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小林よしのり氏が高市「台湾有事は日本の存立危機」発言を猛批判。若者を戦地に送る“タコ首相”に追従の大マスコミとそれを望んだネトウヨの大罪

安倍晋三氏や麻生太郎氏ですら首相在任時には明確にしなかった、台湾有事が「存立危機事態」に当たるか否かという見解。そんな歴代内閣の姿勢をいとも簡単に覆した高市早苗首相の、「台湾有事は日本の存立危機事態になりうる」との国会答弁が波紋を広げています。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では漫画家の小林よしのりさんが、この発言をめぐる経緯を分析するとともに、一部を除くメディアや世論の沈黙を鋭く批判。さらにかような答弁が「女性首相ゆえに許されてしまう日本社会の構造」の危うさを指摘しつつ、政治家に求められる「覚悟と態度」の本質を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ゴーマニズム宣言・第584回「女だって戦争を起こす」

「台湾有事は日本の存立危機事態になりうる」発言の危うさ。女だって戦争を起こす

高内閣支持率「82%」という、本当かどうか疑いたくなるような数字も出た高市早苗首相。気が大きくなったのか、国会で勇ましい発言をしたものの、たちまちつまずいたような形になっている。

このままズルズルとヘタレていくのか、それともヘンに意地を張って頑なになっていくのか。どちらにしても、ロクなことにはなりそうにない。

高市は7日の衆院予算委員会で、台湾有事は日本の「存立危機事態」になりうると答弁。これが問題視され、10日に行われた同委員会では早速「軌道修正」を余儀なくされた。

台湾有事が日本の「存立危機事態」というのは、もし中国軍が台湾に侵攻したら、たとえ日本が直接攻撃されていなくても日本の存立が脅かされる事態であると見なし、自衛隊が集団的自衛権を行使できることを意味する。端的にいえば、中国が台湾を侵略したら、日本が中国と戦争をするということだ。

歴代の首相は台湾有事が「存立危機事態」に当たるかどうかの見解を明確にすることを避けてきた。安倍晋三や麻生太郎も、首相退任後には台湾有事が日本の存立危機事態になると発言したが、現職時には決して言わなかった。

それじゃあ国会議員個人の意見に何の意味があるのかという気もするが、現職首相による国会答弁は政府の公式見解として極めて重い意味を持つから、言えなくなってしまうのだ。

高市も以前から「台湾有事は存立危機事態」を持論としており、自民党総裁選の立候補会見でも「台湾有事は日本有事。間違いない」と断言していたものの、首相になったら言わないだろうと誰もが思っていた。何しろ靖国参拝も直ちにやめたくらいだから、それはなおのことだった。

7日の質疑で質問に立った立憲民主党の岡田克也も、「首相になったら、もう言わない」という実態を晒そうとする意図があったのは明らかで、高市の就任前の発言を引き合いに出したうえで「台湾有事の際、どういう場合に集団的自衛権を行使できる『存立危機事態』にあたるのか」と質した。

これに対して高市は、その手に乗るかと意地になったのか、あるいはこれ以上「やっぱり首相になったら豹変か」と言われたくなかったのかはわからないが、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と明確に答えたのだった。

この答弁は事前に事務方が用意したものではなかった。政府内の議論も合意もないまま、その場で高市が独断で言ったのだ。

質問した岡田もこの答弁は想定外だったようで、やや驚いた表情を見せつつ「あんまり軽々に『武力行使』と言うべきではない」と返し、議論はヒートアップした。

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今なお大変に利用価値がある「女性」という属性

政府内でもこの答弁には当惑したらしく、同日、小泉進次郎防衛相は記者団に対して「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは政府がすべての情報を総合して判断する。総理の発言は、その趣旨を述べたもので、従来の政府の立場を変えるものではない」と強調して「火消し」に動いた。

高市の発言は翌日の朝日新聞・読売新聞の1面トップ記事になり、立憲民主党の野田佳彦代表は週明けの国会で取り上げると発言した。

そして10日の衆院予算委では立民の大串博志議員が7日の「台湾有事は存立危機事態になりうる」との答弁について質した。

これに対して高市は、「政府の従来の見解に沿ったものなので、特に撤回、取り消しをするつもりはない。今後、反省点としては、特定のケースを想定したことについて、この場で明言することは慎もうと思っている。今後は慎む」と答弁した。

