10月27日に参政党が参院に提出した「日本国国章損壊罪」、いわゆる「国旗損壊罪」。国を二分するほどの大きな議論を呼んでいるこの法案を、識者はどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、「この種の法律は自制していただきたい」としてその理由を詳述。さらに地政学的な視点から、日本が今まさに守るべき「価値」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:国旗損壊罪の功罪を考える
それで国は救えるのか。「国旗損壊罪」の功罪を考える
報道によれば自民党が「国旗損壊罪」を検討しているとそうです。この件については、参政党が非常に熱心であり、高市政権としては、彼らの主張が注目されるより先手を打って行こうというのには行動として合理性はあります。
ただ、個人的にはできるだけこの種の法律は自制していただきたいとも思います。理由は複数あります。
まず、外国の国旗損壊を罪にするのはそれほど異常なこととは思いません。
国旗の焼却行為というのは、その国旗を持つ国家と国民に対する侮辱であり重大な紛争に発展する可能性があります。そうした国際社会の秩序撹乱行為を抑止する目的であれば、損壊を禁ずるというのは一理あるからです。
ですから、日本の場合も、外国国旗の損壊については「外国国章損壊罪」という刑法の規定で禁止されています。
同様の行為を自国国旗に関して禁止する趣旨であれば、決して不自然ではないとも言えます。ですが、自国国旗の損壊に関しては違うという考え方もあります。
例えばトランプ時代より前のアメリカでは、明確になっていたのですが、自国の行動を強く批判する際に、アメリカ人が自国の国旗を焼くということは最高の抗議の表現として存在していました。
つまり、自由と民主主義を掲げて、これを擁護するということは、国内においても究極の自由を実現していかねばならないのであり、自国国旗の損壊を批判はしても、罪には問わないことでその究極の自由を表現するという考え方です。
この問題は、地政学上非常に難しい位置に立つ、現在の日本にも当てはまるように思うのです。
周囲を権威主義的な国家、いや社会主義を絶対君主制に転換したような超権威主義の国も囲まれている日本は、やはり究極の自由を守ることで、国体=国のかたちを鮮明にし、西側同盟のメンバーとして国際的な支援を受ける存在です。
その中で、自国国旗損壊を罪に問わないという究極の自由を体現していることは、かなり大きな意味を持つように思います。トランプ政権が、そしてもしかしたら民主党左派が「世界の警察官としての行動を100%止める」と言い出しかねない中、仮に自主防衛を行う場合も同じです。
先の大戦では、愛国心を強制する東条政権の戦争指導は敗北したわけで、これを貴重な教訓とするということもあります。
自国国旗の尊重を強制する国のために戦うのか、自国国旗の損壊すら罪に問わない自由を死守するために戦うのか、どちらが究極のモラルを維持できるのか、国際社会の支援を得られるのか、やはりリアリズムで考えるべきと思います。
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十分にあり得る「論議にポピュリズムが侵入する」という要素
勿論、この論議にはポピュリズムが侵入する要素は十分にあり、誰も信じられず、何にも属さない中で、孤立した個人が依拠するものは国家だけになる、そんな中での次のような主張として出てきそうです。
国旗損壊の自由を認める、そこまで自分が国家より偉いという種類の人からは、国家だけが帰属や依拠の対象になっている自分たちは虫けらにみえるのだろうな、的な批判はあり得ます。
そこで問われるのが、リベラルが困窮者、雇用に苦しむ世代や個人に寄り添っているかどうかです。
国旗損壊を罪に問わない自由という概念が、高学歴者、富裕層の特権であるだけでなく、それに反対する困窮層を叩くという構図になってしまっては、その延長には、何の自由も描けない社会が待っているだけです。
この部分を乗り越えながら、やはり究極の自由を守るという議論をしていかねばならないと思っています。
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