
途中での高速料金・駐車料金・充電料金などはすべて理想くんアリペイ決済と連携して自動処理し、理想くんが音声で進行状況を報告する(充電は今も原則降車が必要で、自動化は構想段階)。
Liは新旧混在する混とんとした中国の都市インフラにおいても、AIが可能な限り対応できるシームレスな仕組みを創出、「降りない自動運転」を現実にしているといえる。
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インフラ欠陥を車が補う
もちろん、この仕組みが完全に機能するのはG2級スマート駐車場が整備された大都市が中心で、地方都市ではまだ半自動(G1)や人工(G0)が多数を占める。
しかしLiのAIは、半自動環境でもカメラでQRコードを読み取り、アリペイ決済が連携しているところでは、自動決済を行うなど、人の手を極力排除する工夫を重ねている。
都市インフラが整っていなくても、車側がそれを補う――この発想がLiの最大の特徴だ。
AI能力と決済の標準化
日本では駐車場運営が多数の民間企業に分散し、共通APIや決済プラットフォームが存在しない。
結果として、どのメーカーの車であっても「最後の支払い」は依然として手作業だ。
中国のように都市・通信・決済が一体化している環境が整えば、ようやく車が都市と対話しながら自律的に移動できる。
その意味で、LiのP2P構想は単なる便利機能ではなく、AIを最大限利活用して、規格化されていない都市そのもの、どのようなケースでも極力AIに処理させ、結果的に自動運転における完全シームレス化を図る、という試みでもある。
都市インフラが画一的に整備、アップグレードする可能性が小さい中国において、極めて妥当な現実解でもある。
運転能力ではなく降車不要化
今のところLi以外、ここまで徹底したシームレス化を実現している中国勢はない。
基本音声だけですべて完結するようなUI思想を一貫して保持、車内外センシング、理想くんとアリペイ決済との深い融合がこれらを実現させている。
今や自動運転の競争軸は、ハンドル操作の巧拙ではなく、人間が降りずに生活を完結できるかどうか。その未来を最も具体的に形にしているのが、Liだ。
出典: https://www.lixiang.com/news/136.html
※CHINA CASE(https://www.chinacase.xyz/)は株式会社NMSの商標です。
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