要するに進次郎が言ったよくわからない弁解を繰り返したわけだが、いくら7日の答弁は「従来の政府見解通り」だと強弁したところで、「台湾有事は存立危機事態になりうる」というのは従来の政府見解にはなかったことであり、高市がそれを現職総理大臣として国会で初めて言ったという事実には、何の変わりもないのである。

しかも10日の質疑では、再三にわたって「台湾有事は存立危機事態」発言の撤回・取り消しを求められたにもかかわらず、高市は頑としてこれを拒んだ。

いくら「今後は」特定のケースを明言することは慎むと「反省」したところで、一度は国会で明言して、しかもそれを撤回しないのである。つまり、台湾有事は日本の存立危機事態になりうるし、その際には集団的自衛権が発生して、中国と戦争をしなければいけないという国会答弁が、そのまま政府の公式見解として残っているのだ。

国が戦争をするかどうかの重大な判断に関わることが、こんな曖昧な状態にされていていいわけはなく、大串議員は「政府統一見解」を示すよう求めたが、高市はそれも拒み、この件は衆院予算委として理事会で協議されることになった。

高市が発言を撤回せず、政府統一見解も示さないということは、高市の独断で日本は中国と戦争をすることもありうる、という話にもなってしまう。

中国の大阪総領事が高市の発言に関してXに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と投稿して炎上した。これはあまりにも品のない文句だが、中国側からすれば、何の覚悟もないくせに「勝手に首を突っ込んできた」としか見えないのも確かだろう。

台湾有事になれば、日本は戦争をする。中国と戦争になって戦死者がゼロで済むわけがなく、確実に自衛隊に戦死傷者が出ることになる。

今までだったら、「戦争に巻き込まれるな!」だの「戦争反対!」だのという声が沸き起こって、もっと大問題になったはずである。

ところが、なぜか今回は異様に静かである。新聞が1面トップで扱い、国会で追及はされたが、テレビもあまり扱わないし、ネットでは全然騒がず、ほとんど問題にもなっていない。話題になるのは物価高だのガソリン税だののことばかり。あまりにも異常な状態である。

なぜそんなことになるのか?

それはやはり、高市早苗が女だからだろう。

あんなことを男の首相が言ったら、間違いなく大騒動になる。ところが女の首相だったら平然と流してしまい、マスコミも世論も沈黙してしまう。

結局は、女は優しいはずだとか、女は危険なことを言うはずがないとか思い込んでいるからなのだ。

女性という「属性」で差別するなとか言ったって何の意味もない。実際に男だったら絶対に許されないような発言でも、みんな女という「属性」にやられてスルーしちゃっているではないか。

女っていう属性は、今なお大変に利用価値があるものなのだ。

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自衛官に「死んでくれ」と言う資格が高市首相にあるか

台湾有事を日本の存立危機事態と見なすということ自体には、わしは反対とは言わない。わしは『台湾論』を描いた人間なのだから、台湾は守りたいと思っている。

鳩山由紀夫みたいに「あくまで台湾は中国の内政問題であり、日本が関わってはならない」なんていうのは論外である。

台湾を中国が侵略しても、日本が武力行使もせずに黙って見ておくなんてことは、決してしてはならないというのがわしの本音だ。

※ 新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論

だがそれは自衛隊員に向かって、中国と戦って死んでくれと言っていることに等しい。だからその主張は、神妙な気持ちで言うしかない。

高市早苗は内閣総理大臣であり、自衛隊最高指揮官である。自衛隊員に向かって直接、台湾有事は日本の存立危機事態だから、死を賭して戦えと命令する立場である。

ところがその最高指揮官が米兵の前で舞い上がって、ジュリアナのお立ち台ギャルみたいにぴょんぴょん飛び跳ねたのだ。あれを見てどこの自衛隊員が、こいつの命令に従って死ねると思えるだろうか?

