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「票も取れるし数字も稼げる」が本音。参政党の躍進で「外国人問題」を煽る政治家と大手メディア、大半の日本人は「排外的」になどなっていない

ネット上のみならず、大手メディアまでをも巻き込んで加熱の度合いを上げ続ける「外国人問題」をめぐる言説。世界各国で広がりを見せる「排外主義」は、我が国にも定着してしまうのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、世間を賑わせる「外国人問題」の実態を詳細に検証。その上で、本質を外した議論が拡大する理由を考察するとともに、日本社会がいま本当に向き合うべき課題を提起しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:外国人問題とは何かを考える

国家の知性が崩壊寸前。「外国人問題」とは何かを考える

今年7月の参院選で参政党が集票に成功して以来、日本のメディアは「タガが外れた」かのように「外国人問題」を煽り始めました。まるで、排外主義が全国を掩っているようですが、具体的な現象としては次の2つがあるだけとも言えます。

「排外的なことを言うと集票できると思っている政治家が増えた」

「排外的なことを言うとビューが稼げると思っての、ネットへの書き込みが増えた」

この2つだけです。本当に日本人の心情や態度が排外的になったわけではないと考えていいと思います。大前提としてはそういうことなのですが、それでは、具体的な「外国人問題」について個々の事例を見ていくと、そこにも極めて曖昧な情報が曖昧なままに拡散しているケースが多くなっています。今回は、いわゆる「外国人問題」に関わる議論や情報が相当にいい加減であることを確認して行きたいと思います。

まず日本への訪日外国人(インバウンド)観光客の数が増えているという問題があります。このインバウンドですが、コロナ禍で一旦は文字通りゼロになったのですが、その後は一気に回復基調となり2024年には既にコロナ禍前のペースを上回っていました。

2024年に入って3月には、初めて単月で300万人の大台に乗せ、4月もこれに続きました。結果的に、2024年は年間で3,687万人となってこれは新記録となっています。更に、2025年になると、24年を上回るペースとなっており、9月までに3,165万人となっています。

残る10から12月については、最後の12月が中国人の来日減少の影響を受けるかもしれませんが、10月と11月が300万だとして、仮に12月が235万だとそれで4,000万の大台は超えてしまいます。恐らく超えるのではないかと思われます。

こうした状況を受けて、24年の春先頃から「オーバーツーリズム」つまり、過度の観光化による弊害への批判が高まるようになりました。まるで外国人が札ビラを切って、金の力で横暴に振る舞っているかのような報道があり、更には迷惑行為がどんどん増えているという説明も多く見かけます。ですが、その多くは実務的に解決すべきであるし、解決可能な問題です。

例えば観光バスの路駐が迷惑という批判がありますが、これは駐車場の拡大や誘導で解決すべきだと思います。多く言われているのはゴミ公害への批判ですが、化学兵器テロを恐れるあまり、世界基準からすると異常なまでにゴミ箱を減らしてきた政策を修正すべき時期が来たことだと思います。民泊等ではゴミを残していく迷惑行為が指摘されていますが、これも仕分けを含めて説明を徹底すれば防げると思います。

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「オーバーツーリズム」ではないスーツケース放置問題の本質

極めて具体的な問題としては、スーツケースの放置問題があります。これは関空などで顕著なようですが、これも奇妙な話です。まず、どうしてスーツケースを捨てていくのかというと、持参したスーツケースではキャパが足りなくなり、大きなものに買い替えたからです。なぜ、キャパが足りなくなったのかというと、お土産を買ったからです。

つまり、GDPという観点からすれば、大型スーツケース一杯のお土産代金+大型スーツケースの代金を「お買い上げ」ということになります。これは相当な額です。

ですから、スーツケースを処分したいという旅行者が登場するということは、その人数分だけでも相当な経済貢献になります。問題は、「使用済の小さなスーツケースの正しい捨て方」というのが、旅行者に伝わっていないからです。なぜ伝わっていないのかと言うと、実は「正しい捨て方」というものが、そもそも「ない」からだと考えられます。

