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捏造、冤罪、虚偽の流布。東京地検特捜部に翻弄された4人が明かす、日本最大のタブー「官報複合体=検察&巨大マスコミ」の悪辣な実態

「官報複合体」。それは、政治・司法・メディアが一体となって恐ろしいほど強大な権力構造を持つ、日本でも数少ない“アンタッチャブル”な存在です。ジャーナリストの上杉隆さんは、その「官報複合体(検察&マスコミ)」の一部である東京地検特捜部について、弁護士の弘中惇一郎氏・元特捜部副部長の若狭勝氏・元ライブドア社長の堀江貴文氏らと語り合った動画収録の裏話を、自身のメルマガ『上杉隆の「ニッポンの問題点」』の中で綴っています。

人生の巡り合わせと官報複合体~東京地検特捜部というキーワードが結ぶ3人との奇縁(前編)

東京地検特捜部に翻弄された四人の邂逅

人生とは不思議なものだ。第21回『NoBorder』の収録を終えて、私はしみじみとそう感じていた。弘中惇一郎弁護士、若狭勝元特捜部副部長、堀江貴文氏。この三人と私が同じスタジオで、東京地検特捜部というテレビでは扱えない日本最大級のタブーのひとつについて語り合う日が来ようとは夢にも思わなかった。

弘中弁護士とは西松建設事件(小沢一郎事件)で、東京地検特捜部に対してはいわば「共闘」した仲だ。「共闘」とは言っても結果としてであり、弘中さんは小沢側の代理人弁護士、私は、数少ない「小沢無罪論」を打っていたジャーナリストとして、異なった立場で「特捜部」と対決したという意味においてである。

なにより、私の長らくの代理人でもある喜田村洋一弁護士(1999年週刊文春特集号での執筆以来)は、弘中氏とともに、当の小沢事件や日産カルロス・ゴーン事件の代理人(喜田村弁護士はグレッグ・ケリー)であり、もっといえば、ロス疑惑以来、ふたりの弁護士は唯一無二の盟友ともいえる存在として、また世間からは「無罪請負人」として、数々の事件を手掛けてきた伝説の弁護士たちなのである。検察取材のみならず、私のジャーナリスト人生においても特別な人物である。

元東京地検特捜部副部長の若狭氏とは、2016年の小池百合子都知事誕生以来の仲だ(上杉も出馬した都知事選)。直後の国政選挙では、希望の党の「幹部」(小池氏側近)として、政策や候補者選定など昼夜を超えて時間をともにした。当時の与党自民党からの圧力のみならず、オールドメディアからの壮絶なバッシングが吹き荒れる中、若狭さんと私は、ごく数人の小池側近だったということをいま初めて明かそう。

堀江さんとは長い付き合いだ。2005年総選挙で広島6区から出馬した彼を取材したのが最初の出会いだった。東京地検特捜部によるライブドア事件の強制捜査直後には、堀江さんの六本木ヒルズの自宅(当時)で、事件の取材者と取材対象者という関係を超えて、お互い数少ない「友人」として付き合うまでの関係になっていく。

これは初めて記すのだが、その後の収監に至る過程ではかつての私のボスである鳩山邦夫法務大臣に依頼し、堀江さんの異例の刑務所選定陳情を行った。私が長野刑務所の面会第一号(秘書を除く)だったのはそうした理由からだった。

またプライベートでは「宇宙研究会」を立ちあげたり、ゴルフ仲間として国内外を問わず遊んだものだった。堀江さんとひろゆきと三人で『満漢全席』というニコニコ動画の番組も立ちあげ、『だからテレビに嫌われる』((大和書房)という共著も出しているが、実は彼とはまったく意見が合わない。一致しているのは「異なった価値観を容認するという共通の価値観」を持っているということくらいだろう。

その押しつけのない自由な関係だからこそ、20年近くも「友」でいられるのだろう(仕事は一切していない。番組やイベントでも双方ともに「友情無償出演」と決めている)。

さて、こうして特捜部と縁の深い三人とたまたま同じスタジオで、同じ番組で共演することになったのだが、実は私自身も『週刊朝日』の連載で東京地検特捜部から出頭命令を受けた当事者のひとりでもあった。振り返れば、私たち四人にはもうひとつの共通項がある。それは日本最大のタブーである「官報複合体」という圧倒的な権力構造に直接触れ、その力を身をもって知る者たちだということだ。

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弘中惇一郎~検察権力と戦い続ける「無罪請負人」

弘中弁護士は「無罪請負人」の異名を持つ日本屈指の刑事弁護人である。村木厚子氏、カルロス・ゴーン氏、小沢一郎氏。特捜部が総力を挙げて起訴した事件において、弘中さんは何度も無罪判決を勝ち取ってきた。

番組中に弘中さんは、西松建設事件(小沢事件)の構造的問題を細かく指摘しているが、代理人弁護士だったこともあって、他の誰が語るよりも説得力があった。「小沢さんは民主党のトップだった。政権交代したら検察は大改革される状況だった」というのは同感だ。ただ、当時の小沢氏が目指していたのは、検察改革ではなく、霞が関全体の大改革だったと取材をしていたジャーナリストとしては付け加えておきたい。