わしは『台湾論』の取材で、中国大陸から最も近いところで2.1kmしか離れていない台湾の最前線基地・金門島に行き、軍の水中特殊部隊(フロッグ・メン)の訓練を見学したことがある。

案内されるままに行ってみたら、一段高い来賓席が用意されていて、その前に灼熱の太陽の下、屈強な男たちが整列して待っていた。

フロッグ・メンの使命は海の中に潜って、敵の船底に爆弾を仕掛けたり、機雷の処理をしたりというとんでもなく過酷なものだ。その訓練となれば死ぬ訓練をしているようなものにも見えて、そんなものすごい光景を、一段高い来賓席に座って見下ろしていていいのかと、それだけでもわしはすごく緊張した。

しかもわしの隣には、同行していた秘書の金森と、ガイドの謝雅梅さんという、二人の女性が座っていた。

わしは、男が命懸けの訓練をしているところに女なんか連れてきたということが恥ずかしいと思った。これは男尊女卑の感覚である。しかし、実際に生死の懸かっている現場にチャラチャラした奴がいたりしたら、それは忸怩たる思いに駆られてしまうのは仕方のないことだ。そこではやはり神妙にならざるを得ないのだ。

※ 『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論』(小学館)より

兵士に国のために死んでくれと言うのなら、厳粛な態度を取らなければならない。

人の「態度」や「振る舞い」なんてものは、見る人の感性によってどうとでもとれるとか言う人もいるが、そんなことはない。やはり態度は重要なのだ。米兵の前でぴょんぴょん跳びはねて喜んでた奴に、自衛隊の前で「死んでくれ」と言う資格なんかあるわけがないのである。

保守は「態度」であるというのは全くその通りで、真正保守ならば、やっぱり態度が大事である。人の本性は態度に表れるものなのだ。

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「気づいたら対中戦争が始まっていた」という最悪の事態も

今年5月、世界の金融界ではトランプ米大統領を揶揄する「TACO(タコ)」というワードが流行したという。「Trump Always Chickens Out」の頭文字を取った造語で、「トランプは強いことを言うけれど、いつも最後はチキンになって取り消す」という意味だそうだ。

そしてこれと同じく、高市も「Takaichi Always Chickens Out」=TACOになるのではないかという声も出ている。

実際に高市は靖国参拝も取りやめたし、首相就任前に持論としていた「食料品消費税ゼロ」も慎重姿勢に転じたし、積極財政策で赤字国債の発行も辞さずと言っていたはずなのに、赤字国債の話題を一切出さなくなったし、維新と連立する際の約束だった議員定数削減は法案提出すら難しい。「トランプをノーベル平和賞に推薦する」という話も明言しなくなった。

そして何よりも、あれだけ批判していた村山談話について、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、これからも引き継いでいく」と表明してしまった。確かに「タコ首相」への道、一直線である。

そこで高市が「タコ首相」と言われたくないからと、歴代の首相が決して言わなかった「台湾有事は日本の存立危機事態」を勇ましく明言してしまい、それを撤回もしないのだとしたら、これも大問題である。

国民的な議論が巻き起こった末に、やると決めるのであればいい。ところが政府内での議論も行われず、国民の間でも女が言ったことだからと議論がスルーされて、それで気がついたら中国との戦争が始まっていたなんてことになったら最悪である。

わしはもう年寄りだから戦場で死ぬことはないだろうが、やっぱり若者は死ぬことになる。その覚悟はあるのだろうか!?

こんなことは昔だったらサヨクが言っていたはずで、ものすごくヒステリックに騒ぎ立てて、国会前でデモくらいやってもおかしくないはずなのに、どういうわけだかあまりにも静かである。

いよいよ日本が戦争をやるかどうかという瀬戸際の話をしているのに、それを言っているのが女性の首相であれば、反戦サヨクも騒がない。本当に不思議な事態である。

 

首相に「女」の属性は関係ないなどというのは全くの欺瞞であって、実際には大いに関係がある。

女の首相だったら、簡単に戦争も起こせる。

女性だったら平和を願っているなんてことはありえない。ただ自分を勇ましく見せたいというだけのことで、厳粛な気持ちひとつないまま、若者を戦地に送って死なせることだってできるのだ。

それをネトウヨは望んだ。マスコミはそれに追従した。決して忘れてはならない。

 (『小林よしのりライジング』2025年11月11日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)

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image by: 首相官邸

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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