ここからは推測ですが、スーツケースについては「放置されると持ち主を探したり、爆発物が入っていないか検査したり大迷惑」だということになっています。ならば、何らかの段取りをして「正しい捨て方」を政府の観光局なりが決めて、各国語で周知徹底すれば良いのです。

ですが、そのルールがありません。どうしてかというと、スーツケースは最低限消毒さえすれば、再利用が可能だからです。ということは「正しい捨て方」というルールを決めると、恐らくはリサイクルの仕組みを作ろうという話になります。

その場合ですが、「新品でないと気味が悪い」的なカルチャーは恐らくは日本人がマックスで、アジア人を含む海外からの旅行者は抵抗感がありませんから、「じゃあ、新品でなくリサイクル品でもいいや」となると思います。

そうなると、スーツケース業界としては、せっかく新品を爆買いしてもらって、コロナ禍時代の欠損を取り返しているのに、新品が売れなくなるということになります。

ということは、スーツケース業界の側には「正しい捨て方を決める」ということへの動機は薄く、むしろ「決めない」ことへの動機が強い可能性があります。もちろん、現状ではホテルや空港が困っているので、何らかの「正しい捨て方」を決める必要があります。

そして決めた場合は十中八九の可能性で「勿体ないので消毒してリサイクル」ということになるでしょう。そうなるのは困るので、ウヤムヤな現状をできるだけ引っ張るという動機が業界にはあると思います。

仮にそうであるのなら、問題の核心は「オーバーツーリズム」ではないということになります。

一方で、24年の春以来、大きなニュースになっていたものとして、富士山の撮影スポット問題があります。具体的には、車道の反対側から撮影すると、青いデザインの平屋のコンビニの上に富士山が乗っているように見える場所が人気化したわけです。

撮影スポットとして人気化したために、交差点内で立ち止まったり、車道を渡ったりする危険行為が横行したのです。このために、コンビニでは富士山の「目隠し」という対策に追い込まれたり、試行錯誤がされたようです。

このニュースですが、日本国内の報道では「迷惑行為の横行」と手厳しい評価がされました。また「目隠し」をしていた時期に関しては、肝心のコンビニ本社が「目隠し」措置でブランドが毀損されるとは判断していなかったように、国内世論は「目隠し」対策は仕方がないという意見が大勢のようでした。

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話の筋が通らない「クルド人はケシカラン」という言説

そうなのですが、報道ではまるでコンビニや歯医者さんのある静かな生活圏が侵されたように言われていたのですが、実際は違うのです。問題のローソンというのは、実は河口湖駅とその前にある高速バスターミナルから、徒歩2分の至近距離にあるのです。ですから、閑静な住宅街でも何でもなく、駅前商店街の駅近ゾーンになります。

一番の問題は、河口湖駅の駅前からは富士山は見えないことです。つまりは、結局のところは、駅を降りたら、このローソンが一番「手っ取り早く」富士山が見える場所ということになるのです。そうなれば、人がこの場所へ向かうのは仕方がないということになります。

そもそも、騒動の後、ローソンはものすごい高いところにロゴの看板を出したり、結構商魂を出すようにしていますし、とにかく駅から商店街にかけての人の波は凄いので、もうそれが前提になっているようです。

そもそも、河口湖周辺の外国人観光客は、FUJIQこと富士急グループがマネタイズをしていて、富士急ハイランドにしても、鉄道の富士急行、そして富士急バスなどは、増便増発をしてビジネス的に成功しているわけです。

そして、富士急と言えばオーナー家の堀内家は、自民党に深く食い込んでいるのです。ですから、実際に河口湖の現地では、儲かりこそすれ、オーバーツーリズムで困っているというムードは消えています。つまり「大迷惑だ」というのは、ほとんど幻想なのです。