小沢氏が掲げたのは官僚の人事権を内閣に移すこと(内閣人事局構想)、さらに一般会計と特別会計の統合(予算の総組み換え)、つまり、霞が関にとっては「予算と人事権」という最大の利権をふたつとも取り上げられることにほかならない大改革だった。民主党はそのようなタブーに一気に切り込もうとしたのだが、当然ながら壮大な返り血を浴びることになる。

当時、検察を中核とする官報複合体との闘いは壮絶だった。検察もメディアも一斉に小沢一郎批判を開始、のみならず秘書や民主党所属の他の議員、さらには小沢一郎に近いという理由で、記者やジャーナリストまで標的となった。のちに『暴走検察』(朝日新聞出版)を著す私もそのターゲットにされた筆頭格のひとりだった。

特捜部は、2009年3月に小沢一郎の秘書ら3人をいきなり逮捕するという形で、捜査を開始した。結局、小沢一郎氏の罪は問えずに終息していくのだが、その特捜部の失敗をメディアが救う。ほとんどすべての大手メディアは徹底的な小沢バッシングを継続し、推定無罪の原則(結局不起訴)を無視して、ついには小沢氏を代表辞任にまで追い込むのだった。

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さらに、政権交代確実となった同年8月(鳩山由紀夫代表)、特捜部は捜査を強めた。弘中氏の語った事件の本質は衝撃的だった。「不動産の登記日と資産取得日が2、3日ずれただけで2年連続の虚偽記載だとして起訴された」。これが当時の官報複合体(検察とマスコミ)のつくった「小沢一郎の政治資金規正法違反」の実態である。

「100人体制で不動産屋を洗ったが何も出てこなかった。それで政治資金規正法でやった」。弘中さんのこの言葉は、特捜部が「ターゲットを決めてその人物をあげることを目的とする」という捜査の実態を浮き彫りにした。

私が取材していた当時、小沢氏の秘書たちが次々と逮捕されていく様を目の当たりにした。

その中には、かつての秘書仲間で若き国会議員で、先月亡くなった石川知裕衆議院議員もいた。国会議員が秘書時代の「冤罪」で逮捕された例を私は彼のケース以外に知らない。そうした小沢事務所の面々を守るために弘中弁護士は奮闘していたし、私はなるべく中立の立場から、同じく西松建設から献金を受けていた自民党の二階俊博氏や森喜朗氏への取材も重ねていたが、明らかに小沢事務所がターゲットにされているのを実感したものだった。検察の捜査もそうだが、マスコミの報道の偏重ぶりは異常だった。

そんな中、当時、検察審査会に虚偽の証拠や捏造した捜査資料が提出されたことも明らかになった。小沢無罪が濃厚になった矢先、この件を追及していた私も同業であるマスコミからの総攻撃を食らうのだった。

連日「小沢の犬」「小沢から金をもらっているのだろう」とのキャンペーンを張られる。ついには、設立したばかりの公益社団法人自由報道協会のジャーナリスト仲間などからもまったくの虚偽情報が流され、最終的には「小沢批判の列に加わらなかった」として、新聞連載やテレビ番組からの降板をチラつかせられるようになったのだった(のちにすべて降板)。これこそが官報複合体の本質であろう。

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若狭勝~内部から見た特捜部の論理

若狭さんは東京地検特捜部の副部長として、ライブドア事件までの特捜部を支えた検事のひとりだった。林、佐久間、黒川、郷原と並んで司法修習生同期で、法務省では将来を嘱望された5人のエリート幹部候補ともいわれた時期もあったが、早期に退官し、国会議員などを務めて、2016年の東京都知事選では小池百合子氏の側近として自民党に反旗を翻し、候補者選考で私と昼夜を共にした仲となった。

番組で若狭さんは、特捜部の「費用対効果」について率直に語っている。「同じような証券取引法違反の事件が2つ3つあったとした場合、一番国民がよく知ってる会社や個人をやる。それが一罰百戒です」と正直に告白したのは意外であり、若干驚いた。

長らく検察を取材した者からすれば、この発言は勇気のある行為だったとわかる。特捜部は正義のために捜査するのではなく「見せしめ」のために動くことがあると元職とはいえ古巣を相手に証言したのだ。若狭さんの勇気は知っている者は知っている。若狭さん自身が認めたこの構造は、西松建設事件やライブドア事件(後述)の本質を物語っているといえよう。

とはいえ、若狭さんは特捜部自体がメディアにリークすることは「かなり厳格に制限を貫いてた」と特捜部側の意見も代弁している。

「情報を流すと逮捕しようとした人が出頭してこなくなる」からだと言いながらも、「上層部の方からマスコミに話が流れる」ことは「いつも感じていた」とも相反するコメントを述べた。古巣への配慮を伴った若狭さんの苦しい証言を、私は十分に理解できる。特捜部などからメディアに漏れるのではなく、特捜部からの内部報告で検事総長や他部局への情報共有で、法務省などから漏れることも多いのだ。それこそ官報複合体の構造を理解すれば、その組織の巧妙さを示す重要な発言であることがわかるだろう。(後編に続く)

※本稿は『NoBorder』第21回「巨悪を”作る”正義─誰も知らない東京地検特捜部とオールドメディアの複雑な関係」(2025年11月15日配信)をもとに、上杉隆が執筆したエッセーである。

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