外国人問題の中で、一番強烈なトラブルという感じで報道されているのが西川口のクルド人です。産廃を扱っていて迷惑だとか、トラックなどで積載量オーバーの運用がある、あるいは内部抗争をしている、などと散々な言われ方をしています。

この問題ですが、産廃に関してはこれは日本社会の陰画という面が強いのです。産廃処理は公害を発生させるので処理場の立地は大変です。人口密度の低い場所に立地させると自然を破壊します。一方で人口密度の高い場所ですと、異臭や騒音などの苦情の原因になります。車両の出入りも問題になります。

そんな中で、以前は反社勢力が法律のグレーゾーンで営業し、行政も黙認するような状況が状態化していたわけです。ですが、時代の流れとともにコンプラとか、規制強化などでそうしたグレー対応も行き詰まったケースが多いようです。その一方で、コストについては、様々な理由から十分に払えないという流れもあります。

こうした産業を取り巻く環境が悪化した中で、一部脱法的な運用も含めて廉価でサービス提供しているクルド人の産廃というのは、地域経済の中で重宝されているということはあると思います。

そうした状況を全てすっ飛ばして、クルド人がケシカランというのは話の筋は通らないと思います。

さて、そのクルド人ですが、そもそもクルド人の居住しているのは、イラク、シリア、イラン、トルコの4カ国に及んでいます。ですが、来日しているのはほぼ100%がトルコ人です。これには明確な理由があります。それはトルコと日本は相互にビザ免除協定を結んでいるからです。どうして、ビザ免除になっているのかというと、日本=トルコ関係がほぼ最恵国扱いになっているからです。

ほぼ最恵国というのは、お互いに巨大文化圏の周縁にあること、欧米の文化圏との関係ということに絞っても周縁にあり、なおかつ非キリスト教国だということがあります。また、明治以来の友好関係もあります。

さらに言えば、巨大帝国を敗戦によって畳んだ歴史が共通しているということもあります。トルコはオスマン帝国の版図を、第一次大戦の戦敗により放棄。日本も第二次大戦の戦敗によって大日本帝国の海外領土を放棄しており、境遇が似ています。

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感情的な嫌悪感だけが独り歩きしている「クルド人問題」

そんなわけで、歴史的に特に為政者相互としては独特の親近感を維持してきたわけで、不思議な二国間関係があります。クルドの人々は、20世紀を通じて独立を模索してきましたが、トルコからも王政イランからも、あるいは革命イランからも、更にはサダムのイラク、アサド父子のシリアからも弾圧を受けてきました。

この4カ国は、「絶対にクルドの国=クルディスタンの独立を認めない」ということで、態度を一貫させています。

そんな中で、トルコにとっては近年は差別感情が緩和されているものの、やはりクルド人にとっての住心地は良くありません。そんな中で、富裕層や知識人の多くはフランスなど欧州に脱出していますが、貧困層は行くところがなく、結果的に日本に流れてきています。

トルコとしては、厄介者が日本に行ってくれるのは基本歓迎ですが、そこで経済力を身に着け、その中からカリスマ的なリーダーが生まれるようだと、これは脅威になってしまいます。ですから、あくまで憶測ですが、リーダーシップの取れるような人物が浮上したら、日本の官憲と共同でコミュニティとの分断を図るようにしている可能性があります。

では、クルド人というのは、日本の友好国であるトルコにとっての厄介な存在なので、日本としては弾圧して良いのかというと、そう簡単ではありません。他でもないアメリカの中東政策にとって、クルド人には「被害者の正義」を認めるというのが、大方針になっています。

イラン革命の際に、革命で良い政権ができたのなら自分たちの独立も認められるはずだとして活動したクルド人に対して、ホメイニの革命政府は大弾圧をしました。

これに対しては人権外交で有名だったカーターは不快感を示しました。それ以上に重要なのがジョージ・W・ブッシュがイラク戦争に踏み切った経緯です。大量破壊兵器を開発中だという容疑に加えて、サダム・フセインがクルド人に対して化学兵器を使用したというのが、イラク戦争の口実の一つとして掲げられていたのでした。日本としては、イラク戦争の後方支援を進める中で、クルドの正義へのコミットもしているのです。

更に、シリアの内戦においても、クルド人の多くはアメリカと連携していました。勿論、アメリカとクルドの連帯というのは、ブッシュ時代とオバマ時代の話であり、トランプはむしろ反対しているようですが、それはそれとして、クルド人の「正義」をアメリカは重視しているということを、日本政府としては無視はできないわけです。

結果的に、西川口にクルド人コミュニティができて、その中にオーバーステイが相当数あるにしても、日本政府が徹底的な摘発をできない、あるいはしないというのは、このためです。

トルコの利害からは「厄介なクルド人を日本に引き受けてもらいたい」「けれどもカリスマ的なリーダーが出てきて団結されるのは困る」という要望が感じられます。アメリカのブッシュ=オバマの路線からは「クルドには被害者としての正義がある」という認識が感じられる中では、日本政府としては曖昧な対応しかできないのです。

問題は、そうした経緯を政府当局が世論に一切説明しなかったということです。その結果として、クルドの味方をするのはド素人の極左グループ、その他の一般世論は排外的で、地元の保守政治家も排外感情を票にしようという中では、トラブルを調整できずに問題がズルズル長期化していると考えられます。問題の背景が伝わらない中で、感情的な嫌悪感だけが独り歩きしているのです。

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帰化要件の厳格化で「敵国の工作」が容易になるという皮肉

一方で、日本国籍への帰化要件を厳しくするという「思いつきの政策」も進められているようです。理由は単純で、永住権の認定には日本国内居住「10年」を要求しているのに、帰化の場合は「5年」というのは逆転しているからというのです。これも非常に妙な話です。

まず、国籍を変えて日本人になろうというのは永住とは比べ物にならない重い判断です。ほとんどの場合は、日本人になったら日本に住むことになるわけで、そうした日本人になって日本に住む覚悟という意味では帰化は永住権よりずっと重いはずです。

だからこそ、5年で良いことにしていたわけで、それを10年に延長というのは妙な話です。5年が10年になることで、困るケースも色々と出そうです。例えば国際結婚で来日した場合、結婚して比較的すぐにお子さんが生まれても、5年で帰化できれば、お子さんが小学校に上がるまでには親御さんとして日本人になれるわけです。その場合に10年というのは長すぎます。

それよりも何よりも、今回の報道で知ったのですが、法務省によると、2024年の国籍取得の申請者数は1万2,248人で、同年中に許可されたのは8,863人だったそうです。つまり年間の帰化というのは、9,000人に満たないのです。

今、日本では、年間160万人が死亡する一方で、出生数は60万台に下がっています。つまり、毎年100万人の人口が減っているわけです。

だったら、これを補うために移民の中から日本人を増やす、そうした決断へ全振りするという時期に来ているとも言えます。その場合に、人口減を補うのであれば、少なくとも数十万人の帰化があってもいいという考え方が成り立ちます。100万丸々は無理でも、数十万であれば多少事態は改善します。

ですが、実態は8,800人、これでは、人口減は加速するばかりです。維持できない市町村が加速度的に増加して、海岸線や離島は荒廃、結果的に敵国の工作は全く容易となる中では安全の保障が破綻していきます。

そんな中で、8,800人しかいない年間の帰化者をもっと減らそうというのですから、これでは敵国のスパイに籠絡されていると言われてもおかしくない話です。

いずれにしても、外国人問題と言われている様々な事象については、詳しく見ていくと全く問題ではなかったり、本質を外した議論がされているケースが多いように思われます。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年12月9日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「迷走する米価、持続可能な政策を考えるとき」、人気連載「フラッシュバック80」もすぐに読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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